株式を保有していると、銘柄によっては定期的に配当金を受けとれます。この配当金のみで生活をしている投資家もいますが、年間30万円を目標にするとどれくらいの資金が必要になるのでしょうか。
目次
東証プライムの平均配当利回り(2.13%)を基準にすると、年間30万円の配当金を得るには約1,400万円の資金が必要です。ただし、銘柄によって1株あたりの配当金は変わるため、工夫次第では数百万円の資金でも目指せます。
たとえば、配当利回りが2倍の4.26%になると、必要資金は半分の約700万円になります。積極的に配当金をだしている銘柄や、増配を続けている銘柄を選べば、さらに必要資金を抑えられるかもしれません。
その一方で、配当金のみを重視すると、株価の下落によって損失につながることがあります。そのほかにも税金など、実際の株式投資では注意点も存在します。年間30万円の配当金を目指している方は、株式投資の仕組みを理解した上で適切な計画を立てましょう。
配当金とは、株式の保有数に応じて分配される現金です。主に「利益還元」の意味合いで分配されますが、配当金はどのような銘柄でも受けとれるリターンではありません。
配当金の支払い時期や金額は、取締役会や株主総会を経て各企業が独自に決めています。直近の業績がよくても、株主への還元方針によっては配当金がない銘柄もあります。配当金が分配される場合は、1株あたりの金額が決められます。以下では1株あたり15円、100株を保有していると仮定して、受けとれる配当金を計算してみます。
<受けとれる配当金の計算方法>
1株あたりの配当金×保有株式数=受けとれる配当金
15円×100株=1,500円
上記のケースでは、税引前で1,500円の配当金を受けとれることが分かりました。実際にこの金額を受けとるには、権利確定日の時点で株主名簿に登録されている必要があります。
<権利確定日とは>
特定の株式を保有することで、株主としての権利(配当金や株主優待など)が確定する日です。各企業が独自に決めていますが、多くの銘柄では決算月の月末最終営業日や決算日と同じ日付になっています。権利確定日の時点で株主名簿に登録されるには、2営業日前の権利付最終日までに株式を保有する必要があります。
配当金に関する情報は、各企業の決算短信やIR情報などに記載されています。
年間30万円の配当金を得るには、どれくらいの資金が必要になるのでしょうか。必要資金については、株価に対する年間配当金の割合を表す「配当利回り」によって変わります。
例えば、配当利回りが1.0%の銘柄を、1株500円のときに100株購入したとします。このとき、1年間に受けとれる配当金は以下のように計算できます。
<1年間に受けとれる配当金の計算方法>
(株価×配当利回り)×購入した株式の数=受けとれる配当金
(500円×1.0%)×100株=500円
東証プライムの平均配当利回りを基準にすると、約1,400万円の資金が必要です。以下では参考として、配当利回りが変わった場合の必要資金もシミュレーションしました。
<年間30万円の配当金に必要資金>
配当利回り | 必要資金 |
---|---|
1.0% | 3,000万円 |
2.0% | 1,500万円 |
3.0% | 1,000万円 |
4.0% | 750万円 |
5.0% | 600万円 |
(※税金を含めていない)
5.0%の配当利回りで運用する場合でも、年間30万円の配当金を得るには600万円の資金が必要になります。
実際に受けとれる配当金は、銘柄の選び方や投資金額によって変わります。年間30万円の配当金を受けとるには、どのような方法で運用すればよいのでしょうか。
前述のシミュレーションを見ると、配当利回りが上がるほど必要資金は減ることが分かります。つまり、1,000万円以上の資金がない方でも、配当利回りが高い銘柄を選べば、年間30万円の配当金を得られる可能性があります。
ただし、配当利回りが高いからと言って、よい銘柄であるとは限りません。例えば、投資先の業績悪化によって減配または無配(※)になると、受けとれるリターンが大きく減ってしまうこともあります。
(※)前期に比べて配当金が減ることを「減配」、配当金がでなくなることを「無配」という。
<減配になった場合のシミュレーション>
配当利回りが2.13%の銘柄に1,408万円を投資すると、年間では約30万円の配当金を受けとれます。この銘柄の配当利回りが2.0%に下がると、1年間に受けとれる配当金は以下となります。
<配当利回りが下がった場合>
投資金額×配当利回り=受けとれる配当金
1,408万円×2.0%=28万1,600円
配当利回りが0.13%下がった影響で、1年間の配当金は1万8,400円ほど減ることが分かりました。
また、株式投資のリターンには配当金のほか、譲渡益や株主優待もあります。配当金のみを重視すると、ほかのリターンを受けとれなくなるかもしれません。銘柄によっては、減配の影響で株価が下がることもあるので、配当利回りのみで投資先を選ぶことは控えましょう。
高配当の株式が見つからない場合や、配当利回り以外の要素も重視したい場合は、投資資金を増やす方法があります。投資資金を増やすと、年間30万円の配当金を得るのに必要な利回りは以下のように変わります。
<年間30万円の配当金になる利回り>
投資資金 | 利回り |
---|---|
1,408万円 | 2.13% |
1,500万円 | 2.00% |
