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中国の全国人民代表大会(全人代)が3月5日に開幕し、2025年についての中国政府の目標や財政刺激政策の内容が明らかになりました。実質GDP成長率目標としては、2024年と同様の「5%程度」が掲げられました。この成長率目標は、中国経済が大きな課題に直面している現状をふまえれば、かなり野心的な目標と評価されます。
全人代では、地方政府性基金からの支出を含めた2025年の政府の支出を前年の水準から2.86兆元増やす予算案が公表されました。金融市場で期待されていた規模は3~4兆元程度とみられることから、今回の予算案で示された財政刺激策はほぼ想定通りであったと判断されます。2025年における財政政策による直接的なGDP押上げ効果については、2.2%ポイントと試算されました(図表3をご覧ください)。
5%成長の達成を阻むリスクとしては、地方政府性基金による土地の使用権の売却が、予算通りにすすまないリスクが重要です。また不動産市場の問題を背景とした消費の伸び悩みリスクや対米関係のリスクも重要です。それでも、追加的な財政刺激策が講じられることで、2025年の中国経済は4%台の実質GDP成長率を確保することが可能であると見込まれます。
中国の全国人民代表大会(全人代)が3月5日に開幕し、2025年についての中国政府の目標や財政刺激政策の内容が明らかになりました。実質GDP成長率目標としては、2024年と同様の「5%程度」が掲げられました。この成長率目標は、中国経済が大きな課題に直面している現状をふまえれば、かなり野心的な目標と評価されます。
現在の中国経済は、住宅の供給過剰問題、製造業における生産設備過剰問題、不動産価格の下落による消費マインドの低迷、米国向けの輸出への追加関税、などの成長制約要因に直面しています。特に、住宅分野の課題は大きく、私が試算したところ、中国の2024年末において不動産開発業者が抱える住宅在庫は4900万戸を超えていました。この在庫水準は、2024年における年間販売戸数が814万戸であったとみられることをふまえると、6年分の販売戸数に匹敵する水準です(図表1)。昨年秋から実施された住宅面の政策対応策はこの在庫問題を解決するようなインパクトはなく、供給過剰に伴う関連産業の需要低迷はまだ当面継続する可能性が高いとみられます。一方で、2025年の消費者物価上昇率についての目標は「2.0%程度」に設定され、長年の目標値であった「3%程度」の水準を下回りました。中国では、供給過剰問題が住宅関連分野以外にも広がり、幅広い範囲でデフレ圧力が生じています。2023年、2024年の消費者物価上昇率は、ともに、0.2%にとどまりました。この現状を踏まえるとインフレ目標を2%に引き下げることは現実的な選択であったと言えるでしょう。
野心的な成長率目標の達成には、財政刺激策が不可欠です。金融市場において、今回の全人代で最も注目されていたのは、中国当局が発表する財政刺激策の規模でした。昨年9月以降に実施された政策には、大規模な財政刺激策の実施が含まれておらず、金融市場ではかなりのGDP押上げ効果を伴う政策の発表を織り込んでいたと考えられます。
そうした中、全人代では、地方政府性基金からの支出を含めた2025年の政府の支出を前年の水準から2.86兆元増やす予算案が公表されました。金融市場で期待されていた規模は3~4兆元程度とみられることから、今回の予算案で示された財政刺激策はほぼ想定通りであったと判断されます。2.86兆元の支出増加額のうち、中央・地方政府の本予算での支出増加が1.13兆元、地方政府性基金による支出増加が1.73兆元でした。この支出増加をファイナンスするために、①中央・地方政府本予算のGDP比でみた財政赤字額の、従前の「3%程度」から「4%程度」への引き上げ、②地方政府特別債の発行額の3.9兆元(2024年)から4.4兆元への増額、➂中央政府による超長期国債発行額の1兆元(2024年)から1.3兆元への増額―などの措置が盛り込まれました。
このように公式の財政赤字のGDP比は「4%程度」に設定されたものの、超長期国債の発行による赤字分や地方政府性基金の収支、地方政府融資平台(LGFV)による借入れ増加分はこれには含まれません。これらの項目を含む広義の財政収支は、GDP比で13.2%と、2024年の10.7%から大きく拡大する見通しです(図表2)。さて、2025年における財政政策による直接的なGDP押上げ効果については、2.2%ポイントと試算されました(図表3)。2025年は成長率目標が5%ですから、財政政策が目標達成に大きく寄与すると見込まれます。
2025年の財政面での重点は、消費や投資などを財政政策で強力に支えることです。予算計画では、1.3兆元規模の超長期国債の新規発行による資金のうち、消費財の買い替え・下取りへの補助金として3000億元が計上されるとともに、設備更新向け補助金として、2000億元が計上されました。消費財の買い替え・下取りへの補助金は2024年には1500億元支出され、1.3兆元の商品購入に活用されました。今年は昨年から1500億元分増額されるため、昨年と同様に、最大で1.3兆元程度の消費財需要創出効果が期待できそうです。2024年における民間消費の総額が51.2兆元であったことを踏まえると、この消費財の買い替え・下取り補助金プログラムによって民間消費が最大で2.5%押し上げられると見込まれます(消費者がもともと購入予定であるものにこの補助金を使用する場合には、民間消費の押上げ効果はゼロですので、この試算は幅をもって評価する必要があります)。
ここで注意が必要なのは、地方政府性基金による土地の使用権の売却が、予算通りにすすまないリスクです、実は、2024年の予算では、地方政府性基金による収入(土地の使用権売却が主たる収入源です)が前年を若干上回る計画が立てられていました。これにより、2024年は地方政府性基金による支出がGDP成長率を1.2%ポイント押し上げるはずでしたが、地方政府性基金の収入は前年を大きく下回り、GDP押上げ効果はほとんどありませんでした。2025年も同様のことが起こる可能性があります。このほか、不動産市場の回復が限定的にとどまるとみられるなかで、中国政府が想定するほど民間消費が伸びないリスク、そして、トランプ米政権の追加関税や対米での「ディール」が輸出の伸び悩みや輸入増を通じた内需の下押しにつながりリスクにも注意が必要です。
ただし、以上のようなリスクが顕在化する場合には、追加的な財政刺激策が講じられる可能性が高いと思われます。 そもそも、2025年予算では、基金予算ではなく、本予算による支出増加を盛り込んでいますので、地方政府性基金の収入が前年割れしたとしても、財政による成長率押上げ効果はプラスになると見込まれます。中国政府が追加的な財政刺激策を機動的に実施できることをふまえると、2025年の中国経済は4%台の実質GDP成長率を確保することが可能であると見込まれます。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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MC2025-025