投資に関係する言葉として「分配金」と「配当金」があります。投資家にお金を配分するという点では両者は似た意味を持つといえるでしょう。しかし、投資の世界では両者には大きな違いがあり、明確に使い分けられています。これから投資信託を始めようと考えている人は、まずは分配金と配当金がどう違うのかをきちんと理解しておくことが大切です。
そこで今回は、投資信託でもらえるのは配当金と分配金のどちらなのか、両者の違いはどこにあるのかを詳しく解説していきます。
投資信託とは?投資によりもらえるのは配当金ではなく分配金
分配金と配当金は混同しやすく、分配金のつもりが配当金という言葉が使われることも多くあります。しかし、投資の分野では両者は明確に使い分けられています。
投資信託でもらえるのは配当金ではなく分配金
投資信託とは、投資家から集めたお金を専門家が株式や債券などに運用して収益を上げ、それを投資額に応じて投資家に配分する金融商品のことです。このときに投資家に配分されるお金のことを、分配金といいます。
投資は一定の資金があれば誰でも行えますが、上手に運用して資産を増やしていくことは、素人にはなかなかできません。着実に投資を成功させたいなら、投資の専門家集団に運用を任せて、収益だけを受け取るという仕組みが望ましいといえ、投資信託は、まさにこのニーズに応えるために登場した商品です。
投資信託会社は投資家から集めたお金で資産運用を行い、その純資産を増やそうとします。投資家は投資信託(ファンド)に投資する場合、その時の「基準価額」を元にして購入あるいは換金を行うのが原則です。
基準価額は、投資信託会社が投資家から集めた「純資産」を、投資家が購入する単位である口数(くちすう)で割って計算されます。つまり基準価額とは、「1口あるいは1万口(多くの投資信託は1万口単位で購入可)あたりの純資産額」として算出されるわけです。投資信託会社の資産運用が成功して純資産額が増加すれば、1日1回値段が更新される基準価額は次第に上がっていきます。
投資信託の分配金と配当金は似ている?
株式投資の配当金と投資信託の分配金は、投資家が便益を受けるために支払われるお金という点では似ています。しかし、その仕組みは大きく異なるので注意しましょう。
株式投資は企業の株式に対して行う投資であり、配当金は企業が上げた利益の一部を投資家に支払うという仕組みです。この場合、配当金の財源となるのは企業の利益であって投資家の株式自体あるいは株価自体ではありません。
一方、投資信託の場合、資産運用によって収益を得たら純資産が増え、基準価額が上がり、マイナスが出たら純資産が減り、基準価額が下がる、というのが基本的なあり方で、すべては純資産、基準価額に反映されます。
投資信託の分配金もこの仕組みの中にあるため、分配金は純資産から支払われることになり、分配金の支払いは純資産の減少要因であり、基準価額を下げるものとなります。
ただし、基準価額が下がると言っても、投資家の視点からみると、ファンドの中で持っていた持ち分の一部が分配金として戻ってくるだけですので、ファンドで運用している分と、手元分を合わせて考えると、トータルでは何ら変わらず、損をしているわけではないので、注意しましょう。
また、投資信託では「分配金を受け取らず、資産運用で収益を上げたら元本に運用益を組み入れていく」というケースもあります。この場合、投資家は短期的にお金を得ることはできませんが、資産運用がうまくいく場合は複利効果を得られるという点で得だといえるでしょう。詳しくは次で見ていきましょう。
分配金は受け取るべき?それとも再投資すべき?