2,000万円 | 1.50% |
3,000万円 | 1.00% |
4,000万円 | 0.75% |
投資資金を基準に必要な配当利回りを計算する場合は、以下の式を使います。
<必要な配当利回りの計算方法>
目標とする年間配当金÷投資資金=必要な配当利回り
予定している投資資金に合わせて、実際に必要な配当利回りを計算してみましょう。現実的ではない配当利回りになった場合は、投資資金を増やしながら再度シミュレーションをしてみてください。
増配とは、前期に比べて1株あたりの配当金が増えることです。業績が改善されたり、株主への還元方針が変わったりした企業では、立て続けに増配が行われるケースもあります。
増配される銘柄を選べば、現時点で投資資金や配当利回りが足りなくても、将来的に年間30万円の配当金を得られるかもしれません。増配を発表した企業は投資家から注目されるため、株価が上がりやすい傾向にあります。
ただし、増配される可能性は、現在の配当利回りだけでは判断できません。株主への還元方針や、これまでの配当金の推移なども確認した上で、総合的に判断しましょう。
外国株式には、国内株式より多くの配当金を受けとれる銘柄もあります。
なかでも米国株式は株主への還元意識が強く、数十年にわたって増配している銘柄も少なくありません。資金が少なくても連続増配が続く銘柄を選べば、年間30万円の配当金を受けとれる可能性が高まります。
その一方で、米国株式には株主優待を実施している銘柄が少ない傾向にあります。配当金だけで比較すると、ほかのリターンで損をすることもあるので注意してください。
1株あたりの配当金は、企業の方針や経営状態によって変わります。そのため、年間30万円の配当金を達成した後には、毎年のリターンを安定させることが重要です。
ここからは、年間30万円の配当金を安定させる2つの方法をご紹介します。
配当性向とは、企業活動によって生じた利益のうち、どれくらいの金額を配当金に回しているかを表す指標です。配当性向が50%を超えているような銘柄は、投資活動に回す資金が不足している可能性があるため、今後の成長に期待できない場合があります。
1株あたりの配当金÷1株あたりの利益×100%=配当性向
持続的な成長を目指している企業は、株主還元とともに投資活動にも力を入れるはずです。投資資金が不足していると、新しい領域や商圏などへの参入が難しいため、基本的に大きな成長は見込めません。
ほかの銘柄より配当金が高すぎる場合は、上記の式で配当性向を計算してみましょう。
ひとつの銘柄に投資資金を集中すると、その銘柄が下落したときに大きな損失が生じます。経営状態によっては配当金まで減らされる可能性があるため、基本的には分散投資を心がけましょう。
例えば、IT業界と飲食業のように投資先を分散しておくと、いずれかの業界が低迷したときの損失を抑えやすくなります。国内株式と外国株式のように地域を分けたり、積立投資で時間を分散させたりする選択肢もあります。
直近の株価推移や配当状況も確認したうえで、投資先を分散できないか検討してみてください。
年間30万円の配当金を達成し、かつ毎年のリターンを安定させるには、どのような銘柄を組み合わせるとよいでしょうか。あくまで一例ですが、以下では銘柄の選び方をご紹介します。
ひとつ目は、長年にわたって配当利回りが2.0~3.0%前後で推移している国内株式をピックアップし、3~5つ程度の業界にわけて投資をする方法です。配当性向が高すぎる銘柄を避けつつ、複数の業界に分散投資ができるため、毎年安定した配当金を期待できます。
また、株価が比較的安定している銘柄を選べば、値下がりのリスクもある程度は抑えられるでしょう。特に値下がりを気にせずに長期間保有したい人は、直近数年の株価も確認したうえで投資先を選んでみてください。
投資資金が不足している場合は、連続増配している銘柄を組み合わせる方法がひとつの選択肢になります。以下のように、数年や数十年にわたって増配が続いている銘柄を選ぶと、少ない資金でも年間30万円の配当金を達成できる可能性が高まります。
<実際の投資例>
銘柄A:当期の配当利回りは4.0%、5期連続で増配している国内株式
銘柄B:当期の配当利回りは8.0%、20期連続で増配している米国株式
ただし、購入した年に連続増配が止まる可能性もあるので、各銘柄の配当方針や経営状況はきちんと確認しましょう。また、株価の下落による損失を抱えないために、前述の配当性向も調べておくことが重要です。
投資手法は大きく一括投資と積立投資に分けられますが、年間30万円の配当金を目指すにはどちらを選ぶとよいでしょうか。結論からいうと目的や投資資金によって異なるため、まずはご自身の状況を整理することが重要です。
参考として、以下では各手法のメリットとデメリットをまとめました。
<一括投資のメリット>
・十分な資金があれば、すぐにでも年間30万円の配当金を目指せる
・相場の上昇局面では譲渡益にも期待できる
<一括投資のデメリット>
・下落局面になると大きな損失につながる
・時間の分散ができない
・まとまった資金が必要になる
<積立投資のメリット>
・少額からでも投資を始められる
・時間を分散できる
・同じペースと金額で買い続けると、平均購入単価が平準化される
<積立投資のデメリット>
・運用初期に期待できるリターンが少ない
・目標達成までに時間がかかる
・口座開設先やプランによっては手数料がかさむ
