ホーム > マーケットビュー > 中央銀行はいつ利上げ幅の「縮小」を行うか?

中央銀行はいつ利上げ幅の「縮小」を行うか?

※インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。

〔要旨〕

「超大型」インフレとの戦い:新型コロナウイルスの影響による超大型インフレに対応するため、金融引き締め政策も超大型化せざるを得なかった

利上げ幅を「縮小」するタイミングか?:中央銀行の一部は、現在、今後の政策金利の引き上げ幅を縮小する準備を進めている

グローバルな視点:カナダは政策金利の引き上げ幅の縮小を先導し、米国も間もなくこれに追随する可能性があるが、欧州の状況はやや不透明

FRBの行く末は?

欧州では議論が続く

結論

ファーストフード店の影響により、多くの消費者は「スーパーサイズ(超大型、超大幅)」という言葉に慣れ親しんでいます。一方、「ダウンサイジング(小型化、縮小)」は損失、つまり一個のサイズが小さくなったり、雇用カットにより職を失ったりすることなどを連想させます。しかし、金融政策に関していえば、私にとって「ダウンサイズ」は、新しいより前向きな意味を持つようになりました。このところ超大幅な政策金利の引き上げを行ってきた中央銀行の一部が、今後引き上げ幅を縮小する準備に入ったように見えるからです。今後、政策金利の引き上げ幅が縮小に向かいそうだというのは、大いに歓迎すべきことだと私は考えています。

カナダ銀行(中央銀行)は、10月下旬に開催された金融政策決定会合では0.5%の利上げを決定しましたが、その直前2回の金融政策決定会合での利上げ幅はそれぞれ1%、0.75%となっており、既に引き上げ幅の縮小に着手しています。また、現在、米連邦準備理事会(FRB)も同様の動きに向かう態勢を整えているようです。

FRBの行く末は?

先週、11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合の議事要旨が公表されました。その中で、「過半数を大きく上回る」FOMCメンバーが、政策金利の引き上げペースを緩めることが「まもなく適切になる可能性が高い」と考えていることが分かりました。議事要旨からは、政策担当者が、これまでの引き締め政策が金利に敏感なセクターに影響を及ぼしたものの、インフレはまだ高すぎると考えているようにみえます。しかし、そうした考え方にも変化が起きました。政策金利の引き上げが、これほど大幅かつ速いペースで行われたことを受け、現在は、より思慮深いアプローチを取るのが適切なタイミングと考えられます。議事要旨でも、「政策金利の引き上げのペースを遅くする方が…最大雇用と物価の安定という(FOMCの)目標に向けた進ちょくを評価しやすくなる…金融政策が経済活動とインフレに与える影響の遅れや大きさが不確実であることが、その理由の一つとして挙げられた」とされています 1

しかしこれは、直近の数週間に行われたFRBの発言におけるタカ派的な表現と、どう結びつくのでしょうか。私の見るところ、その答えはシンプルです。利上げを縮小するためのリトマス試験と、利上げを終了するためのリトマス試験があり、後者の方が、前者に比べてはるかにハードルが高いということではないでしょうか。以下は、直近のFRB関係者による発言をいくつか抜粋したものです。

  • ミネアポリス連邦準備銀行のカシュカリ総裁は、「今後の政策金利の引き上げ継続の停止を提唱する前に、少なくともインフレ率の上昇が止まり、われわれがこれ以上後手に回らないと確信する必要がある…われわれはまだその段階には至っていない」と述べました 2
  • セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁は、インフレを十分抑制するためには、政策金利を5-7%の水準まで引き上げる必要があるかもしれないと示唆しましたが、これに加えて、今後数カ月でインフレの熱が冷めていけば、そこまでの上昇は必要ない可能性がある、とも述べました。
  • カンザスシティー連邦準備銀行のジョージ総裁は、「労働市場の極めてタイトな状況を見ると、実体経済のある程度の減速なしに、どのように現在の水準のインフレを低下させ続けるか、その方法は不明で、そこに至るまでには景気後退を覚悟しないといけないかもしれない」と述べました 2

インフレは、FRB当局にとって依然として最重要課題であり、最終的な政策金利の水準を大きく左右する要因です。FRBが、インフレが制御されつつあるという安心感を持てなければ、政策金利の引き上げが継続される可能性が高いでしょう。また、重要なのは実現したインフレ率の数字だけではありません。FRBは、より長期のインフレ期待を「インフレ動向に重要な影響を与える要因」ととらえており、その動きに非常に敏感となっています 3 。先週のミシガン大学消費者調査では、長期的なインフレ期待が上昇していることが示されました。長期的なインフレ期待は、比較的安定的であることを示唆するレンジにとどまってはいますが、好ましい方向に動いているとは言えません。FRBは、長期的なインフレ期待が安定的に推移する状況が維持されるとの思い込みに「甘んじる」ことはないとしており、インフレ期待の動きが間もなく反転していくのを期待したいところです。

FOMC議事要旨の公表後、リスク資産の価格は上昇したものの、市場はすぐに、議事要旨で示された内容は周知のことばかりであることを理解しました。FRBがいずれかの段階で、政策金利の引き上げ幅を縮小するのは確実ですが、引き上げ停止ボタンをいつ押すかは分かりません。これはインフレデータ(およびインフレ期待)から読み解くことになり、今後その数値が、この先数週間、数カ月の市場に過大な影響を与える可能性が高いでしょう。

