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ライブコマースが日本で流行らない理由

『買い物ゼロ秒時代の未来地図――2025年、人は「買い物」をしなくなる〈生活者編〉』より一部抜粋

(本記事は、望月智之氏の著書『買い物ゼロ秒時代の未来地図――2025年、人は「買い物」をしなくなる〈生活者編〉』=クロスメディア・パブリッシング、2021年1月29日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

Eコマース市場が伸びる中国で出店ブームの謎

いま、世界一のEコマース大国は中国である。
日本人の感覚からすると、「GAFA」と呼ばれるGoogle、Apple、Facebook、Amazonの発祥の国であるアメリカが、Eコマースでも世界一だというイメージがあるかもしれない。ところが実際は異なる。

2019年の数字を見ても、アメリカのEコマースの市場規模が約5869億ドル(第2位)であるのに対し、中国は約1兆9348億ドル(第1位)と実に4倍近い市場規模となっているのだ。ちなみに日本は約1154億ドルで第4位である。

しかも中国のこの数字は、今後さらに伸びるものと予想されている。アメリカの市場調査会社eMarketerによると、中国のEコマース市場規模は、2020年以降も右肩上がりで膨らみ、2023年には4兆1000億ドルと、わずか4年で倍増すると見られているのだ。

中国はEC化率も非常に高く、2019年は36 ・6%、2023年予想は63・9%となっている。日本の6・76%(2019年)とは大きな隔たりがある。中国の人たちは、もはや私たちの想像を超える世界で生きていると考えたほうがいいだろう。
そんな中国だが、ここまで述べた流れとは逆行する現象も起こっている。EC化率が上昇する中で、リアル店舗の出店ブームが起こっているのだ。

その傾向は、とりわけEC化率の高いコスメ業界で強く、雑貨大手のメイソウ(MINISO、名創優品)の子会社は、コスメのリアル店舗を年間500店舗も増やしている。

普通に考えれば、EC化が進むほど実店舗は不要になるはずだ。ではなぜ、中国ではそれと逆のことが起こっているのか。
その答えは、「体験」にある。

私たちは買い物のプロセスを省略していく一方で、体験を求めている。その商品を見る体験や使う体験、写真や動画を撮ってSNSでシェアする体験。私がスターバックスで感じたほっこりするような体験などもそうだ。商品そのもので差別化が難しくなっている今、生活者は体験で商品やサービスを選ぶようになっているのである。

しかし、オンラインでの買い物では、そうした体験が不足しがちになる。オンラインだけでは体験できないことを、オフラインで体験する(そしてその体験を、SNSを通じて再びオンラインに戻す)ために実店舗が求められているのだ。EC化が進んでいった先で実店舗が急増するという現象は、この先、ほかの国でも起こるだろう。

ライブコマースが日本で流行らない理由

ライブコマースとは、ライブ配信のプラットフォーム上で、ライブ配信者が視聴者に商品を紹介し販売する、新しい買い物の形態のひとつだ。テレビショッピングにも近い形だが、ライブコマースは「売り手と買い手が相互にコミュニケーションを取っている」という点が大きな違いだ。

新しい買い物の形として注目され続けている、この「ライブコマース」だが、日本ではなかなか定着していない。一方、中国ではこのライブコマースが大盛り上がりを見せている。
月間ユニークユーザー数は数億人というから、仮に日本人全員がライブコマースを利用するようになったとしても、それよりも大きな市場規模をすでに抱えていることになる。
日中のライブコマース、いったい何がどう違うのか?

前著でも触れた話だが、ここではまた少し異なる視点で、日中ライブコマースの決定的な違いについて述べてみたい。

結論から述べよう。日本でライブコマースが流行らない理由は、「共感」の違いにある。もう少し具体的にいえば、同性を相手にしているか、あるいは異性を相手にしているかという「ターゲット」の違いだ。

日本でのライブコマースは、たとえば女性アイドルがファンの男性を相手にする構図であることが多い。そのため、女性アイドルは、オンライン上でファンから「投げ銭」などをもらうことで収益を得ている。

しかし、「モノが売れる」というところまではなかなかいかない。これは、もともと日本におけるライブ配信は、いわゆる「オタク文化」が主な起源となって広がってきたことが大きい。

ライブ配信者(ライバー)に詳しい専門家に話を聞いてみても、日本のライブコマースは成功とはほど遠いというのが現状のようだ。そしてその理由は、「異性ターゲット」のモデルになっているからだという。

