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目次
ストライキが長引くと米国のインフレが上昇する可能性
欧州ではサプライズ利上げにより政策金利がピークを迎えた可能性
中国では、待望の前向きなサプライズ
FRBは今週どう動くか?
イングランド銀行は利上げを行う見通し
市場は日銀の動向に引き続き気をもんでいる
カウントダウンクロック
息子が大学4年生の時にキャンパス外のアパートに引っ越したとき、私は、犯罪を犯そうとする者に向けて、「ここの住民はみな犯罪行為の阻止に熱心だから、盗みに入るならどこかよその地区へ行け」と警告している「自警団」の看板を見て、苦笑しました。実際にはその界隈に住んでいるのは、ドアに鍵をかけず、毎週末パーティに繰り出し、不審な動きがあっても目を覚まさないような大学生ばかりでした。私の息子を含め、そこの住民達は自警団に入るほど熱心ではないかもしれませんが、中央銀行、特に米連邦準備制度理事会(FRB)が経済や市場に過大な影響を与え続けている状況において、私は中央銀行の監視で頭が一杯です。
中央銀行を監視することは、インフレを監視することでもあります。私がレポートで繰り返し述べてきたテーマは、米国では強力なディスインフレ・トレンドが進行中だが、それは不完全なプロセスであり、あらゆるデータポイントが完全に整合的となるわけではない、ということです。案の定、先週はディスインフレへの道のりにいくつかのバンプ(でこぼこ)が生じました。今週は、そうした課題のいくつかについてお話しし、今後開催される世界各国の中央銀行会合をプレビューするとともに、今後予定されている、市場や経済に影響を与える可能性のあるカレンダー上のイベントについてお話しします。
先週最も注目されたのは、8月の米消費者物価指数(CPI)でした。ヘッドラインCPIはガソリン価格の上昇により予想を大幅に上回ったものの、コアインフレは予想より少し上回った程度で、市場はそれほど動揺しなかったようです。とはいえ原油価格の高騰が長引けば、コアインフレに浸透し、問題となるでしょう。
また米国では、先週、全米自動車労組(UAW)がストライキに突入しました。ここ数カ月、ニュースで様々なストライキが報じられており、全米脚本家組合は5月から、全米映画俳優組合は7月からストライキに入っています。しかし、UAWのストライキは経済にはるかに大きな影響を与える可能性があります。米国の3大自動車メーカーで働くUAW労働者は約14万5,000人に上ります1。まだましなのは、少なくとも今のところは、ストライキは一度に数工場のみを対象として順次実施されているという点です。ストライキの期間と影響を受ける工場の数によっては、サプライチェーンに重大な影響を与え、自動車価格を押し上げる可能性があります。
しかし今回のストライキのタイミングは、自動車価格の上昇圧力が非常に強かった昨年に起きていた場合に比べると、はるかにましです。(余談ですが我が家は米国車を所有しており、私は自動車価格のインフレ状況をフォローするのに興味があるので、毎月Carvana(オンライン中古車ディーラー)のウェブサイトに車両識別番号を入力し、中古車の「相場価格」をチェックしています。我が家の車は半年以上、当初の購入価格以上の水準で安定していましたが、2週間前に見た時は10%ほど価格が下がっていました)。自動車価格の低下は、ストライキによる価格上昇への対抗力となるはずです。ストライキは鉱工業生産にもマイナスの影響を与えるでしょうが、私は最終的には、ストライキの期間と範囲次第ではあるものの、米国の国内総生産にはわずかな影響しか与えないだろうと予想しています。
欧州中央銀行(ECB)が先週利上げに踏み切り、市場を驚かせました。しかしそれは「ハト派的な利上げ」と見なされています。ラガルドECB総裁が記者会見で、現時点では今後更なる利上げがないとは言いきれないと述べたものの、市場は現在、ECBの主要政策金利が本サイクルでのピークに達したと予測しています。
ECBの利上げに対し、経済データが弱含みであることから、成長率への影響を懸念する声があります(今週の名言の第1位は、イタリアのサルヴィーニ副首相の「ラガルドは火星に住んでいる2」との発言、第二位はフランスのルメール財務相の「もう十分だ!3」というぼやきに決定です)。また、ユーロ圏経済に対する金融政策のラグ効果は発現し始めたばかりであり、懸念すべき理由があります。例えば、ユーロ圏の7月の鉱工業生産は予想を大きく下回りました4 。ECBの金融政策のラグ効果が更に顕在化する可能性が高いことから、更なる弱含みの兆候を追って、データを注視してまいります。
中国では先週、驚くほど前向きな経済データが発表されました。小売売上高と鉱工業生産は8月に改善し、失業率は低下しました5。このことは、緩やかな景気刺激策が、特に信頼感の醸成という点で好影響を与え始めている可能性を示唆しています。
