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新興国市場への注目度が高まる

新興国市場への注目度が高まる

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要旨

新興国市場をサポートする5つのポイント

4月9日にトランプ米大統領が打ち出した相互関税の延期措置や5月12日に締結された米中の暫定合意を受けて、新興国通貨・株価は上昇トレンドに入りました。この背景としては、ドル安の進展、トランプ政権の通商政策の柔軟化、投資家の新興国投資に対するリスク許容度の上昇、米国一極集中の動きの後退、新興国の中央銀行による積極的金融緩和の動き、が指摘できます。

新興国への資金フローは短期的に続く。その後は、選別色が強まる可能性

今後数カ月の間は先進国からの新興国への資金フローは比較的強めになるとみられ、株式市場における前向きの動きが見込まれます。一方で、新興国・地域への証券投資は、時間の経過とともにより選別的になると見込まれます。そうした中、アジア地域では、インド株市場が特に注目されます。また、インドネシア株市場も注目されます。

※来週は、小職の出張により発行をお休みさせていただきます。次号は6月12日に発行の予定です。

新興国市場をサポートする5つのポイント

当レポートの先週号(「米国一強」の構図は変化するか?)では、当面注目される市場として、欧州市場と共に、中国を除く新興国市場を挙げました。今週号では、4月9日に発表されたトランプ米政権による相互関税の適用延期措置の後、大きくリバウンドしてきた新興国株式市場に注目したいと思います。一言で新興国市場と言っても、その所得水準や産業構造、輸出競争力、輸出への依存度、財政の健全性、地政学的リスクなどの点で非常に多様ですが、2024年末までは、多くの国・地域の通貨に対するドル高のトレンドが長期にわたって継続する中、通貨や株価のパフォーマンスには出遅れ感がありました。米国の政策金利の高止まりによるドル高傾向が続く中、米国の投資家による海外資産への投資は慎重化し、新興国への投資もその例外ではありませんでした。「ドル金利が高水準になると、企業によるドル資金の借り入れが多い新興国の債務返済負担が重くなる」というこれまでの経験則も、先進国から新興国への証券投資を慎重化させたと考えられます。

2025年に入ってからも、アジア地域の新興国ではそうした状況が続きました。トランプ政権が対中での追加関税措置を公表する中、中国を含むサプライチェーンへの依存度が強いアジア新興国への悪影響が懸念されたことがその主な背景です。また、新興国の多くに追加関税が課せられるのではという懸念も強まり、新興国への証券投資にはさらにブレーキがかかりました。これらの懸念はトランプ政権が4月2日に相互関税措置を発表するとピークに達しました。

しかし、4月9日にトランプ大統領が相互関税のうち、10%を超過する部分の関税の徴収を90日間延期する措置を発表したことで、米国を含む先進国市場だけではなく、新興国市場にも安堵感が広がりました。新興国市場も、この際に転換点を迎えたと言えるでしょう。その後の新興国通貨・株価は相互に関連する5つの好材料に支えられて上昇トレンドに入りました(図表1、2)。

(図表1)主要新興国・地域:対ドル為替レートの推移

(図表2)主要新興国・地域:主要株価指数の推移 ―現地通貨建て―

(図表2)主要新興国・地域:主要株価指数の推移 ―ドル建て―

第1は、ドル安の進展です。 金融市場では、追加関税による米国景気の悪化やFRBの利下げについての織り込みが進展したことで、世界的なドル安の動きが加速し、新興国通貨に増価圧力がかかりました。

第2は、トランプ政権の通商交渉に対する姿勢が柔軟化したという認識が広がった点です。5月12日に締結された米中間の暫定合意や米国と一部の新興国間のディールを巡る通商交渉が進展しているというニュースが、トランプ政権の政策による新興国景気へのダメージを和らげるとの期待感を強めました。

第3は、新興国の通貨高・株高が進行したことで、投資家の新興国市場向け投資に対するリスク許容度が上昇したとみられる点です。これにより、グローバル市場において、投資家が新興国向けの株式投資により積極的になったと考えられます。米国の投資家はドル安の動きの中で新興国投資により積極的となったとみられます。また、その動きを見たユーロ圏やその他欧州の投資家も、自国の政策金利が引き下げられる中で、従前よりも積極的にリスクを取って新興国株式への投資を進めたとみられます。

第4は、第2期トランプ政権誕生後にグローバル株式市場における米国一極集中の動きが後退した点です。米国以外の株式投資家は、2024年末までは、米国一極集中の動きに追随することによって比較的大きなリターンを享受することができましたが、トランプ政権による様々な政策によって投資家の米国資産への信頼度が低下したことで、新興国への投資比率を引き上げる動きにつながりつつあると考えられます。当レポートの先週号でふれたように、私は、米国資産を再評価する動きが2025年10-12月期ごろに強まるまでは、欧州や日本と並んで、新興国への投資フローが一時的に増加する公算が大きいと考えており、新興国株式市場への追い風になると予想しています

第5は、インフレ率の落ち着きやドル安により、新興国の中央銀行が金融緩和を積極的に推進する可能性が強まったことです。非常に高水準のインフレが続くトルコや高めのインフレ率が続くブラジルでは足元で利上げの実施を余儀なくされているものの、その他の主要新興国・地域では2024年後半から利下げサイクルに入り、2025年に入ってからもそれが続いています(図表3)。2025年後半も利下げの動きが継続し、株式市場には追い風になると見込まれます。先に挙げたトルコとブラジルを除けば、インフレ目標を設定して中央銀行が金融政策運営を行っている主要新興国の全てにおいて、足元でのインフレ率が中央銀行の目標レンジ内にあります(図表4)。トランプ政権の追加関税策がもたらす悪影響により、新興国は4-6月期から今年末にかけて、一時的な景気減速局面に入ると見込まれます。この点は株価にはマイナス材料になるものの、その悪影響は既に株価におおむね織り込まれていると考えられるうえ、多くの国では今後の金融・財政両面からの政策対応によってその悪影響が緩和されると見込まれます。

(図表3)主要新興国・地域:中央銀行による政策金利変更の推移

(図表4)主要新興国:金融政策上のインフレ目標と直近のインフレ率

新興国への資金フローは短期的に続く。その後は、選別色が強まる可能性

今後の新興国株式市場のパフォーマンスは、トランプ政権の追加関税政策や新興国各国とのディールの進捗に大きく左右されると見込まれます。それでも、今後数カ月の間は先進国からの新興国への資金フローは比較的強めになるとみられ、株式市場における前向きの動きが見込まれます。もっとも、新興国・地域への証券投資は、時間の経過とともにより選別的になると見込まれます。具体的には、米国の追加関税策をはじめとする外部ショックへの脆弱性や金融・財政政策の対応の柔軟性、中国からの製造拠点のシフト状況などに左右されるとみられます。

アジア地域の新興国の中では、私が最も注目しているのはインド株市場です。また、インドネシア株市場についても注目に値すると考えています。これら2か国では、潜在成長率の水準が比較的高く、株式市場が中期的な成長の恩恵を受けやすいとみられる他、米中間の貿易面での緊張関係の高まりによって対内直接投資の増加が見込まれます。また、昨年の後半から大きく下落した株価がまだピークの水準にもどっておらず、今後、両国への株式投資は、株価のリバウンドによる恩恵を享受しやすいと考えられます

木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト

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