2020年4月から、日本では高等教育の修学支援新制度が始まりました。この制度は授業料・入学金を支援するものであり、世帯によっては実質的に専門学校の学費が無償化されます。本記事では専門学校学費無償化の条件や仕組みを、具体的なシミュレーションを交えて紹介します。
目次
修学支援新制度は、専門学校を含む高等教育の学費を支援する制度です。住民税非課税世帯やそれに準ずる世帯は、「給付型奨学金の給付」と「授業料・入学金の減免」という形で支援を受けられます。
支援額は経済状況などによって変わり、世帯によっては専門学校の学費が無償化されます。ただし、世帯年収以外の要件もあるため、申請の前に仕組みを確認しておきましょう。
専門学校学費無償化(修学支援新制度)は、全世帯を対象にした制度ではありません。以下の通り、世帯年収や学業成績などに関する条件が設けられています。
<修学支援新制度の主な条件>
・所得から計算される基準額が一定額を超えていない
・文部科学省認定の対象校に通っている
・生徒本人に学修意欲がある
・国籍や在留資格に関する要件を満たしている
・進学までの期間に関する要件を満たしている
ここからは「経済的な要件」「対象校」「学修意欲に関する要件」に分けて、具体的な条件を詳しく解説します。
専門学校学費無償化には所得要件があり、主に住民税非課税世帯やそれに準ずる世帯が支援対象になります。具体的には、以下の基準額が5万1,300円を下回ると支援を受けられます。
<基準額の計算式>
住民税の所得割の課税標準額×6%-(調整控除の額+税額調整額)=基準額
(※政令指定都市の場合は、(調整控除の額+税額調整額)に3/4を乗じる。)
区分 | 基準額 | 支援内容 |
---|---|---|
第Ⅰ区分 | 100円未満 | 標準額 |
第Ⅱ区分 | 100円~2万5,600円未満 | 標準額の3分の2 |
第Ⅲ区分 | 2万5,600円~5万1,300円未満 | 標準額の3分の1 |
(参考:文部科学省「支援措置の対象となる学生等の認定要件について」)
なお、上記の所得要件を満たしても、生計維持者の保有資産が一定額を超える世帯は支援の対象外です。
<修学支援新制度の資産要件>
◆生計維持者が1人の場合
→保有資産1,250万円未満
◆生計維持者が2人の場合
→保有資産2,000万円未満
(※生計維持者には生徒本人も含む)
上記の「保有資産」には、現金やそれに準ずるもの、預貯金、有価証券が含まれます(※自宅などの不動産は対象外)。
修学支援新制度の対象校は、一定の要件を満たした大学や短期大学、高等専門学校、専門学校です。これらの区分に含まれる学校でも、文部科学省の認定を受けていない機関は支援対象になりません。
<対象の学校数(※)>
学校の区分 | 学校数 | 確認校数 | 支援対象校の割合 |
---|---|---|---|
大学・短期大学 | 1,085 | 1,058 | 97.5% |
高等専門学校 | 57 | 57 | 100% |
専門学校 | 2,592 | 2,010 | 77.5% |
(参考:文部科学省「機関要件の確認(更新)申請・審査の概要」)
上記の通り、約2割の専門学校は修学支援新制度の対象外です。お子さまの進学先が決まる前に、対象校に含まれているかを確認しておくことが大切です。なお、支援対象校は随時更新されているため、文部科学省の公式サイト等から最新情報を確認してください。
(※)2023年12月1日時点のものです。
専門学校学費無償化には、学業成績や学修意欲に関する要件(※採用時のみ)も設けられています。お子さまの学年によって要件が変わるため、申請のタイミングを踏まえて確認しておきましょう。
<高校3年生の場合>
高校の在学中に申請をする場合は、高校2年次までの評定平均値によって判定方法が変わります。
◆評定平均値3.5以上
→進路指導等で学修意欲を判断する。
◆評定平均値3.5未満
→レポートまたは面談によって学修意欲を判断する。
上記の他にも、高卒認定試験を受験・合格した人も学修意欲があるものとみなされます。
<対象校1年生の場合(在学採用)>
専門学校の1年次に申請をする場合は、以下のいずれかに該当する必要があります。
【1】高校の評定平均値が3.5以上である
【2】入学試験の成績が上位1/2以上である
【3】高卒認定試験に合格している
【4】提出した学修計画書から学修意欲が認められる
