仮想通貨にご注意?予想外の落とし穴とは

『みんなの金融―良い人生と善い社会のための金融論』より一部抜粋

(本記事は、駒村 康平氏の編著『みんなの金融―良い人生と善い社会のための金融論』=新泉社、2021年5月27日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

※日本総合研究所理事長 翁百合氏講義箇所から抜粋

仮想通貨とは

仮想通貨とは、ビットコインを想起していただければわかるのですが、誰でも参加できるパブリック型のブロックチェーンだといえます。

ケニアの人もスマホを持っていれば参加でき、例えば私がビットコインを持っていれば、ケニアの人に直接送ることができます。つまり、簡単に個人間でつながることができます。通貨の発行者がいるわけではありません。

一方で、プライベート型やコンソーシアム型の通貨も生まれています。

例えば三菱UFJフィナンシャルグループの「coin」はプライベート型です。これは、パブリック型のように誰でも参加していいというわけではなく、管理者がいて、参加条件が決められているものです。

そして東京証券取引所などがやろうとしているのは、複数企業や組織で運営するコンソーシアム型です。

銀行業などが取り組んでいるのもコンソーシアム型が多いですが、もともとビットコインが草の根でみんながデータを持ち合って共有するということから発想されているものに対して、銀行などはプライバシーを保護しながらサービスを提供しようとしているので、この両立をどのように図っていくかということも大きな課題です。

ビットコインの問題点

現在、実際にブロックチェーンが非常に活用されているのは、仮想通貨においてです。仮想通貨は日本でも不正アクセスによる流出事件をきっかけに規制が強化されましたが、いまもビジネスへの参入意欲を持つ企業は多くあります。

当初、仮想通貨はビットコインだけでしたが、いまはもう2000種類ほどあります。ただ、使用されている仮想通貨はビットコインやイーサリアムなどが中心です。

2016年から制度整備がされ始めたのですが、ビット「コイン」ということなので、日本では通貨に類似のものであるとして、金融庁が中心になって法制度を整備しました。

ところが2017年5月から、欧米を中心に世界中で、ICO(Initial Coin Offering)と呼ばれる仮想通貨による資金調達方法を使って、ベンチャー企業が一気に資金調達をするという動きが急拡大しました。

ニュースなどで見て記憶があるかもしれませんが、その結果、2017年にビットコインの価格が急騰しました。ビットコインは投機の対象となったわけです。

資金調達側はICOを使ってトークンと呼ばれる電子的証票のようなものを発行し、投資家側はそれを仮想通貨で購入します。資金調達側は、その仮想通貨を法定通貨、日本でいえば円に換金して事業に使うというわけです。

そうすると、トークンは高く取引されて、ICOへの応募によって値上がり益を享受する投資家が続出しました。これは儲かるということで、仮想通貨への投機が急速に進んでいったのです。

しかし、このICOの約8割が詐欺だったといわれており、日本でもその後の価格低下で不利益を被った投資家が続出しました。

2017年9月には、中国が国内でのICOやビットコインの取引を停止。日本や欧米でもICOに警戒的となり、日本では金融庁が注意を喚起しました。

これに加えて2018年1月、日本でコインチェック事件という仮想通貨流出事件が起きました。

ブロックチェーンは取引者と取引額の履歴はとれるので、どこに流れたかは大体把握できるのですが、犯人は匿名性の高い仮想通貨と交換するなど様々な手段を使っていたため、最終的にどこに流れたか、いまだに完全には把握できていません。

2016年、日本は仮想通貨交換業者という法定通貨と仮想通貨を交換する業者の登録制を設けていたのですが、コインチェック社は当時、まだみなし登録でした。みなし業者にもかかわらず大々的にビジネスをしていたということで、金融庁も問題視し、仮想通貨交換業者の規制監督を強化する方向になりました。

2018年には業者側も自主規制団体を設立しました。コインチェックも2019年1月には、内部管理体制を整備し、新たに登録が認められ、マネックス証券の完全子会社として再スタートを切っています。

このように仮想通貨は、もう決済などに使われる通貨というよりも、投機商品であると認識され投資家保護という視点を入れる方向で法整備が行われていきました。

そして2019年に改正資金決済法と改正金融商品取引法が成立したのです。これにより、仮想通貨交換業者の流出リスクなどへの対応や、証拠金取引の倍率に上限を設定するなどが進みました。そして名称は、仮想通貨から「暗号資産」へと変更になりました。

なお、2019年、フェイスブックが発行計画を発表したリブラ(Libra)は、仮想通貨ではありません。仮想通貨には発行者はいませんが、リブラは民間企業が発行しようとしているので民間のデジタル通貨に分類されます。

これらはステーブルコイン(stable coin)と呼ばれ、円や米ドルなど5通貨くらいの預金や国債などを裏付けとすることで、価格がそれほど変動しないように工夫し発行が計画されたデジタル通貨です。

民間主体で発行しているブロックチェーンを使ったデジタル通貨は既に日本にもあります。例えば、前述の三菱UFJフィナンシャルグループが進めている「coin」です。

ちなみに、スウェーデンはeクローナ(e-krona)というデジタル通貨を中央銀行が発行しようとしているほか、中国もデジタル元を発行しようという動きがあります。

(日本総合研究所理事長 翁百合氏)

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<抜粋箇所著者プロフィール>

翁 百合(オキナ・ユリ)氏
1960年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。京都大学博士(経済学)。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了後、日本銀行に勤務。1992年に日本総合研究所に入社、現在に至る。金融庁金融審議会委員、財務省財政制度等審議会委員などを務める。著者に『国民視点の医療改革-超高齢社会に向けた技術革新と制度』(慶應義塾大学出版会)、『ブロックチェーンの未来-金融・産業・社会はどう変わるのか』(共著、日本経済新聞出版社)など多数。

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