米大統領候補者討論会、トランプ大統領のウイルス感染、米雇用統計

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3つのイベントが市場と経済に与える影響について

〔要旨〕

●米大統領選挙は、選挙後の異議申し立ての可能性があるものの、市場のボラティリティの高まりは一時的と予想
●雇用統計を受け、議会での追加の景気刺激策への取り組みが促される可能性も

1. 米大統領候補者討論会
大統領選の異議申し立ての可能性が高まるものの、市場への影響は短命に終わるだろう

2. トランプ大統領の新型ウイルス感染
大統領の感染が景気対策の議会通過の契機となる可能性が浮上

3. 米雇用統計
州・地方政府の雇用が悪化するなど、米国経済の減速が明らかに

結論
十分に分散されたポートフォリオを維持することが重要

今週のイベント
米副大統領候補討論会が最大の注目イベント

①大統領候補者討論会、②大統領の感染、③雇用統計―について考察する

前週、市場を驚かせるさまざまなニュースが流れました。火曜日に開かれた米大統領候補者討論会での混乱ぶりがニュースのヘッドラインを数日間飾っていましたが、金曜日にトランプ大統領とメラニア夫人が新型ウイルスの検査で陽性だったことが明らかにされると、その関心は一気に大統領の感染に移りました。そのような中、失望的な内容となった米国の雇用統計は、あまり注目を集めませんでした。本稿では、経済と市場への影響という観点から、これら3つの問題を取り上げます。

1. 米大統領候補者討論会

混乱ぶりが目立った討論会

第1回の大統領選挙討論会は、控えめに言ってもまとまりのない、視聴者にとってストレスのたまるものであった、というのが私の意見です。まるで、私の3人の子どもたちが幼児だったときの会話のようで、あのように３人の大人のまとまりない話を聞かされた記憶は無いように思います。討論会中に確認したいと思っていた実質的なトピックは、残念ながら、ほとんど議論されませんでした。

市場に与える影響

大統領選の異議申し立ての可能性が高まるものの、市場への影響は短命に終わるだろう

私が考える今回の討論会を受けての重要なポイントは、バイデン氏が勝利した場合、トランプ大統領が異議申し立てする可能性が高い、というものです。そして、異議申し立てがなされた場合、選挙当日もしくはその後の社会的な不安への懸念も高まったように思います。しかし、前回述べたように、異議申し立ては市場のボラティリティを高める可能性が高いものの、それは短期間で終息すると考えます。トランプ大統領は訴訟が数年かかる可能性があると述べていますが、訴訟があろうとなかろうと、次期大統領は2021年の就任日までに決まります。したがって、市場でボラティリティが高まったとしても、長期的な視野を持つ投資家への影響はわずかであると予想しています。さらに、市場にとってより重要なものは金融政策であり、政治の舞台の何よりも大きな影響を与えると考えます。そして、金融政策は株式市場に対し、引き続きサポート要因となっています。

経済に与える影響

経済についての実質的な議論はほとんど見られず、今回の討論会は経済への影響を考察できるものではありませんでした。

2. トランプ大統領の新型ウイルス感染

衝撃を与えたトランプ大統領の感染

金曜日の朝、トランプ大統領は、新型ウイルスの検査で陽性だったとツイートしました。そして、その日の米国の株式市場の取引終了後、大統領は入院しました。

市場に与える影響

過去、指導者に関する重大な事件が起こった際、株価はすぐに反発

大統領の感染が市場に与える影響について、過去を振り返って考察しようと思います。過去、2つの印象的な出来事がありました。１つめは、1963年のジョンF.ケネディ大統領の暗殺です。取引所は通常よりも早く閉まったものの、ケネディ大統領の死亡のニュースを受け、株式市場は急落しました。しかし、その数日後に市場が再開したとき、株価は反発しました ¹ 。２つめは、1981年のレーガン大統領の暗殺未遂事件です。このときも、株価は急落し市場は取引を中止しましたが、数日後に市場が再開すると、ダウ工業株30種平均はその後数日で7％以上上昇 ¹ するなど、株価の反発が確認されています。また、以前に世界の指導者が新型ウイルスに感染したとき、市場に与えた影響も参考にすることができます。例えば、英国では、MSCI英国インデックスは、ジョンソン英国首相が新型ウイルスの軽度の症状が見られた3月26日から、2020年の最安値を記録した4月3日にかけて6.2％低下しました。しかしその後、同指数は回復し、4月3日から10月1日時点までに8.9％上昇しています ² 。