例えば、すでに1,400万円以上の投資資金がある人は、利回りが2.13%(東証プライムの平均利回り)以上の銘柄に一括投資をすることで、いきなり目標を達成できる可能性があります。一方で、数百万円の投資資金しかない場合は、「連続増配株式に毎月10万円ずつ」などの積立投資が選択肢になるでしょう。
各手法のメリットやデメリットを見比べたうえで、ご自身に合った運用方法を考えてみてください。
年間30万円の配当金を実現しても、税金や株価によっては利益が大きく減ってしまうこともあります。全体のリターンを減らさないためには、税金や株式投資自体の仕組みを理解しておく必要があります。
ここからは、年間30万円の配当金を目指すときの注意点を3つご紹介します。
前述のシミュレーションでは省略しましたが、株式投資のリターンには税金がかかります。復興特別所得税がある2037年12月までは、所得税と住民税を合わせて20.315%の税率であり、配当金も例外ではありません。
参考として、2023年に30万円の配当金を得た場合の税金を計算してみます(※配当金以外の利益はなし)。
<税金の計算方法>
1年間の利益×税率=その年にかかる税金
30万円×20.315%=6万945円
上記の計算結果より、実際に受けとれる利益は約24万円(30万円-6万945円)であることが分かりました。
また、外国株式でリターンが生じた場合は、外国と日本の両方で課税されます。この二重課税を避けるために、日本では「外国税額控除」と呼ばれる制度が用意されていますが、控除を受けるには確定申告が必要です。
保有銘柄の株価によっては、売却するときに損失がでることもあります。以下では1株300円のときに100株(3万円分)を購入し、売却時に株価が下がっていた場合のシミュレーションをしてみます。
売却時の株価 | 100株を売却したときの価格 | 損失額 |
---|---|---|
250円 | 2万5,000円 | 5,000円 |
200円 | 2万円 | 1万円 |
150円 | 1万5,000円 | 1万5,000円 |
100円 | 1万円 | 2万円 |
また、実際の株式投資では手数料がかかるため、さらに損失が増える場合もあります。年間30万円の配当金を受けとっても、売却時の株価によっては赤字になるかもしれません。株式投資では株価が動くことも想定した上で、投資先の業績や将来性にも目を向けることが大切です。
配当利回りが高い株式や、前期より配当金が増えた株式は、投資家から注目されやすい傾向があります。上場株式の株価は供給のバランスによって決まるため、もし多くの投資家が購入した場合は割高になるかもしれません。
すでに割高になった株式を購入すると、売却時に損失がでるリスクが高まります。そのため、高配当株式や増配株式は買い時を慎重に判断することが重要です。候補となる投資先を見つけたら、割安度を判断できる指標(PERやPBRなど)や、これまでの株価推移なども確認しておきましょう。
前述の税金については、「NISA」が有効な対策になります。国が実施するNISAは、非課税投資枠の範囲内で金融商品から得た利益が非課税になる制度です。証券会社などの金融機関で専用口座を開設し、その口座を使って金融商品を運用します。
NISAの中でも「つみたてNISA」と呼ばれる制度では、株式を購入することができません。年間30万円の配当金を目指す場合は、以下のNISAが選択肢になります。
NISAの種類 | 一般NISA | 新NISA |
---|---|---|
投資可能期間 | 2014年~2023年 | 2024年1月以降 |
非課税投資枠 | 年間120万円 | 成長投資枠:年間120万円 つみたて投資枠:年間240万円 |
非課税期間 | 最長5年間 | 無期限 |
対象商品 | 上場株式、投資信託など | 成長投資枠:上場株式、投資信託など つみたて投資枠:投資信託、ETF |
保有限度額(総枠) | なし | 1,800万円 (※うち成長投資枠は1,200万円まで) |
(※2023年12月までに口座開設をする未成年は、ジュニアNISAも選択肢になる。)
たとえば、一般NISAでは年間120万円の範囲内で、株式から得た譲渡益や配当金、投資信託の分配金が非課税になります。通常は20.315%の税金がかかりますが、所得税・住民税のいずれも課されません。
また、2024年1月から始まる新NISAは、2つの投資枠を併用できる制度です。
<新NISAの主な特徴>
・2つの投資枠を合わせると、年間360万円の非課税投資枠がある
・口座開設期間や非課税期間が恒久化された
・1,800万円の総枠(金融商品を保有できる限度額)がある
30万円の配当金を想定すると、1年間の税金は約6万円になります。この税金を抑えたい方は、一般NISAや新NISAの利用を考えましょう。
数百万円以上のまとまった資金があれば、銘柄の選び方次第で年間30万円の配当金を目指せます。ただし、配当金が多いからと言ってよい銘柄とは限らないので、配当利回り以外の情報にも目を向ける必要があります。
配当金の受けとりには税金がかかることや、株価が変動することも想定して、余計な支出・損失をできるだけ抑えられるような運用方法を考えましょう。
※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。
※本記事は、2024年8月20日現在のものです。今後制度が変更になる場合もあります。