ご説明したように、投資信託の分配金は財源が運用資産そのものであるため分配金を受け取ると純資産が減少する一方で、分配金を受け取らずに、そのまま運用して、収益をあげることを目指す、という選択肢もあります。
運用会社が決定した定期的なタイミングで分配金を受け取るのと、受け取らずに再投資に回すのと、どちらがいいのでしょうか。
定期的に現金収入が欲しければ「受け取る」
分配金がたとえ少額であったとしても、定期的に現金で収入を得たいといった人は、分配金を定期的に受け取れる投資信託を選び、「受け取る」という選択肢がよいでしょう。
投資信託の分配金を受け取る時期や回数は運用会社や扱う商品によって異なりますが、たとえば毎月分配型の投資信託の場合、投資を続けながら毎月現金収入を得ることができます。このため、毎月分配型の投資信託は、「生活費を上乗せしたい」「年金の足しにしたい」という人に人気があります。
ただし、前にも述べたように分配金は財源が運用資産であるため、分配金を受け取ると運用する純資産が減少する点には注意が必要です。
分配金を受け取るということは、運用資産の一部を受け取るのと同じ意味となり、基準価額をその分、下げることにつながります。分配金の支払い以上に基準価額が上昇している場合でなければ、基準価額を犠牲にして分配金を受け取っているということに注意しましょう。
長期的運用を検討しているなら「再投資」または分配金を出してきていないファンドを選ぶことも
定期的な現金収入を得ることよりも、中長期的な運用で複利効果を高めたい人はそもそも運用がうまくいっていても、分配金を出していない投資信託を選ぶか、たとえ分配金をファンドが出したとしても受け取らずに「再投資」するとよいでしょう。
ファンドが分配金を出さない場合は売却または解約するまで分配金を受け取ることはできませんが、運用がうまくいっている場合、その分運用資産が増えるため、複利効果が大きくなります。
ファンドが分配金を出した場合であっても、分配金を受け取ったあとに「再投資」することで同じように複利の効果を享受できます。
ただし、分配金を受け取った時点で、その分配金が元本を超過する収益から出ている場合は課税対象となり、税金が差し引かれます。その後、再投資を行ったとしても、分配されない場合よりも運用に回せる金額は少なくなることに注意が必要です。この点は下記で詳しく仕組みをご説明します。
投資信託の分配金と株式投資の配当金の計算方法の違い
続いて、投資信託の分配金と株式投資の配当金における計算方法の違いについて解説します。両者は投資家に便益を与えるものではありますが、算出の仕方が大きく異なるので、実際に投資をする場合はその点を理解する必要があります。また、以下は参考計算例であって実際の金額と異なります。
投資信託の分配金の計算方法とは
投資信託の分配金には、大きく分けて「普通分配金」と「元本払戻金(特別分配金とも呼ばれる)」の2種類があります。
普通分配金とは、投資信託の運用によって得られた収益を投資家に配分する分配金のことです。
例えば、投資家が基準価額1万円のときに個別元本を形成し、投資信託運用会社の資産運用が成功して決算日の基準価額が1万1,000円になったとしましょう。この場合、増えた1,000円は収益となるわけです。このとき、支払うべき分配金が1,000円であれば、収益分からまかなうことができます。この収益分で支払われる分配金が「普通分配金」です。普通分配金は収益分を配分するので、課税対象とされます。
一方、元本払戻金とは、個別元本を減らして投資家に支払う分配金のことです。
例えば、投資家が基準価額1万円のときに個別元本を形成し、投資信託運用会社の資産運用により決算日の基準価額が1万500円になったとしましょう。この場合、収益分は500円となるわけです。このとき、支払うべき分配金が1,000円であれば、そのうち500円については普通分配金として投資家に配分されますが、もう500円については収益分ではまかなえないので、個別元本を切り崩して支払われます。この個別元本から支払われる分配金が元本払戻金です。
個別元本はもともと投資家が支払って形成されたものなので、元本払戻金を受け取っても投資家に損失が発生するわけではありません。なお、元本払戻金は投資家の資産を払い戻すという性格を持つので、課税対象外とされます。
投資信託の分配金とは異なる株式の配当金の計算方法
株式投資の配当金とは、株式会社が得た利益の中から数パーセントを投資家に配分するものです。あくまで利益の中からのみ捻出されるお金なので、この点は分配金と大きく違います。
企業が利益を上げたとき、どのくらいの金額を配当金に回すかについては、「配当性向」で計算されるのが基本です。配当性向(%)は「(配当金支払総額(予定)÷当期純利益)×100」、または「(1株あたりの年間配当金(予定)÷1株あたりの純利益)×100」で算出されます。企業の配当性向が高いほど投資家への利益還元傾向が強く、低いほど利益を内部にため込む傾向があるといえるでしょう。一般的に、平均的な配当性向は20%から30%です。