経済に与える影響

大統領の感染が景気対策の議会通過の契機になる可能性

大統領の感染により、米国人ならば誰もがウイルスに感染することが認識され、米国内でマスクの着用がさらに広がることが予想されます。その結果、新型ウイルスの感染拡大のペースが鈍化する可能性があることから、特に、今秋に起こりうる第2波が懸念される中、これは経済への大きな追い風になるはずです（そして、大統領選挙のキャンペーンに関連するイベントの中止も、この先数週間のウイルスの拡散の抑制につながるでしょう）。また、ペロシ下院議長は、大統領の新型ウイルス感染により、上院共和党員が新型ウイルスの脅威を認識したことで、さらに大規模な景気刺激策が同意される可能性があると述べていますが、私も同議長の考えと同じ見解を持っています。（さらに、大統領の感染が明らかになった24時間以内に、ウィスコンシン州のロナルド・ジョンソン共和党上院議員、ユタ州のマイケル・リー共和党上院議員、ノースカロライナ州のト－マス・ティリス共和党上院議員が、新型ウイルスの検査で陽性だったことを発表しました ³ 。）

3. 米雇用統計

州・地方政府の雇用が悪化しており、米国経済の減速が明らかに

金曜日は大統領の健康状態に関心が集まった結果、9月の米雇用統計はあまり注目されませんでした。しかし、市場予想よりもはるかに少ない雇用増加は経済成長の鈍化を示しており、この統計は注目されるべきものです。失業率のヘッドライン数値は低下しましたが、これはデータのゆがみによるものです。中身を見ると、積極的に仕事を探している労働者が少なくなったため、労働参加率が低下しています。さらに、一時的ではなく恒久的な失業として分類される労働者が増加しています。そして、州および地方政府の雇用悪化も確認されています。主に教育関連の雇用削減が見られ、新型ウイルスの大流行（パンデミック）のための学校開校の延期が原因であると考えられますが、これは州政府および地方政府への援助の必要性を明確に示しています。経済成長の鈍化は、これまでの「K字型」回復（好調な業種と不調な業種の差が明確になること）がさらに鮮明になる可能性をもたらすでしょう。高所得の米国人は景気回復側の恩恵を最も受けており、低所得の米国人は景気後退の影響に苦しんでいます。

市場に与える影響

議会での議論の進展を見込みシクリカル株や10年債利回りが上昇

今回の雇用統計を受けて、議会での景気刺激策の交渉が進展するとなれば、これは市場にはポジティブな要因です。私は、議会での議論が進展する可能性が高まったと考えていますし、前週金曜日に米国のシクリカル株や米10年国債の利回りが上昇し、金が下落した背景とも考えられます ⁴ 。

経済に与える影響

強力な景気刺激策の議会通過を後押しする材料に

雇用統計以外でも、さまざまな経済指標から、経済成長の鈍化はより明らかになっています。今回の雇用統計は、強力な景気刺激策の議会通過を後押しするのに十分な材料と考えられます。

結論

十分に分散されたポートフォリオを維持することが重要

前週の一連の出来事により、大統領選挙前の最後の数週間における不確実性は増加しました。市場のボラティリティは、政治的な不確実性に影響をうけることを理解しておく必要はありますが、現在は大規模な金融緩和政策が市場を下支えしている環境下にあります。私たちは、十分に分散されたポートフォリオを維持することが重要であると考えます。そして、株価が大きく下振れした場合は、それが投資機会となりうるという認識も重要でしょう。

今週のイベント

米副大統領候補討論会が最大の注目イベント

今週は、欧州中央銀行（ECB）ラガルド総裁の講演や、9月の米連邦公開市場委員会（FOMC）議事要旨の発表などがあります。市場は金融政策を重要視しているため、これらはともに注目されるでしょう。

しかし、今週の最も注目を集めるイベントは、10月7日の副大統領候補討論会と考えられます。トランプ大統領は入院中（訳者注：2020年10月5日（現地時間）に退院）であり、感染の可能性からバイデン前副大統領は、新型ウイルスの検査を受けています。そして、両候補者ともに高齢なことから、副大統領候補者の重要性はこれまで以上に増しています。両副大統領候補者が大統領として務めを果たすことができるかを確認できるよい機会と考えられます。おそらく、１回目の大統領候補討論会で見られなかった、両候補者のそれぞれの政策も明確に示され、議論されることでしょう。

1.株式はダウ工業株30種平均。出所：dividend.com、“How the Dow 30 Reacts to Major Events”、2014年12月22日。
2.出所：ブルームバーグL.P.。
3.出所：CNN、“Senate GOP’s third positive Covid-19 case threatens quick Barrett confirmation”、2020年10月3日。
4.出所：ブルームバーグL.P.、モーニングスター。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

 

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MC2020-151