地域社会開発を目的に、銀行から融資を受けにくい地元の中小企業や団体などに投資する「コミュニティ投資(Community Investment)」。日本では未だ発展段階にありますが、欧米では、環境・社会・ガバナンスを配慮するESG投資の一種として、機関投資家から個人投資家まで幅広い層から注目を集めています。
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コミュニティ投資は、地域社会・環境への影響を重視する「インパクト投資」の一種として定義され、その中でも社会的弱者や支援の手が行き届かないコミュニティに対するものを指します。具体的には、地域のビジネスや施設を支援したり、再生可能エネルギー計画へ資金を提供したりといった経済的支援活動を通じて、コミュニティや社会へ貢献することを目的としています。
通常、コミュニティ投資は、NGOや金融機関、協同組合、財団、慈善団体、公的資金提供機関などを介し、助成金やローン、または株式などの形式で行われます。クラウドファンディングの普及に伴い、近年は一般の投資家でも少額から投資できるものもあります。
商店や企業、スポーツクラブ、住宅開発や教育プロジェクト、イベント、慈善事業など、何をやるにしても運営規模が小さければ小さいほど、銀行や市から融資を受けにくいのが現状です。
例えば、「店舗や施設をリフォームしたら集客の拡大が期待できるが、銀行から融資を受けられない」といった声は珍しくありません。コミュニティを活性化する可能性を秘めているにも関わらず、資金不足が原因で十分な社会的あるいは経済的利益を生みだせていないというわけです。
コミュニティ投資により地域社会が活性化されれば、住民の生活水準の向上だけではなく、長期的には人口や雇用、ビジネスの増加といった経済的利益を生みだすことが期待されます。
コミュニティ投資は機関投資家に、主に以下のようなメリットをもたらします。
1.地域社会開発や地域経済の活性化への貢献
2.人々と社会に対する責任の認識、コミュニティに対するポジティブな影響
3.従業員のコミットメントと定着率の向上
4.地域ネットワークの強化
世界のESG投資額の統計を集計している国際団体GSIAの調査報告書「Global Sustainable Investment Review(GSIR)」からは、「顧客からの要求」「社会的または環境的利益の追求」「長期的な収益の改善」「組織の使命や価値の実現」などが、ESG投資の動機であることが明らかになっています。
前述した通り、コミュニティ投資の目的は、金融機関から融資を受けることが困難な社会的・経済的弱者への支援を通し、地域社会に貢献することです。そのため、通常の金融商品と比較すると金銭的リターンが低いという特徴があります。
しかしあくまで長期的な投資であり、「社会貢献しながら少額でリスクの低い投資をしたい」という個人投資家や「利益を社会に還元したい」といったサステナビリティな経営概念をもつ企業にとっては、最適な投資でしょう。
GSIRによると、2016~2018年にかけて、世界のコミュニティおよびインパクト投資は2,484億7,000万ドル(約26兆 7,749億円)から4,442億6,000万ドル(約47兆 8,665億円)へと、79%の成長率を記録しました。
特に英国では、クラウドファンディングなどを活用した新しいコミュニティ投資モデルが活発化しており、2009年から現在までに、ほぼ12万人の投資家が総額1億ポンド(約134億6,905万円)以上を350のコミュニティ・ビジネスに投資しています(communityshares.org.ukより)。
コミュニティ投資モデルのクラウドファンディングは少額から投資が可能なため、機関投資家だけでなく、一般の投資家にも参加しやすい仕組みになっています。
機関投資家がコミュニティ投資を行うためには、いくつかの方法があります。例えば米国では、地域開発金融機関(CDFI)やコミュニティ投資ファンドに投資する方法が一般的です。
米農務省とバンク・オブ・アメリカによるコミュニティ開発金融機関への低利子長期融資や 、英HSBCによるコミュニティファンド設立、コカ・コーラとビル・アンド・メリンダ財団などによる第三諸国への医薬品・医療品配送プロジェクトなど、金融機関や大手企業が単独あるいは提携してコミュニティ投資を行う例も多々あります。
企業や機関投資家がコミュニティにおける、雇用主やサービスプロバイダー、あるいは投資家としての役割を認識することにより、地域の住民は多大なる利益を得ることができます。その利益は、いずれ様々な形で自社の利益となって反映されるでしょう。