物欲から解放されるには「ゆっくり選ぶ」ことが重要

『60過ぎたらコンパクトに暮らす モノ・コトすべてを大より小に、重より軽に』より一部抜粋

(本記事は、藤野 嘉子氏の著書『60過ぎたらコンパクトに暮らす モノ・コトすべてを大より小に、重より軽に』=講談社、2020年8月28日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

ゆっくり選んだベッドはシングルのマットレス2つ

いまのコンパクトなマンションに引っ越すときに、本当にたくさんのものを処分しました。広さが半分以下になるのですから、ものも半分以下に減らさなくてはいけません。知らず知らずのうちにため込んでいたものたちの多くは、なくても困らないものでした。

生活に必要なものはそれほど多くはないとわかって、もっと、もっと、という物欲のようなものともうまく距離を置けるようになっています。何かが欲しいと思ってもすぐに飛びつくのではなく、本当に必要なのか、ないとどれくらい困るのかを考えるようになったのです。

だけど、買うことを我慢しようとするのではなく、自分や家族が快適になるものは、しっかり吟味したうえで買っています。

今の家に引っ越して以来、一番大きな買い物は、ベッドです。前のベッドは30年くらい使いましたから、これから買うベッドもそれくらい使うことになるだろうと、夫と一緒に国内メーカーのものから輸入品までたくさん見てまわりました。

ベッドはやはり寝てみないとわかりません。年齢や体型、性別や筋力などでも合うものが違います。だから店舗で横になっては確かめて、自分たちに合うものをじっくり探しました。

あまりにこれまで使っていたものと違うものを選ぶと慣れるのに時間がかかるというアドバイスもあって、前に使っていたウォーターベッドに近い、低反発のベッドも試しましたが、最後に選んだのは、フランスベッドのリハテックというシリーズのマットレスです。

ブレスエアーエクストラという素材を使っていて、体重を押し返してくれるので楽に起き上がれること、通気性がいいことが決め手になりました。この先、年齢を重ね人生に占める睡眠時間の長さや健康を考えれば、多少奮発しても投資になります。目覚めもよくなりました。

私にとってうれしかったのは、ダブルベッドではなくシングルのマットレスを2つにして、夫と私、硬さの違うマットレスにしたことです。検討していて、夫は硬め、私は柔らかめのマットレスが合うことに気がついたので、どちらかが我慢するのではなく、それぞれがそれぞれに合うものを買えて、とてもよかったと思います。年齢のことを考えれば、これは私たちにとって最後のベッドになるのかもしれません。

そして、こんなに何かをじっくり2人で考えて選んだのは、初めてのような気がします。これまでは勢いのあるほう(ほとんどの場合は夫です)が、ぐいぐいとことを運んでいましたが、お互いに心と時間の余裕ができたのです。

ベッドが届いた最初の日から、ぐっすりと眠れました。

処分するより再利用を考える

買うことと同じくらい、捨てることにも慎重になっています。不用だと思っても一歩引いて、ほかの使い道はないかと考えるようになったのです。

自宅で使っている椅子は、イタリアのインテリアブランド、カッシーナのものです。

とてもいい椅子で、夫のレストランで使っていたものをそのまま自宅にもってきたので、もう30年近くになります。座面がかなりくたびれていたのですが、骨組みはしっかりしていますから、処分するのではなく座面を張り替えることにしました。費用は安い椅子を買うくらいかかったのですが、新しく生まれ変わったのですからいいのです。張り替えは今回で3回目になります。

インテリアは夫が主体になって選ぶことが多いのですが、これは私が娘に相談して椅子の張り替えひとつでリビング全体がとても明るくなりました。毎日座るのが楽しくなります。

祖母から譲り受けた明るい飴色のかんざしと、片方なくしたシャネルのイヤリング。ブローチとして活き返りました。

生地の見本を取り寄せ、色は暖色系に決めました。とても気に入っています。

捨てることで気持ちが軽くなると気づいてから、どんなものでも思い切りよく捨てるようになりました。

だけど、ものが減るのはいいこととばかりに、よく考えないで捨ててしまうこともあって、あとになって、捨てなくてもよかったのではないかしら、と思うこともありました。

そこで髪につける和装用のかんざしや片方なくしてしまったイヤリングは、ブローチがわりに使っています。

もう使わないからとあっさり捨てるのではなく、何かに使えないかと楽しんで考えてみるのです。今はそうやって、応用力をつけているので、捨てるときはもう十分、使い切ったと満足できるようになりました。

ものを大事にすることが、少しずつ上手になっています。

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藤野嘉子(ふじの・よしこ)
学習院女子高等科卒業後、料理家に師事。フリーとなり雑誌、テレビ(NHK「きょうの料理」)、講習会などで料理の指導をする。「誰でも簡単に、家庭で手軽に作れる料理」「自然体で心和む料理」を数多く紹介し、その温かな人柄にファンも多い。
著書に『女の子の好きなお弁当』(文化出版局)、『料理の基本 おいしい和食』(永岡書店)、『一汁一菜でいい!楽シニアごはん』『がんばらなくていい!楽シニアの作りおき』『生き方がラクになる60歳からは「小さくする」暮らし』(以上、講談社)など多数。
夫はフレンチレストラン「カストール&ラボラトリー」のシェフ、藤野賢治氏。

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