上記の学修計画書については、文部科学省の公式サイトで雛形が公開されています。
<対象校2~4年生の場合(在学採用)>
専門学校の2~4年次に申請をする場合は、以下のいずれかに該当する必要があります。
【1】在籍校の学業成績(GPAなどの平均成績)が上位1/2以上である
【2】以下の条件をいずれも満たしている
【2-a】標準単位数以上の単位を修得している
【2-b】提出した学修計画書から学修意欲が認められる
上記の標準単位数は、「卒業に必要な単位数÷修業年限×在学年数」によって計算されます。学業成績が不足している場合は、原則として標準単位数以上の取得が必要ですが、やむを得ない事由(災害や傷病など)がある生徒は単位数の条件が免除されます。
以下の表は、専門学校学費無償化における年収目安をまとめたものです。
<両親、生徒本人、中学生の4人世帯の場合>
区分 | 支援割合 | 年収目安 |
---|---|---|
第Ⅰ区分 | 標準額の満額 | 270万円まで |
第Ⅱ区分 | 標準額の3分の2 | 300万円まで |
第Ⅲ区分 | 標準額の3分の1 | 380万円まで |
<両親、生徒本人、高校生の4人世帯の場合>
区分 | 支援割合 | 年収目安 |
---|---|---|
第Ⅰ区分 | 標準額の満額 | 300万円まで |
第Ⅱ区分 | 標準額の3分の2 | 400万円まで |
第Ⅲ区分 | 標準額の3分の1 | 460万円まで |
実際の判定は住民税の所得割が基準となるため、適用される控除(家族構成など)によって世帯年収のラインは変動します。ここからは、所得要件の具体的な計算方法を解説します。
専門学校学費無償化の支援額は、3つのステップで計算できます。支援対象となる標準額については、対象校の種別(※)によって上限額が変わります。
【1】基準額を計算して区分を確認する
【2】学校ごとの標準額(授業料+入学金)を確認する
【3】標準額に区分ごとの支援割合を乗じる
(※)参考:文部科学省「学びたい気持ちを応援します 高等教育の修学支援新制度」
ここからは、基準額の計算に用いる各項目について解説をします。
<住民税の所得割の課税標準額>
1年間の所得合計額から所得控除を差し引いて計算する、住民税の基礎となる金額です。所得金額が分かれば自身でも計算できますが、課税証明書や特別徴収税額決定通知書などの公的書類に記載されています。
<調整控除の額>
所得税と住民税の人的控除の差により、個人の税負担額が増えないように調整するための金額です。住民税の課税標準額によって、計算方法が以下のように変わります。
【1】住民税の課税標準額が200万円以下の場合
以下のうち、金額の小さいほうが調整控除の額になります。
・人的控除の合計差額×5%
・住民税の課税標準額×5%
【2】課税標準額が200万円超の場合
以下の式で調整控除の額を計算します。
<調整控除の額の計算式>
{人的控除の合計差額-(住民税の課税標準額-200万円)}×5%=調整控除の額
(※2,500円が下限金額)
<税額調整額>
住民税非課税のラインを若干超える場合に、手取り金額が減りすぎないように調整するための金額です。以下の式によって計算し、結果がマイナスになる場合は0円とみなされます。
<税額調整額の計算式>
所得割非課税限度額-(総所得金額等-所得割額)=税額調整額
調整控除や配当控除、住宅ローン減税、寄附金税額控除、外国税額控除が適用される場合は、上記の「所得割額」に適用してから計算を行います。
専門学校学費無償化の対象世帯は、どれくらいの学費負担が軽減されるのでしょうか。まずはモデルケースとして、2020年度の初年度学生納付金のデータ(※1)を紹介します。
<私立高等専門学校の初年度学生納付金>
授業料:62万7,065円
入学料:24万6,753円
施設設備費:10万5,195円
合計:97万9,013円
以下では2つのケースに分けて、世帯年収別のシミュレーションを行いました。人的控除の合計差額については、2021年度以降のもの(※2)を採用しています。
(※1)参考:文部科学省「私立大学等の令和2年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」
(※2)参考:諏訪市公式ホームページ「人的控除の差と調整控除の計算方法」
<シミュレーションの前提条件>
生計維持者:1人
適用される所得控除:基礎控除、ひとり親控除、扶養控除(一般・特定)
