アートやワイン、クラシックカーなど、収集する楽しみに加えて価値の上昇を期待できるコレクタブル・アセット(収集できる資産)。インフレヘッジになる実物資産という認識がある一方で、2023年は英不動産コンサル企業ナイト・フランクの「KFLII(Knight Frank Luxury Investment Index:ラグジュアリー投資指数)」がマイナス成長となるなど、明暗が分かれる一年となりました。本記事では、2023年の市場を振り返るとともに今後を予想します。
目次
KFLIIは、世界のコレクタブル・アセットへの投資のリターンを数値化したものです。2023年の結果を見ると、指数を構成する10銘柄中、4つのカテゴリーがマイナス成長となり、同指数も1%下落しました。
圧倒的なパフォーマンスを見せたのは、唯一前年から2桁成長を維持したアートです。ジュエリーや腕時計、コイン、カラーダイアモンド、ワインも価値が上昇し、同指数を上回りました。一方で、2022年に2桁成長を記録したクラシックカーやハンドバッグはマイナス成長となり、ウイスキーは全構成銘柄の中で最も下落しました。
資産クラス | 過去1年間 | 過去10年間 |
---|---|---|
アート | 11% | 105% |
ジュエリー | 8% | 37% |
腕時計 | 5% | 138% |
コイン | 4% | 56% |
カラーダイアモンド | 2% | 8% |
ワイン | 1% | 146% |
KFLII | −1% | 100% |
家具 | −2% | 40% |
ハンドバッグ | −4% | 67% |
クラシックカー | −6% | 82% |
ウイスキー | −9% | 280% |
※ナイト・フランク「ウェルスレポート2024」を参照に筆者作成。
同じコレクタブル・アセットでありながら、明暗が分かれたのはなぜでしょうか。
ひとつ目の理由は、コロナ禍で過熱したラグジュアリー投資市場が落ち着きを取り戻したからです。長年に渡り価値が上昇していたワインの場合、近年は1本50ポンド(約9,450円)の銘柄が4~6倍に跳ね上がったものもありましした。
ウイスキーは最もパフォーマンスが落ち込んだ50銘柄が26%下落したのに対し、最もパフォーマンスが好調だった20銘柄は20%上昇するといった二極化が見られました。
ふたつ目の理由は、金融市場の影響です。ナイト・フランクの最新版ウェルス・レポートによると、利上げやエネルギー危機の影響を受けた2022年から一転、2023年の世界の超富裕層(※)は4.2%増加しました。その一方で、2023年はS&Pグローバル100指数(※)が25.4%上昇するなど、金融市場は多くの資産がよいパフォーマンスを記録しました。金利見通しの改善や米経済の堅調な成長も追い風となり、楽観的な見方が市場に広がりました。
(※)純資産3,000万ドル(約44億1,000万円)以上を保有する人。
このような潮流から投資家の関心がリスク資産へ向き、コレクターの投資意欲を鈍らせたことがラグジュアリー資産の低迷の要因になったと推測されます。株式などに比べるとラグジュアリー投資市場は小規模であるため、わずかなポートフォリオの分配がパフォーマンスを左右する可能性があります。
ラグジュアリー投資市場の回復を予感させる期待材料も多数あります。例えば、パフォーマンスが振るわなかったカテゴリー中でも、オークションでは世界一希少なウイスキー「ザ・マッカラン1926年」が270万ドル(約3億9,690万円)、1962年製フェラーリ250GTOが5,170万ドル(約75億9,990万円)、マリー・アントワネット故仏王妃の椅子が280万ドル(約4億1,160万円)で落札されました。
また、上記の表が示す通り、直近10年間は価値が上昇しており、今後も堅調な価値の上昇が期待できます。ナイト・フランクは今後の見通しに楽観的な見解を示す一方で、価値の下落リスクもあることから「これまで以上に慎重なアプローチが重要となる」と警鐘を鳴らしています。
ラグジュアリー資産への投資は収集の楽しみを味わい、長期的な価値の上昇を期待することが前提です。インフレや通貨リスクに強いとされる一方で、「保管にコストがかかる」「流動性が低い」「贋物が流通している」といったデメリットもあることも、念頭に置いておきましょう。Wealth Roadでは、今後もラグジュアリー投資市場の動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=147円 1ポンド=189円
※上記は参考情報であり、特定の銘柄の売買及び投資を推奨するものではありません。過去の実績は将来の運用成果等を保証するものではありません。