Adidasが、100%リサイクル可能なスニーカー「Futurecraft.Loop2」のプロトモデルを発表しました。リサイクルを繰り返し、「永遠に生き続ける製品」を提供することが目的です。しかし、完全リサイクル型のスニーカーが主流となるためには、消費者の意識改革など、まだまだクリアすべき課題もあるようです。サステナブル(持続可能)な製品開発の最前線を見てみましょう。
目次
単一素材で作られ、100%リサイクルの可能なランニングシューズ、初代「Futurecraft.Loop」は2019年4月にAdidasよりリリースされ、コンテンツクリエーターやインフルエンサー、メディアなどに、トライアルとして200足限定で配布されました。2019年11月にリリースされた「Futurecraft.Loop2」は、そこで得たフィードバックと回収したスニーカーを元に開発されました。
Futurecraft.Loopは一見普通のスニーカーと変わりませんが、原料はリサイクル可能で耐油性に優れたTPU(熱可塑性ポリウレタン)のみ。TPUは透明で柔軟性が高いため、リサイクルに向いています。
リサイクルプロセスを簡単に説明すると、返却された古いスニーカーを洗浄後、シュレッダーで粉砕。粉々になった原料を溶解し、新たなスニーカーの原料にします。接着剤を使わず、Adidas独自のレーザー技術でパーツを接合し、「高機能なスポーツシューズ」としての品質テストが行われます。
白と青を基調とするシンプルなデザインに、超軽量でありながら快適さとクッション性を備えた2世代目のFuturecraft.Loop2はこうしてリリースされました。この100%リサイクル可能な高機能シューズ開発の試みは、もうしばらくの試験運用がなされ、2021年の春夏に発売される予定です。
これまで、スポーツシューズの素材として使われてきたプラスチック製品は、リサイクルの視点から見ると多くの課題がありました。
リサイクルを重ねるたびに品質が劣化すること、同じ材質のプラスチック(ポリエチレン、ポリスチレンなど)にしか再生できないこと、回収したプラスチックに含まれる有害な化学物質を排除する必要があることなどによって、コストと手間がかかっていたのです。
科学ジャーナル誌Science Advancesに掲載された報告書によると、2015年にリサイクルされたプラスチック廃棄物はわずか9%と、再生率が極めて低いことが明らかになっています。
これに対するAdidasの挑戦が「Futurecraft.Loop」プロジェクトです。同社がこのプロジェクトに着手したのは2013年。ドイツの化学メーカーBASFと提携し、「Boost」という素材を開発しました。Boostは同社の大半のシューズのミッドソール部分に使用されており、2,500個のTPUで構成されています。さらに、2016年にはスポーツシューズ用のTPU糸を開発しました。このTPU素材は柔軟性が高く形状を容易に加工でき、前述したように接着剤を使わずに接合が可能。これにより完全リサイクルの実現に目途が立ちました。
2012年にマサチューセッツ工科大学の研究者が行った調査によると、世界のランニングシューズとジョギングシューズの売上は、年間平均250億足(1日3,400万足)。これらが環境に及ぼす影響は、計り知れません。Adidasの「Futurecraft.Loop」プロジェクトは、この巨大な市場に変革をもたらす試みとして、注目されているのです。
完全リサイクル型のエコシステムの構築に貢献している企業は、他にもあります。
ロンドンを拠点とするスポーツシューズメーカーVivoBarefootは、再利用された藻類を原料とするスニーカーを開発したほか、産業飼料用とうもろこしなどを含む植物由来の素材開発にも取り組んでいます。
また、NikeやAdidas、Converseなど大手スポーツメーカーと提携したことがあるスタートアップ、Other Yearが、100%リサイクル可能なスポーツシューズの開発を目指して資金調達ラウンドを実施するなど、Adidasの挑戦の追い風となる動きも見られます。
原材料や製品が廃棄されることなく、別の製品へと永遠に生まれ変わり続ける「100%リサイクル可能なエコシステムを作り出す」というコンセプトは素晴らしいものです。しかし、「消費者が製品を返却しない限り、効率的にリサイクルすることができない」という課題があります。
世界各地で環境保護への意識が高まっているとはいえ、「靴をリサイクルする」という意識が低いことが、Futurecraft.Loopのトライアルでも明らかになっています。
消費者のリサイクル意識を高めるためのアプローチやマーケティングを行う上では、スタイリッシュで高機能であるだけでなく環境を配慮した製品を作る必要性や、100%完全リサイクルの仕組みを幅広い層にわかりやすく説明する必要があります。
これに加えて、消費者が利用しやすいリサイクルシステムを構築することが、普及のカギを握っていると言えるでしょう。
たとえば、送料無料で返却できるサービスや、返却するとポイントが貯まるロイヤリティ・プログラムなど、消費者のモチベーションを上げる工夫も必要になるでしょう。
Futurecraft.Loopのコンセプトが世界中の消費者に受け入れられれば、「スポーツシューズを製造する」という概念は過去のものとなり、「スポーツシューズを再生する」という新たなビジネスモデルが確立されるかもしれません。
※上記文中の個別企業はあくまで事例であり、当該銘柄の売買を推奨するものではありません。