また、投資家がどのくらいの配当金をもらえるかについては、「配当利回り」が重要な指標となってきます。配当利回り(%)は「(一株あたりの年間配当金(予定)÷株価)×100」で計算され、数値が高いほど配当が多いことを意味します。
投資信託の分配金は資産運用が成功するかどうかが大きなポイントとなり、成功するほど投資家の便益は高まります。一方、株式投資の配当金では企業経営が成功するかどうかが重要となり、決算期の利益額が大きいほど投資家の便益は高まることになります。この違いをしっかりと抑えておきましょう。
投資信託の分配金と株式投資の配当金の計算例
投資信託の分配金、株式投資の配当金について、実際に数値を当てはめて計算シミュレーションを行ってみます。計算のプロセスをみると、分配金と配当金の違いがより明確に理解できるでしょう。両者の仕組みの違いをわかりやすくするために、シンプルな数値で計算しています。
投資信託の分配金の計算例
分配金の計算シミュレーションをする上では、まずは基準価額について考える必要があります。ここでは仮に、その時点での投資信託の純資産総額を20万円、投資家向けの口数が全部で20万口だったとしましょう。この場合、1万口あたりの基準価額は、
・(純資産総額20万円÷総口数20万口)×1万口=1万円
となり、1万口あたりの基準価額である1万円が算出されます。
では、この基準価額1万円の時に投資家が1万口を購入して、1万円の個別元本を形成したとします。さらにその後、投資信託の資産運用によって基準価額が1万2,000円に上がったと想定しましょう。
このとき、投資家が定期的に受け取る分配金(毎月分配型など)が3,000円だったとすると、個別元本から収益により増えた分の2,000円部分については課税対象の普通分配金、残りの1,000円部分については非課税の元本払戻金として処理されます。なお、元本払戻金1,000円が生じているので、投資家の個別元本は9,000円となります。
上記では典型例を示しましたが、投資信託(ファンド)は種類が豊富で、分配金をどのくらい、いつもらえるのかは商品ごとに変わってきます。実際に購入する場合は、最も利得の高い商品を合理的に選択することが大切です。
株式投資の配当金の計算例
次に株式投資の配当金について計算してみましょう。まずは想定として、A社が100万円の当期純利益を出し、50万円を内部留保に回し、残り50万円を配当金として株主に配分する状況(配当性向50%)を考えてみます。
この配当金に回された50万円のうち、実際にどのくらいのお金をもらえるかは、基本的に投資家が保有する株式の割合によって決まります。例えば、BさんがA社の株式を10%保有していたら、「50万円×0.1」で5万円の配当金を受け取ることができます。
また、これから株式投資をするという場合、参考にすべき指標が配当利回りです。ここでは銘柄Xの株式が株価3,000円、1株あたりの配当金が60円(予定)である状況を考えてみます。
このとき、配当利回りは、先に紹介した計算式に当てはめると以下の通りです。
・(1株あたりの配当金60円÷株価3,000円)×100=2.0%
Bさんが株式を100株保有している場合であれば、実際に受け取れる配当金は以下のように算出されます。
・(100株×3,000円)×配当利回り2.0%=6,000円
分配金と配当金の計算シミュレーションをみると、両者の違いがよりはっきりとわかります。配当金の場合、企業が配分に充てられるだけの利益を上げていることが大前提です。もし赤字になると、基本的に配当金は望めません。一方、分配金の場合、たとえ資産運用で収益が出ていなくとも、元本払戻金という形で分配金を支払うことが制度的に認められています。
投資信託を始めるなら、分配金と配当金の違いを理解しておこう
投資信託で投資家に短期的に配分されるお金が分配金、株式投資で株主に保有する株式に合わせて配分されるのが配当金です。ニュアンスで「投資信託の配当金」と呼ばれることもありますが、投資の専門家の間では明確に使い分けられています。
分配金は投資信託の純資産の増減によって普通分配金や元本払戻金が支払われ、純資産から直接支払われるという仕組みです。元本払戻金の場合、個別元本から払い戻されるという形で分配金が配分されます。一方、配当金は企業が上げた利益から支払われるので、配当金を受け取っても保有する株式が減少するということはありません。
これから投資を始めるのであれば、まずは分配金、配当金の違いをしっかりと抑えて、自分に合った投資先を選択しましょう。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。