経済活動や投資にもESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮を求める声が高まる中、長期的な金融安定化を目指す「持続可能な金融(サステナブル・ファイナンス)」の法規制を強化する動きが、欧州を中心に急速に広がっています。
本記事では、法規制を進める上での課題や市場への影響とともに、持続可能な金融規制をリードする欧州の最新規制の動向をレポートします。
目次
持続可能な金融は、ESGの原則をビジネス上の意思決定や投資戦略、経済活動に取り入れることにより、地球に優しい社会の実現を目指すための方法です。
気候変動や公害、人権、労働慣行、消費者のプライバシーに至るまで、広範囲な環境・社会問題の解決に貢献するプロジェクトや事業、技術への融資・投資を促進し、持続可能な経済成長を支える金融インフラを構築することを目指しています。
一方で、市場の急成長はグリーンウォッシュ(※)の増加や、投資判断に必要なESGデータ・開示情報の不透明性といった課題を浮き彫りにしました。
世界的なESG規制の加速は、企業の持続可能な価値を長期的な視点から見極めたい投資家や消費者、自社によるESG活動の有効性を高めたい企業の声を反映したものです。持続可能な金融システムの構築を経済成長の戦略の一つに掲げる風潮も強まっていることから、今後も規制強化の波がさらに広がることが予想されます。
(※)企業が商品やブランドイメージのために、環境を配慮しているように装うこと。
ESG分野における国際基準の策定が進む一方で、各国の政府や規制当局は環境整備に乗り出しています。持続可能な金融の構築・強化に取り組む、欧州の最新動向を見てみましょう。
「世界初の気候中立大陸」を目指すEUは、金融機関に包括的なサステナブル情報の開示を求める「サステナブル・ファイナンス・ディスクロージャー規制」を2021年に導入しました。現在は温室効果ガス排出削減と経済成長の両立を目指す政策「欧州グリーン・ディール」を軸に、持続可能な金融の構築・強化に向けた法整備を加速させています。
2022年2月に採択された「コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令」は、特にESG市場に大きな影響を与えることが予想される規制です。これは、EU市場で一定規模のビジネスを展開する企業にサステナビリティ対応を義務付けることにより、事業活動における環境・人権への配慮を促進することを目指すものです。
具体的には「潜在的な人権および環境リスクへの対応・防止・軽減」「デューデリジェンス(※)の方針・対策・有効性の監視」「取締役の関与」などが提案されており、違反行為が認められる場合には罰金や法的措置が講じられるなど、厳格な内容になっています。
(※)企業を買収するときに行われる、買収対象企業に関する調査のこと。
英国は「世界初のネットゼロ金融(※)」をスローガンに掲げ、「グリーンファイナンス戦略」の法整備を進めています。さらに最新の技術を活用した商品開発の支援や、世界中でグリーンファイナンスの活用を広げるための取り組みを行うことを発表しています。
同戦略の目標は、英国がグリーンファイナンスの国際的リーダーの地位を確立し、金融セクター成長と競争力強、国際的な気候問題の解決に向けた連携などを目指しています。2023年3月に発表した改訂版では、国内大手企業に対するネットゼロ移行計画の開示義務化に向け、最終調節を進めていることなどが明らかになりました。
(※)ネットゼロとは、温室効果ガスの排出量と大気中から除去される量がほぼ同量になっている状態のことで、それを金融で支援する取り組みのこと。
持続可能な金融規制の強化については、プラス面とマイナス面がそれぞれ指摘されています。
プラス面は市場の透明性が向上し、投資家がより適切な情報に基づいた意思決定を行うことが可能になることです。市場の長期的な成長にも大きく貢献すると期待されています。
マイナス面は急速に規制が強化された場合に、企業に過剰なコンプライアンス(※)の負担を与え、市場の成長が妨げられるリスクがあることです。また、ESGへの投資規模が縮小する可能性も懸念されます。
(※)法令厳守のこと。
ESG市場の持続可能な成長を促す上で、持続可能な金融規制が重要な役割を担っていることは間違いありません。今後は欧州以外の地域においても、市場の成長戦略と規制のバランスを模索する動きが加速することが予想されます。Wealth Roadでは、引き続きESG規制の動向をレポートします。
※本記事はESG規制に関わる知識を解説することを目的としており、ESG関連資産等への投資を推奨するものではありません。