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【臨時レポート】「ポスト安倍」と金融市場

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安倍首相辞任による短期的な市場へのインパクトは限定的か

8月28日における安倍首相の辞意表明は日本中に衝撃を与えましたが、首相による辞意表明の金融市場へのインパクトは短期的には限定的であると考えられます。現在報道されているスケジュールでは、自民党は9月中旬に新総裁を選出し、新首相が誕生する運びですが、日本経済がコロナ危機に直面する中ではコロナ対策の着実な実施が政策の最優先課題であり、これは誰が新総裁に選出されたとしても変わらないとみられます。財政政策面では、政府は既に成立した2つの補正予算を実行中です。今後の感染状況によっては新規のプログラムが必要になる可能性がありますが、第2次補正予算では大規模な予備費が計上されていることから、当面のコロナ対策は追加的な予算措置なしに実施可能と見込まれます。金融政策面でも、黒田総裁の下で日本銀行が大規模な緩和策を実施中であり、新内閣が現在の金融政策の枠組みの変更を働きかける可能性は低いと考えられます。金融市場の一部には、安倍首相の辞任を受けて黒田総裁が任期満了前に辞任するとの見方がありますが、黒田総裁が日本銀行の独立性を自ら否定するかのような行動を起こすとは思えません。

金融市場における実際の足元までの反応も限定的でした。安倍首相の辞意表明の記者会見は28日午後5時から実施されましたが、同日午後2時過ぎには安倍首相が辞任の意向を固めたニュースがNHKなどによって広く報道されていたことから、金融市場では同日中に辞任のニュースを織り込んだ相場展開となりました。比較的大きな反応をみせたのはドル円レートであり、辞意のニュースが流れる直前の1ドル=106.7円から同日の海外市場では105.3円付近まで円高ドル安が進行しました。これは、安倍政権という、経済政策面で多大な実績を残してきた政権が突然終わりを迎えることになったイベントに対する市場の反応としては自然なものであったと考えられます(首相の辞任が市場にもたらす不透明感が円高ドル安の動きをもたらしたと言えます)。もっとも、円高ドル安の動きが継続する可能性は低いとみられます。ドル円レートを動かす主役は日米の金利差ですが、8月27日にFRBが平均インフレ率目標への変更を決めて以降、米長期金利の上昇によって円安圧力が生じており、円高方向の動きが短期的に定着するとは思えません。

一方、株式市場では、日経平均株価指数が安倍首相辞任の報道を受けていったんは3%程度下落しましたが、その後1%程度戻して引けました。株価の下落幅がこの程度にとどまったのは、新政権でも経済政策には大きな変化がないとの見方が市場で強いことを反映していると考えられます。なお、債券市場における辞任報道のインパクトは非常に限定的でした。

新政権に期待される「改革への前向きさ」と「改革実行力」

2012年12月から実行に移されたアベノミクスの「3本の矢」は、日本経済の活性化に大きく寄与しました。3本の矢のうち、成果が上がったのは第1の矢である「大胆な金融政策」と第2の矢である「積極的な財政政策」だけであるという見方も一部にありますが、私はそうは思いません。第3の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」は少なくとも安倍政権発足後の数年間は経済の活性化に大きな役割を果たしたと考えられます。安倍政権下の成長戦略は「構造改革」と言い換えることができると思いますが、その重要性は欧米では広く認識されています。2014年のジャクソンホール会議において、マリオ・ドラギECB(欧州中央銀行)総裁(当時)は、「構造改革を決意をもって実行しなければ、需要を創出する政策はすぐに失速し、最後にはあまり効果的ではなくなる。別の言い方をするなら、雇用を増やすには、金融政策、財政政策、構造改革を合わせたポリシーミックスを実行する必要がある」と述べています。

安倍政権下の成長戦略がしっかりしたものでなければ、海外からの日本株投資が大きく増加することはなく、日本株の上昇も限定的であったと考えられます。安倍政権の後半には成長戦略の着実な実施に向けての熱気がやや後退したことは事実ですが、私自身が多くの海外投資家と接してきた経験からは、多くの海外投資家は安倍政権が「改革への前向きさ」を有する政権であるという理解の下で、日本株への投資を行っていたと思われます。

この点を踏まえると、今後、海外投資家からみた日本株市場への信頼感を維持するためには、新政権が成長戦略あるいは構造改革に対して前向きのスタンスを示すことが肝要と考えらえます。安倍政権下では、「経済財政諮問会議」や「未来投資会議」の議長を安倍首相自身が務めるなど、官邸主導で構造改革を実施してきました。新政権が改革に対するコミットメントを示せなければ、改革に対して後ろ向きであるとのシグナルが市場に送られ、株式市場からの信頼感が損なわれるリスクが生じます。

改革を着実に実行するためには、実行力を有する安定した政権であることも重要です。選挙に強さを見せた安倍政権下では、仮に総選挙が実施されても政権が野党に移行する可能性は低いとの見方が一般的でした。このため、改革実行力についての懸念はそれほどなかったように思われます。一方、新政権の場合は、改革実行力についての物差しとして、世論調査における内閣支持率がこれまで以上に重要視されることが見込まれます。

木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト

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