家族構成:母、生徒本人、高校生(3人家族)
保有資産:100万円
所得の内訳:給与所得のみ
税額調整額:なし
住所:政令指定都市以外
通っている学校:昼間制の私立専門学校(標準額75万円)
1年間の所得が給与のみの場合は、以下の式で住民税の課税標準額を計算できます。
<住民税の課税標準額の計算式>
所得合計額(世帯年収)-所得控除合計額=住民税の課税標準額
<住民税の課税標準額の計算結果>
250万円-(33万円+35万円+101万円)=81万円
次に調整控除の額を計算し、専門学校学費無償化の基準額を計算します。
<人的控除の合計差額×5%>
(5万円+5万円+5万円+18万円)×5%=1万6,500円
<住民税の課税標準額×5%>
168万円×5%=8万4,000円
「人的控除の合計差額×5%」のほうが小さくなったため、調整控除の額は1万6,500円です。したがって、基準額は以下のように計算できます。
<基準額の計算結果>
81万円×6%-(1万6,500円+0円)=3万2,100円
基準額が3万2,100円となったため、この世帯は第Ⅲ区分に該当します。標準額の3分の1が支援されるので(25万円)、モデルケースを基準にすると初年度学生納付金(負担分)は以下となります。
<初年度学生納付金の計算式>
初年度学生納付金(平均値)-支援額=初年度学生納付金(負担分)
<初年度学生納付金の計算結果>
97万9,013円-(75万円×1/3)=72万9,013円
次に、同じ流れで世帯年収300万円のシミュレーションを行います。
<住民税の課税標準額の計算結果>
300万円-(33万円+35万円+101万円)=131万円
<人的控除の合計差額×5%>
(5万円+5万円+5万円+18万円)×5%=1万6,500円
<住民税の課税標準額×5%>
131万円×5%=6万5,500円
「人的控除の合計差額×5%」のほうが小さくなったため、調整控除の額は1万6,500円です。
<基準額の計算結果>
131万円×6%-(1万6,500円+0円)=6万2,100円
基準額が5万1,300円を超えているため、この世帯は支援の対象外になりました。
専門学校学費無償化の手続きは、以下の流れで行います。
【1】支援対象者や対象校を調べる
【2】4月下旬から申し込む
【3】選考結果の通知を受け取る
【4】入学時に進学届を提出する
【5】支援開始
ここからは高校3年次に申請することを想定して、全体の流れを解説します。
まずは文部科学省等のホームページから、進学先・通学先の学校が対象に含まれているかを確認します。対象校は数ヵ月おきに更新されるため、最新情報を確認しましょう。
所得要件については、日本学生支援機構(JASSO)が「進学資金シミュレーター」を公開しています。ただし、表示される年収などはあくまで目安となるため、細かく調べたい人は自身でシミュレーションを行う必要があります。
支援対象に該当することが分かったら、進学先の学校から関係書類を受け取ります。その後、保護者と生徒本人のマイナンバーを用意し、日本学生支援機構の公式サイトから給付奨学金の申請をしましょう。受け取った書類については、必要事項を記入してから学校に提出します。
日本学生支援機構の審査が完了すると、採用候補者決定通知が発行されます。進学先の学校から受け取り、審査の結果を確認してください。採用候補者決定通知は、日本学生支援機構のホームページ(スカラネット・パーソナル)からでも確認できます。
高校3年次で申請をした場合は、入学時に採用候補者決定通知を進学先に提出します。その後、日本学生支援機構のホームページにアクセスし、進学届の届け出を済ませましょう。授業料等減免も併せて利用する場合は、このタイミングで進学先に申請します。
ここまでの手続きが完了すると、4月から5月頃に給付型奨学金が振り込まれます。授業料等の減免については、適用される時期が学校によって異なります。不明点が生じたら、進学先の窓口に問い合わせてみましょう。
住民税非課税世帯やそれに準ずる世帯は、専門学校学費無償化の対象になります。世帯年収が基準を下回る場合は、授業料と入学金の大部分が支援されるかもしれません。ただし、実際の判定は住民税をもとに行われるため、入学前に所得要件のシミュレーションをしておきましょう。
※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。