FRBは今週、政策金利を据え置くとの見方が広がっています。私は、歴史的にFRBによる政策金利の決定に影響を与えてきた2つのデータポイント、CPIとミシガン大学消費者調査における消費者インフレ期待を注視してきました。思い起こせば2022年6月、FRBの利上げ幅が、この2つのデータポイントによって、会合までの数週間によく伝えられていた0.5%から0.75%へと変わったのです。しかし、先週発表された8月のCPIは予想より若干高かったものの、特に懸念を呼ぶようなものではなく、ミシガン大学の消費者インフレ期待も低下したことがわかりました。
ミシガン大学消費者調査によると、ガソリン価格の上昇にも関わらず、消費者の1年先のインフレ期待はかなり改善し、5年先のインフレ期待も低下しました6。この改善はFRBにとって、インフレ期待が十分よくアンカー(安定的に維持)されていると確信するのに役立つはずです。またそれは、FRBが今週の会合で(あるいは今後のいかなる会合においても)利上げを見送り、引き締めサイクルを終了させても問題ないと考えるのを助けるでしょう。更に今回の調査では、消費者マインドの著しい後退が示されました。これもまた、FRBに利上げサイクルの終了を促す後押しとなるはずです。
ここに至っては、引き締めが過剰となる方がより大きなリスクとなることから、私はFRBは利上げを停止すべきだという見方を維持しています。先週私はLinkedInのフォロワーに対して、引き締め過ぎと引き締め不足のいずれがFRBにとってより大きなリスクとなるか質問しました。これに対し圧倒的多数が、引き締め過ぎの方がより大きなリスクとなると回答しました。
従ってFRBは、今週の会合では現状維持を決定すると予想しています。ただ、威嚇的な表現で金融環境の緩和を抑制しようという姿勢から、それはタカ派的な小休止の様相を呈すだろうと考えられます。
イングランド銀行についても今週会合が予定されており、利上げが予想されていますが、それには十分な根拠があります。英国の賃金(ボーナスを除いたベース)の伸びは7月に7.8%と過去最高を更新し、実質賃金の伸びは-0.1%となりました7。実質賃金の伸びは2021年10月以降マイナスが続いています7。更に水曜日には8月のインフレデータが発表される予定で、アルコールと燃料価格がヘッドラインインフレ率を7月よりも押し上げると予想されています。私たちは、コアインフレ率は7月より小幅に低下すると予想しています。
また今回の利上げが、イングランド銀行の本サイクルでの最後の利上げになるだろうと考えるに足る、説得力のある根拠がいくつかあります。失業率は更に上昇し、天候その他の問題を考慮しても、7月のGDPの大幅な落ち込みは大きなサプライズとなりました。これは、2023年4-6月期に住宅ローンの滞納額が13%増と大幅に増加し、過去7年で最も高い水準に達したとのデータが示された中でのことでした8。
日本銀行(BOJ)については、植田総裁の就任からまだ数カ月と日が浅く、市場はその動向に気をもみ続けており、ワイルドカードとなるでしょう。ほんの少し前、植田総裁は日銀が近いうちにマイナス金利を終了する可能性を示唆しました。今後も、日銀の動向については要注視です。
ご存知の方も多いと思いますが、私の娘はバスケットボールをやっています。バスケットボールでは、攻撃側がシュートをしなければならない制限時間を教えてくれる、ショットクロックが試合の重要な要素となります。ショットクロックから目を離したプレーヤーは、しばしば後悔に苛まれます。私が見ているカウントダウンクロックを、いくつかご紹介しましょう:
今後の見通しについては、短期的にボラティリティが上昇したとしても驚きはありません。通常ボラティリティは、政策の不確実性の結果としてもたらされますが、政府機関の閉鎖が迫っていること、FRBの利上げサイクルが実際に終了したかどうか不明確であること、更にFRBによる利下げの開始時期についても疑問が残ることから、ボラティリティは確実に大きくなると予想されます。
加えてFRB以外の中央銀行と、それらが次にどのような対応を取るかについても、大きな不確実性があります。しかし私は、米国経済が比較的短期でバンピーな(でこぼこした)着地をし、その後欧州や英国でも同様のシナリオとなると予想しており、それにより市場が景気回復を間もなく織り込み始め、リスク資産を選好し始めると予想しています。それまでは、中央銀行ウォッチを継続していくつもりです。
9月20日の私の「中央銀行ウォッチ」にぜひご参加ください。FRB会合についての私の予想とライブ・リアクションを、X(旧名ツイッター、@KristinaHooper)でシェアする予定です。
(執筆協力:エマ・マクヒュー)
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2023-145