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6月15-16日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、従来は2024年以降としていた政策金利引き上げの時期を2023年中に前倒しにするというFOMC参加者の見通しが公表されました。2023年中に想定されている利上げ回数は、1回ではなく2回であり、金融市場がみていたよりもタカ派的なFRB(米連邦準備理事会)の姿勢を印象付ける結果となりました。今回の結果には、インフレのリスクに対してFRBがより強く意識せざるを得なくなったという背景があるとみています。
今年のインフレ見通しが上方修正されたことで「平均インフレ目標」達成のハードルが下がったことも、今回の利上げ見通し前倒しの背景であったと考えられます。
不確実性はなお大きく、雇用情勢やCPI上昇率など実際のインフレ率や、長期的なインフレ期待の各種データによっては、早期のテーパリングや利上げ観測が強まりやすいとみられます。このため、当面は想定外のデータが市場を動揺させる可能性が強まる点に注意が必要です。
6月15-16日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、従来は2024年以降としていた政策金利引き上げの時期を2023年中に前倒しにするというFOMC参加者の見通しが公表されました。2023年中に想定されている利上げ回数は、1回ではなく2回であり、金融市場がみていたよりもタカ派的なFRB(米連邦準備理事会)の姿勢を印象付ける結果となりました。私はこれについて、2つの背景があると考えています。
一つは、インフレのリスクに対してFRBがより強く意識せざるを得なくなった点です。FRBは昨年8月のジャクソンホール会合で「平均インフレ目標」政策の導入を決定しましたが、これは、「米国経済は従来ほどインフレになりにくい構造に変わったので、労働市場がある程度タイトになったとしてもすぐに利上げをする必要がなくなった」、という考え方をベースにしたものでした。前回会合までのパウエル議長の発言では、従来よりも緩和的な金融政策のフレームワークの下で、長期にわたって金融緩和を実行していく必要があるというトーンに溢れていました。しかし、4~5月の米国インフレ指標が大きく上振れたことで、FRBはインフレ率の急上昇がもたらすリスクをより重視せざるをえなくなったと考えられます。パウエル議長は今回会合後の記者会見において、「足元のインフレについては一時的な現象とみているものの、インフレ率が再び低下する時期については不確実性が強く、インフレ率が高止まることで長期のインフレ期待を押し上げてしまいかねない可能性」について言及しました。人々が抱く長期のインフレ期待が高まってしまうと、インフレ率が高止まりしてしまうリスクがあり、その場合は政策を躊躇なく調整する必要があるという考え方です。短期的な経済成長とインフレの見通しが引き上げられる中、FOMC参加者はインフレリスクをより強く意識する形で政策金利見通しの引き上げにつながったと考えられます。
FOMCによる政策金利引き上げ見通しが前倒しされたことに関して、私は、「平均インフレ目標」政策の枠組み自体からもたらされるテクニカルな背景もあったと考えています。「平均インフレ目標」政策は一つの景気サイクルの中でのインフレ率の平均が2%になるように、景気後退期のインフレ率の落ち込み分を、その後の景気回復期に2%を超えるインフレを容認することで取り戻す、という考え方がベースです。これが具体的にどのように運用されていくかについては不透明感がありますが、昨年に2%を大きく割った米国のインフレ率は今年に入って既に2%を大きく上回っていることから、インフレを平均的に2%にするという目標を達成するのに2024年まで待つ必要がなくなったと考えることができるでしょう。今回の利上げ時期の前倒しにあたっては、この点も考慮されたとみられます。
今回のFOMCを受けて米10年国債利回りは前日の1.49%から1.58%へと比較的大きく上昇しましたが、これには、6月に入ってから長期金利が大きく低下していた反動という面が大きいとみられます。一方、株式市場ではそれほど大きな動揺はみられませんでした。2023年に2回の利上げが実施されるという見方は既に金融市場でのコンセンサスになっているうえ、今回はFRBによる債券購入の縮小(テーパリング)についての踏み込んだ議論がなかったことで、金融市場はFOMC会合を比較的冷静に受け止めたと考えられます。
今後については、当面は金融政策の先行きについての不透明感が強いとみられます。私は、FRBによるテーパリングについては7月以降のFOMCにおいて開始条件を含む本格的な議論が行われた後、年末までのFOMCにおいて2022年初からのテーパリング開始が決定される公算が大きいとみています。ただし、テーパリングや利上げについての見通しには大きな不確実性が存在していることには引き続き注意が必要です。今回のFOMC後の記者会見では、パウエル議長は「このような状況はかつて経験したことがなく、労働市場、インフレ、金融政策の経路についての確固たる結論を出すことはできない」と述べるとともに、「利上げについては今回のFOMCでは議論もしていない」と言明しており、不確実性の大きさを強調しています。不確実性が大きい状況下では、雇用情勢やCPI上昇率など実際のインフレ率や、長期的なインフレ期待の各種データによっては、早期のテーパリングや利上げ観測が強まりやすいことから、当面は想定外のデータが市場を動揺させる可能性が強まる点に注意が必要です。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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MC2021-110