投資信託などの金融商品は、相場状況に合わせて運用計画を立てることが重要です。もし保有中の投資信託が値上がり・値下がりした場合、一部売却は有効な選択肢になるのでしょうか。本記事では、投資信託を一部売却するメリットやデメリットに加えて、一部売却を考えたいタイミングについて解説します。
投資信託を一部売却すると、損失のリスクを抑えたり、投資機会を生みだせたりする効果が期待できます。具体的にどのようなメリットがあるのか、以下で詳しくご紹介します。
投資信託の基準価額は、常に上がり続けるとは限りません。相場状況によっては下落することもあるため、一部売却によって保有口数を減らしておくと、資産が減るリスクを抑えられます。
たとえば、100万円分の投資信託を購入した後に、10%値下がりするケースを考えてみましょう。保有分を全て売却しなかった場合と、一部売却をした場合とでは、以下のように損失額が異なります。
一部売却の数量 | 10%下落時の保有分 | 損失額 |
---|---|---|
なし | 100万円分 | 10万円 |
10万円分 | 90万円分 | 9万円 |
20万円分 | 80万円分 | 8万円 |
30万円分 | 70万円分 | 7万円 |
40万円分 | 60万円分 | 6万円 |
(※手数料や税金などは含めない金額)
上記の通り、一部売却の数量を増やすほど、値下がり時の損失を抑える効果が期待できます。
投資信託で一部売却をした分は現金の資産になるため、すぐに他の資産に投資できます。
金融商品には様々な選択肢があり、同じ投資信託でもファンドによって特徴は異なります。相場状況に合った金融商品に切り替えることで、より大きなリターンを期待できるかもしれません。
例としては、外国株式の相場が上昇傾向のときに、世界中の株式に投資するファンドに切り替えるようなケースがあります。その他、個別株式に目を向けた株式投資や、不動産を対象にしたREIT(リート)など、金融商品の種類を変える選択肢もあるでしょう。
また、現金化した資産は投資だけではなく、日々の生活費や保険料の支払いなどにも充てられます。
投資信託の一部売却では、残りの保有分で将来の値上がりを待てる点もメリットになります。
全ての保有分を売却すると、基準価額が上昇したときの値上がり益は受けとれません。特に他の金融商品を購入しておらず、資産を現金のままにしている場合は、リターンの機会を逃してしまう可能性があるでしょう。
基準価額が上昇傾向にある投資信託でも、通常は上下動を繰り返しながら推移します。一時的な下落だけで全ての保有分を売却すると、値上がり益に期待することは難しくなるので注意してください。
目的や相場状況によっては、投資信託の一部売却が有効にならない場合もあります。ここからは、投資信託を一部売却する2つのデメリットをご紹介します。
投資信託を一部売却すると、基準価額が上昇した場合の値上がり益を逃してしまいます。
金融商品では、投資金額を増やすほど期待できるリターンと損失幅が大きくなります。つまり、リターンとリスクは比例関係にあるため、投資信託の一部売却で下落による損失幅を抑えると、上昇時のリターンも減ってしまいます。
実際に値上がり益がどれくらい減るのか、保有している100万円分のうち30万円分を売却するケースと、一部売却しないケースを比較してみます。
基準価額の上昇率 | 値上がり益 (一部売却をする場合) | 値上がり益 (一部売却をしない場合) |
---|---|---|
10% | 7万円 | 10万円 |
20% | 14万円 | 20万円 |
30% | 21万円 | 30万円 |
(※手数料や税金などは含めない金額)
上記の通り、基準価額の上昇率が大きくなるほど、値上がり益の差額は広がっていきます。将来の値上がり益を逃したくない場合は、一部売却の時期を遅らせるなどの対策を考えましょう。
基準価額が下がっているときに投資信託を一部売却すると、売却した分の損失が確定します。残りの保有分を持ち続けた結果、以前より基準価額が上昇したとしても、確定した損失がリターンに変わることはありません。
ただし、含み損を確定させる損切りは、資産を守る対策とも言い換えられます。もし損切りをしない状態で基準価額の下落が続くと、さらに多くの資産を失う可能性があるためです。相場状況に合わせた判断ができるように、一部売却の前には「基準価額が伸びるか」や「さらに下落する可能性があるか」を慎重に判断しましょう。
投資信託の一部売却は、どのような状況で考えればよいでしょうか。ここからは、投資信託の一部売却を考えたいタイミングについてご紹介します。
投資の目的を達成できた場合は、それ以上のリスクを負う必要がありません。無理に欲張ると、売却前に相場状況が変わってしまう可能性もあるので、目標金額を達成した時点で投資信託の一部売却を考えましょう。
具体的なタイミングとしては、目標とする老後資金がたまったとき、教育資金をまかなえたときなどが挙げられます。投資の目的は人によって異なるため、ご自身が設定した目標金額を目安にして、一部売却のタイミングを判断してみてください。
ファンドごとに目標の利益額を設定し、その金額を達成した時点で一部売却をする方法もあります。特に複数の金融商品を運用している場合は、目標の利益額をそれぞれ設定することで、今後の方針が分かりやすくなる効果も期待できるでしょう。
一部売却(一部保有)では利益が減る可能性もありますが、運用方法によっては損失幅をコントロールできます。たとえば、すでに達成した目標金額を損切りのラインにしておけば、仮に基準価額が大きく下落しても、目標の利益額は確保できるでしょう。
