行政やビジネス、交通、資源、公共サービスなど幅広い分野で採用されているGIS(地理情報システム)を、不動産分野に活用する動きが加速しています。Prop Tech(Property Tech:不動産テック)の一環として、開発業者や不動産業者、不動産所有者に大きな利益をもたらすと期待されていますが、具体的にどのような活用法やメリットがあるのでしょうか。
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GIS (Geographic Information System:地理情報システム)は、地理的位置情報と位置に関わる付加情報をデータ化し、分析や判断に利用するためのシステムです。
地理データを作成するのはもちろんのこと、街路や建物、植生など、様々な種類のデータを1つのマップに表示したりできるほか、無関係に見えるデータも位置情報によって関連付けることができるため、特定の地域の特徴や人間行動、経済活動との関連性を分析・理解しやすくなります。
具体的には、新しい店舗や停電発生位置の表示、カーナビのルート作成、犯罪パターンの分析、天気予報などに活用されています。活用される分野は、都市計画から施設・設備、官公庁・自治体、防犯・防災、環境まで多岐に渡ります。
すでに実用化は進んでおり、事故や工事などの道路交通事情を考慮、最短ルートを検索するといったナビゲーションから東京都区部の都市再開発の計画まで、身近なところにもGISが活用されています。
不動産は、このGISの恩恵を受けている分野の1つです。GISベースの管理システムを活用することで、不動産に関する詳細かつ正確な情報にアクセスできるようになるからです。いくつか不動産にかかわるGIS利用のメリットを見てみましょう。
空き地の位置や不動産価格の相場、土地所有権といった不動産に関する情報から、国勢調査データ、交通量、地域の特性など資産価値に影響を与えるあらゆる要素を可視化することで、当該物件だけでなく、その周辺情報もひと目で把握できます。その結果、不動産業者や不動産投資家、マイホームの購入を検討している個人は、不動産の真の価値について、より深い洞察を得られます。
不動産業者がGISデータを利用すれば、クライアントの希望に沿った不動産の検索において大幅なスピードアップを図れます。例えば、20~30代の独身層をターゲットとするアパレル店舗の候補地を探す場合、地域の特性や同業者の集客率などから、出店に最適なエリアを特定するといった活用方法があります。
可視化されたGISデータを組織あるいはチーム内で共有することで、内部のコミュニケーションレベルや知識が向上します。また、スマホやタブレットからアクセスできるツールを利用することで、外出先でも顧客に情報を提供することができます。
より質の高い情報に基づいて不動産の真の価値を把握できるほか、これらの情報や分析結果を顧客や提携先などと共有することで、不動産市場の透明性が向上します。また、マーケティング計画や開発計画、テナント管理の最適化にも役立てることができます。
現在、様々な企業がGISを採用し、不動産業務の効率化を図る手段を模索しています。
米国の地理空間ソフトウェア企業GeoSpanは、クルマに装備できる GIS装置「GEOASSIST」を開発。撮影した物件の映像を地理座標に関連付けることができるため、クライアントは現地に出向く必要なく、コンピューターで不動産を確認することができます。
また、スイスのソフトウェア企業Esriが開発した3D都市ソフトウェア「CityEngine」は、都市計画の設計だけではなく不動産の査定に使用されています。従来の2Dによる査定方法では測定できなかった垂直寸法など、建物の複雑な構造や特徴をより精密に知ることができ、本来のあるべき価値に基づく正確な査定が行えます。
こうした試みは特に都市化が加速する中国で活発化しており、例えば中西部の大都市、西安市では、「CityEngine」を使用した査定の正確性を測定する実験などが実施され、2Dに代わる効果的な査定法であることが立証されています。
GISは、さらなる進化とともに、現代の資産管理方法として、またビジネスや投資チャンスを創出するイノベーションとして活用されるシーンが増えていくでしょう。GISが不動産業界に欠かせないツールとなることは、ほぼ確実と言えます。
GISをAR(拡張現実)やVR(仮想現実)、MR(複合現実)と組み合わせて利用する動きも見られます。近い将来、GISの不動産データを各種のデバイスで可視化できるようになるかもしれません。不動産市場に大きな変化をもたらす可能性のあるGIS。関連企業やサービスの動向に注目していきましょう。
※上記文中の個別企業はあくまで事例であり、当該銘柄の売買を推奨するものではありません。