では、いったい異性ターゲットの何が、ライブコマース隆盛を妨げているというのか。日本でアイドルに投げ銭をする人は、そのアイドルが「かわいいから」「かっこいいから」「面白いから」「見ているだけで気持ちが上がるから」といった動機で投げ銭をする。
そこに「共感」はない。強くあるのは、「好きだ」という感情だけである。

ここからわかるのは、私たちがモノを買うときには、通常、「その商品に関する専門性」に惹かれて買っているにもかかわらず、日本のライブコマース市場には商品知識が豊富なライバーがそれほど多くないということだ。

「かわいい」や「面白い」で人を集めている人が商品を紹介しても、なかなか売れるものではない。私たちは「詳しい」人から商品を買いたいからだ。

その点、ライブコマース先進国の中国では、ライバーは商品知識を持っているということが前提だ。「かわいい」も「かっこいい」も必要ない。面白くなくてもいい。男性ライバーであれば男性をターゲットに、女性ライバーであれば女性をターゲットに、その商品に詳しいライバーが自分に近い悩みを抱える同性を相手に商品を紹介するから、モノが売れやすいのだ。

もちろん日本でも、個別に見れば異性をターゲットにしたライブコマースが成功しているケースもある。特に「応援」がキーワードになっている場合は、視聴者も商品を買おうという気持ちになりやすい。

「このライバーはまだマイナーだけど、オリジナルの商品が売れて有名になったら自分もうれしいな」そんな文脈で商品が売れる可能性はある。だが、その場合も、あくまでその商品の専門性に惹かれて買っているわけではないので、継続性や拡散力は乏しい。マーケット全体が活気づくには、やはり詳しい人が商品を紹介する必要があるだろう。

店舗ビジネスが衰退する米国の「ダークストア」

アメリカの小売業界には、こんなジンクスがある。
「EC化率が20%を超えると、その産業の店舗ビジネスは衰退・破綻が起こる」EC市場規模で世界第2位のアメリカでは、リアル店舗が軒並み閉店に追い込まれている。これは2020年より前に起こっていた傾向だ。

EC化率が平均で10%台のアメリカだが、EC化率20%を超える、書籍・家電・スポーツ・アパレルなどの店舗の閉店が相次いだことから、このようなジンクスがささやかれるようになったのである。

こういった背景から、「店舗ビジネスって、もう終わっているんじゃないか」という人までいる。だが、それは極論であり、私はそうはならないと考える。そのことについては第5章でも述べるが、店舗は役割を変えながら生き残るはずなのだ。
そのパターンは主に2つ。「体験型」と「倉庫型」だ。

「体験型」の店舗でわかりやすいのはナイキだ。ナイキの店舗は近年、体験を重視しており、ただ「モノを売る」だけの場所ではなくなっている。そこに行けばスニーカーが美術品のように展示されており、オーダーメイドでスニーカーがつくれる店舗もある。

自分のデータに合わせて最適なスニーカーを提案してくれるし、とにかくそこに行くだけで気分が上がる体験がデザインされている。生活者にとって、「モノを買う」のはネットで十分。それ以外の体験ができるからこそ、その店に行く理由があるのだ。

もうひとつの「倉庫型」とは、まさにモノが置いてあるだけの店舗だ。モノを買うための店舗というよりも、「顧客の家の近所にある倉庫」のようなイメージである。今あるスーパーマーケットなどはそれに近いが、究極の形としては本当の意味で「倉庫」になる。顧客はもはやそこでは「買わない」からだ。

顧客が買うのは、デジタルシェルフ上である。つまり、オンラインで注文し、あとは配送業者が商品を家に運んでくれる。しかもその配送業者は、大手配送業者ではなく、「ギグワーカー」が中心となる。ギグワーカーとは単発で仕事を請け負う労働者のことで、日本でも急増したウーバーイーツの配達員などがそれにあたる。

顧客が実際には足を運ばない、このような物流倉庫を、「ダークストア」と呼ぶ。アメリカではすでにこのダークストアが広がっており、従来型の店舗の必要性が年々薄くなっているのだ。

望月智之(もちづき・ともゆき)
株式会社いつも 取締役副社長

東証1部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつも を共同創業。
同社は消費財ブランドに対するD2C・ECコンサルティング会社として、現在までのべ9500案件以上を支援し、2020年12月には東証マザーズ上場。
自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。
デジタル消費の専門家として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、ブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。

番組ナビゲーターを務めるニッポン放送「望月智之 イノベーターズ・クロス」のほか、J-WAVE、東洋経済オンライン、ダイヤモンド・オンラインなど、メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。
著書に『2025年、人は「買い物」をしなくなる』がある。

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