2020年度から小学校でプログラミング教育が導入されることを受け、日本でも「STEAM教育」の認知度が高まりつつあります。STEAM教育とは、理数系分野、テクノロジー分野に加え、芸術分野も重視する教育のことです。ITやAI(人工知能)を使いこなすだけでなく、次世代創造をしていく子どもたちが、社会の課題解決に向き合う際に必要なクリエイティビティの養成を目的にしています。
STEAM教育が注目される背景について説明し、STEAM教育の推進のカギとなるEdTech(Education(教育)×Technology(テクノロジー))領域の市場規模や今後の展望についてみていきましょう。
STEAM教育とは?
STEAM(スティーム)教育とは、Science(科学)・Technology(技術)・Engineering(工学)・Art(芸術)・Mathematics(数学)を統合的に学習する教育手法です。
もともと、理数系分野やテクノロジー関連分野を統合的に学習する教育手法は、「STEM(ステム)教育」と呼ばれていました。オバマ元大統領は、国際競争力を高めるためSTEM教育を国家戦略としました。日本でも「JSTEM(日本STEM教育学会)」が設立されています。これにArt(芸術)を足し、豊かな発想力や創造性を育むことを重視するのがSTEAM教育の目的です。
2020年度から小学校でプログラミング教育の必修化を控える中、文部科学省は単純にプログラミングを学ぶだけでなく、プログラミングを通して論理的思考を身につけることを目標としてかかげています。
経済産業省は、「未来の教室」実証事業で民間教育・産業界・学校が連携して次世代人材を教育する体制を模索しています。そこでは、教科学習以上にSTEAM学習に重きを置き、個別化された課題を一人ひとりが独自の視点で探求していく未来の教育のあり方が描かれているのです。
STEAM教育の具体的な教育手法は定まっていませんが、一例を挙げると、「満員電車を解消する方法」「未来の農業」などのテーマに対し、自由な発想で問題解決に取り組むといったアプローチが取られています。
STEAM教育が注目される理由とは?
創造性に重きを置いたSTEAM教育が、AIの進歩によって「人間にしかできないことは何か」という議論が活発化するなか、STEM教育以上に世界で注目されているのです。
AIの進歩によって、世の中が変わる速度は日に日に速くなっています。米国の学者レイ・カーツワイルは、2045年にはシンギュラリティ(技術的特異点)が到来すると予測しました。シンギュラリティとは、AIが人類の知能を超える転換点、それによる世の中の変化を指します。
また、2015年にオックスフォード大学との共同研究で野村総合研究所が発表した「人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業」は、大きな衝撃を与えました。
同研究では、事務員・建設作業員・アナウンサー・医師・教員・カメラマンなど100種の職業がAIやロボットによって代替可能と報告されています。一般的にイメージされる以上に、AIやロボットにとってかわられる職業の範囲が広いことに、驚いた人も多いかもしれません。
STEAM教育は、大きく急速に変化する社会で「AI時代を生き抜く人材を育てるための教育手法」と言い換えてもよいでしょう。
STEAM教育の推進のカギを握るのが「EdTech」
STEAM教育を推進するうえで欠かせないのが「EdTech(エドテック)」の活用です。EdTechはEducation(教育)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた造語で、教育や学習環境をテクノロジーによって進化させるためのものです。
野村総合研究所はEdTech分野の市場規模が2023年度には3,103億円になると予測しています。これは2016年の市場規模の約2倍であり、EdTech市場は成長めざましい分野だといえるでしょう。
EdTech領域では、欧米の一流大学を中心にオンラインで講義を受けることができる「MOOC(Massive Open Online Course)」や、似たような経験や状況に対するナレッジ(有益な情報)を先生同士が共有できるSNS、生徒一人ひとりの学習状況に合わせて最適な課題が提示されるラーニングプラットフォームの運営企業などが台頭しています。
中国はじめ、海外でもEdTech分野のスタートアップ企業が多数登場
欧米やアジア諸国でもSTEAM教育に力が注がれており、特にAI先進国といわれる中国ではEdTech分野でスタートアップ企業が多く登場しているといえるでしょう。
そのなかでも、2011年創立の中国企業Makeblock(メイクブロック)は、ハードウェアを使って簡単にプログラミングを学べる「mBot(エムボット)」などを開発し、世界のSTEAM教育者から注目されています。同社の商品の販売先は140ヵ国で、商品を導入している教育現場は2万5,000以上にのぼります。
今後EdTech分野の中でも、STEAM教育に関連したスタートアップ企業は特に注目されるでしょう。世界中にニーズがある以上、商品・サービス次第で大化けする企業が出てくる可能性が大いにありそうです。