欧州では議論が続く

欧州中央銀行(ECB)とイングランド銀行(BOE)の状況はより複雑で、景気後退圧力が強まる中、高インフレが持続しており、状況はより不透明です。ECBが政策金利の引き上げ幅を縮小するのは時期尚早で、より前倒しで引き上げを行う必要がある、というECBのシュナーベル専務理事のような声も聞かれます。また、英国の長期のインフレ期待は他の先進国に比べてはるかに高いため、BOEはインフレに立ち向かう姿勢への信頼獲得に焦点を当てるために、よりタカ派的な姿勢を取る必要性を感じるかもしれません。

ECBのラガルド総裁も、「ユーロ圏のインフレ率はあまりにも高すぎる。10月には、欧州通貨統合の開始以来初めてとなる2ケタに達した」とインフレ問題の深刻さを強調しました 4 。ラガルド総裁は、景気後退のリスクが高まっていると認めつつ、先週のカンザスシティー連銀のジョージ総裁の発言とは対照的に、景気後退入りしてもインフレ率が低下しない、すなわちスタグフレーションが起こる可能性があると認めました。しかし、その説明は理にかなっており、主要なインフレ圧力が金融政策ではコントロールできないユーロ圏が、はるかに複雑な状況に置かれていることの理由にもなっています。

ユーロ圏経済には明らかに大きな圧力がかかっています。先週発表された、11月のユーロ圏の購買担当者景気指数(PMI、速報値)は、5カ月連続で低下しました(ただし、下落率は緩やかになっています)。製造業、サービス業がともに低下しました。国別では、ドイツとフランスがともに好不況の分かれ目となる50を下回りました。11月の企業活動の落ち込みにより、ユーロ圏の景気後退の可能性が高まりましたが、一部の価格圧力が緩和されたのは良いニュースでした。ECBが最近公表した金融安定レビューでは、ユーロ圏経済に対して増大するリスクが強調されました。これには、エネルギー価格の上昇と金利の上昇を受けた、ユーロ圏の家計へのリスク増大も含まれています。英国のPMIも、投入コストと販売価格が緩和の兆しを見せているものの、50を下回っています。私は、冬が深まるのに合わせたエネルギー価格圧力の上昇や、新型コロナウイルスの流行が再燃した場合のサプライチェーン問題の再浮上など、いくつかの今後のリスクについて懸念しています。

現時点でBOEとECBは、FRBよりも、経済のぜい弱性を心配すべき立場にあります。そのため私は、ECBとBOEが、間もなく政策金利の引き上げ幅を縮小し始めると予想しています。ECBのチーフエコノミストを務めるレーン専務理事は、既に大幅な政策金利の引き上げが実施されているため、今後大きな引き上げを行っていくのは難しくなるだろうと述べています。ただし、これらの中央銀行が、いつ政策金利引き上げの停止ボタンを押すかについては、より大きな疑問符がつきます。私は、ECBとBOEはFRBほどタカ派的ではないと予想しますが、FRBよりもタカ派的になる可能性があると見る向きも出てきています。とにかく今は、困難な時代であるという一言に尽きるでしょう。

結論

重要なことは、インフレは、新型コロナウイルスと各国のパンデミック(世界的大流行)への対応によって「スーパーサイズ(超大型)」化したことです。そのため、金融引き締め政策もまた「スーパーサイズ」にならざるを得ませんでした。今私たちは、金融引き締め政策を「ダウンサイズ(縮小)」し始めることができる地点まで来ました。このことはほぼ市場に織り込み済みとはいえ、私は前向きな展開として歓迎したいと思います。しかし焦点は急速に、各中央銀行がいつ政策金利引き上げの停止ボタンを押すかに移行するでしょう。そしてそれは、各国の経済状況によって異なる可能性があります。ただ、「停止」ボタンがいつ押されるのかに関する見通しは、かなり不透明です。そのため、各中央銀行の発言やデータの動向に市場が反応し、金融市場ではボラティリティが高まることが予想されます。

今週は、米国雇用統計の公表が予定されていますが、これはインフレの重要な構成要素である賃金の伸びに関する指標となります。また、日本の10月失業率と小売売上高、中国のPMIデータも公表される予定です。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

  1. 出所:FOMC、11月会合議事要旨
  2. 出所:マーケットインデックス、“Morning Wrap: S&P 500 falls on hawkish Fed comments, oil tumbles, ASX futures flat”、2022年11月18日
  3. 出所:FOMC、11月会合議事要旨
  4. 出所:ECB理事会におけるラガルド総裁スピーチ、2022年11月18日

ご利用上のご注意
当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。

MC2022-172

本サイトの記事は(株)ZUUが情報収集し作成したものです。記事の内容・情報に関しては作成時点のもので、変更の可能性があります。また、一部、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供している記事を掲載している場合があります。 本サイトは特定の商品、株式、投資信託、そのほかの金融商品やサービスなどの勧誘や売買の推奨等を目的としたものではありません。本サイトに掲載されている情報のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はご自身の判断でなさるようお願いいたします。 当サイトご利用にあたっては、下記サイトポリシーをご確認いただけますようお願いいたします。