AI(人工知能)とドローン(無人偵察機)という2つの強力な先端テクノロジーの融合が、様々なビジネスの在り方を大きく変える可能性を秘めています。AIと融合した次世代ドローンによってビジネスがどのように変化するのか、どのようなことが可能になるのか、実際の活用例から最近の動向を見ていきましょう。
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GPSや加速度センサー、搭載カメラなどを搭載し、無人で自律的に飛行するドローン。人間が立ち入れない場所の撮影や測定も難なくこなし、かつ通常の航空機より高解像度な画像を撮影できるという利点を生かし、農作物の管理、航空地図や地域情報の収集、危険な作業箇所の点検など、すでに広範囲な分野で活用されています。
非常に便利なものではあるものの、撮影した画像に基づいて判断するのは人間の役目であり、ドローンの役割はあくまで「画像=判断材料の提供係」です。しかしここにAIを組み合わせることにより、ドローンでキャプチャした映像からAIが様々なことを学習し、エリアのマッピングや目標物の追跡、解析結果のフィードバックなどをリアルタイムで提供できるようになります。
たとえば、これまではドローンが撮影した携帯電話の基地局の画像を元に、人間が破損部分の点検などをチェックしていましたが、AIが人間に代わって常に最適な利用環境を維持するための監視役を果たしてくれます。
このようにドローンが「人間の目」の代用となり、AIが「人間の頭脳」の代用の役割を果たすことで、ビジネスシーンにおける安全性や効率性の向上、労力とコストの削減が期待されているのです。
AIとの融合により進化した次世代ドローンは、すでに一部のビジネスセクターにて活用され始めています。4つの活用例を紹介しましょう。
小売業というとドローン配達が思い浮かびますが、AIを活用すると在庫のチェックや分析・管理を行うことも可能です。
例えばビジネス向けロボットメーカー米Orbyは、スーパーや倉庫の在庫チェックから分析・管理まで全プロセスを行うAIドローンシステムを開発。商品や在庫の棚をドローンがチェックし、AIが分析と管理を行います。
人間のスタッフの労力が劇的に軽減されるほか、在庫の数量確認ミスや価格表示ミスが減り、コストと時間の大幅な削減にもつながります。
ドローンが撮影した土地や建物の画像をAIが分析・管理することで、土地探しや物件探しなどで必要な情報を即座に検索できるほか、管理物件の劣化や破損の有無を確認できます。
また、世界で初めてインターネット・オブ・ドローン(IoD)用のプラットフォームを開発した、米スタートアップFlytBaseは、遠隔地から資産調査を行えるドローンソフトサービス、「FlytNow」をインフラ、エネルギー、公共サービスなど多様な産業に提供しています。
こうしたサービスや商品を、不動産の資産評価に役立てる動きも活発化しています。
保険金の給付金調査目的にも、次世代ドローンが採用されています。ドローンで損傷した建物を撮影し、リアルタイムでデータを会社に送信、AIが申請された内容の信憑性を分析することで、調査プロセスの大幅なスピードアップ化が図れます。
AIを活用するためには、膨大な量のデータからAIに必要な知識を学習させる「トレーニング」が不可欠です。AIベースのSaaSプラットフォームを提供するスイスのPicterra社は、AIのトレーニング作業を通じて、ドローンや衛星で撮影した写真に基づく目標物の検出やマッピング、正確な被害の分析・評価までを総合的に行うプラットフォームを開発しました。同社によれば、AI×ドローンを併用することで、給付金調査の時間が25~50%短縮されるとしています。
農薬散布から種まき、生育状況の分析、病気や害虫による被害対策まで、農業においてドローンの採用が加速していますが、AIがデータを分析し、植栽に最適な時期や適切な量の肥料などを特定するといったことも可能です。
農業に特化したドローン商品やDaaSソリューションを提供する米Airlitixの完全自動グリーンハウス(温室)管理システムは、ドローンがグリーンハウス内の温度・湿度・二酸化炭素レベルのデータを収集します。さらにAIが土壌と作物の健康状態を分析し、最適な育成環境ソリューションに役立てています。
インドの市場調査企業Fortune Business Insightsは、2018年は12億ドルだった商業用ドローンの市場規模が、2019~2026年にわたり年平均で23%以上の勢いで成長し63億ドルに達すると予想しています。
次世代ドローンの恩恵が期待されている一方、ビジネスの成長の妨害となりかねない課題も指摘されています。現在、ドローンが原因となる事故の防止のため、各国で様々な規制が設けられています。しかし使用上の問題や安全性、セキュリティ、プライバシーなど、ビジネスにとって不透明な規制が多い現状です。
次世代ドローンのさらなる普及を目指すうえで、「ビジネス環境を整備するための規制環境」が現時点における最大の課題ではないでしょうか。各国やエリア単位のドローン関連の規制に関する動向にも目を向けておきましょう。
※上記文中の個別企業はあくまで事例であり、当該銘柄の売買を推奨するものではありません。