損失幅を調整したい場合は、一部売却の数量を増やす方法も選択肢になります。
損切りのラインに達したときも、投資信託の一部売却を考えたいタイミングです。
通常、損切りのラインは全ての保有分を手放す目安として設定するものです。損切りの直後に基準価額が上昇する可能性も考えられるため、相場状況によっては運用方針の見直しが必要になります。
このようなケースにおいて、一部売却はひとつの選択肢になります。そのまま全てを保有する場合に比べると、一部売却では最大の損失幅を抑えられるため、基準価額が上昇するまで待てる可能性が上がります。
損切りのタイミングを遅らせると、基準価額がさらに下落するかもしれません。当初に設定したルールを破ると、損失のリスクが増大することにつながるため、運用方針の見直しは慎重に行ってください。
投資信託の基準価額は、常に一定のペースで上昇するわけではありません。相場状況によっては、保有している最中に上昇が止まり、下落傾向に変わってしまうこともあります。このようなケースに直面し、当初の想定よりも値上がりを期待できなくなった場合は、投資信託の一部売却を検討しましょう。保有分の一部を早めに手放せば、基準価額が下落したときの損失幅を抑えられます。
基準価額が上昇傾向であっても、相場が急変すると下落傾向に変わってしまう可能性があります。そのため、相場の急変によって値動きの予測が難しくなったときも、一部売却を考えたいタイミングです。
経済状況や為替動向、分配金の支払いなど、投資信託の基準価額は様々な要因で変動します。相場が急変したときには「基準価額がなぜ動いたか」を調べて、主な要因や今後の値動きを分析することが難しい場合は、リスク対策としての一部売却を考えましょう。
資金の捻出を目的として、投資信託を一部売却するような選択肢もあります。
たとえば、他に魅力的な投資先が見つかった場合は、投資信託を一部売却した資金で購入すると、大きなリターンを期待できるかもしれません。新たな投資先として値動きの少ない金融商品を選ぶと、損失のリスクを抑える効果が期待できます。金融商品には様々な選択肢があるため、こまめに情報収集をしてみるのもよいでしょう。
投資信託を一部売却すると現金の資産になるため、日々の生活に回す選択肢も生まれます。手もとに資金を残しておけば、病気・けがによる入院や身内の冠婚葬祭など、お金が急きょ必要になったときにも対応できるでしょう。
他にも、家具・家電の故障や自動車の買い替えなど、急な出費が生じるタイミングはいくつかあります。日頃から家計状況をきちんと把握し、急な出費への対応が難しくなった場合は、投資信託の一部売却を考えてみてください。
相場や家計の状況に合わせて一部売却をするには、投資信託の仕組みを理解しておく必要があります。ここからは、投資信託を一部売却する際の注意点をご紹介します。
投資信託の分配金には「普通分配金」と「特別分配金(元本払戻金)」があり、どちらに該当するかによって税金の扱いが異なります。
ファンドの運用益から支払われる普通分配金は、投資家の利益(リターン)にあたる分配金です。通常は配当所得として課税されるため、年間20.315%の税金がかかります。一方で、特別分配金は各投資家の元本を取り崩して支払われます。投資家の利益にはならず、実質的には元本の払い戻しにあたるため、税金が課されることはありません。
投資信託を一部売却して保有分を残す場合は、分配金の違いに注意してください。
投資信託の約定日は、申し込みの翌営業日以降になることが一般的です。注文から実際の取引までに時間差があるため、現金を受けとるまでに時間がかかります。売却分を現金として使うには、証券口座からの出金手続きも必要になります。現金化までの時間は証券会社やファンドによって異なりますが、早くても数日程度は覚悟しておくことが無難でしょう。
ファンドの休業日に申し込みをする場合は、翌営業日扱いになるので注意してください。
投資信託の売却時には、「信託財産留保額」と呼ばれるコストがかかる場合もあります。
信託財産留保額は、解約時に代金から差し引かれる手数料であり、基準価額の約0.3%が目安とされています。仮に基準価額が1万円の場合は、一口あたり30円程度かかる計算です。
信託財産留保額は必ずかかるコストではなく、ファンドによって異なります。コストを抑えて一部売却をしたい場合は、購入前に目論見書などを確認し、コストの有無や金額を把握しておきましょう。
株式やETF(上場投資信託)とは違い、投資信託はリアルタイムの市場価格では取引ができません。購入時・売却時の価格は、1日に1回算出される基準価額をもとに計算されるため、申し込むタイミングによっては詳細な売却金額を読みづらい場合があります。
特に注意したいのは、実際の約定が翌営業日以降になるケースです。申し込みから約定までの間に相場が動くと、想定していた売却金額から離れてしまうかもしれません。
そのため、売却する投資信託が一部であっても、申し込みのタイミングは慎重な判断が必要です。直近の値動きや類似するファンドなどの情報を確認し、数日中に相場が急変しないかを見定めておきましょう。
投資信託を売却するタイミングや方法を考えておくと、途中で売却すればよいのか、保有したままがよいのかを判断しやすくなります。相場状況に合った投資手法を選べると、効率的に目的を達成できるかもしれません。投資信託を一部売却するメリットやデメリットを踏まえ、売却のタイミングを検討してみましょう。
※本記事は投資信託に関わる基礎知識を解説することを目的としており、特定ファンドの売買や投資を推奨するものではありません。