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市場予想を下回る米消費者物価指数:米インフレ率の結果を受け、市場はポジティブに反応
インフレはピークを迎えたのか?:しかし、米国のインフレのピークが過ぎ去ったのか、それともまだ先なのかは、依然として不透明である
2つのシナリオ:①インフレが緩和していくシナリオ、②インフレが高止まりするシナリオ—を紹介
インフレが緩和していくシナリオ
インフレが高止まりするシナリオ
インフレの先行きに関する私の見解
先週ついに、市場がずっと待ち望んでいたデータ、すなわち、市場予想を下回る米国の消費者物価指数が公表されました。しかし、今後はどうなるのでしょうか?インフレは今後数カ月で、緩和基調で推移するのでしょうか、あるいは高止まりするのでしょうか?前者のシナリオであれば、政策金利の引き上げが打ち止めになるタイミングが近いということになり、後者のシナリオであれば、米連邦準備理事会(FRB)がより長く、積極的な金融引き締め政策を続けねばならないということになります。
市場は明らかに、米国のインフレがピークを迎え、今後も緩やかに推移し、FRBがまもなく政策金利の引き上げを一段落させると考えているように見えます―少なくとも先週の市場は、そう見えました。インフレ率の公表を受けて、債券利回りは大きく低下(債券価格は上昇)し、米ドルも低下した一方で、株価は劇的に上昇しました。これらを見て、私は、市場の過剰反応ではないかと感じました。今回のインフレ率の結果は確かに良いニュースでしたが、ほんの1カ月のデータに過ぎません。インフレ率の水準が実際に低下していくかどうかは、数カ月間観察してみなければ分からないのです。多くの市場・経済指標と同様に、実際に観察されるまでは確信をもって変曲点であると言うことができません。
米国ではインフレが既にピークを迎え、今後は緩和していくとのシナリオに関する論拠は、数多くあります。財価格ははっきりと下落しており、中古車価格が反転したことは、環境の変化を如実に表しています。これは、金融環境が引き締められていることからすると、納得できます。実際、2022年10月のシニア・ローン・オフィサー・サーベイ(銀行融資担当者調査)では、企業・家計に対する融資基準の実質的な厳格化が起こっていると示唆されています 1 。またグローバルサプライチェーン圧力指数は、2021年11月に4.2とピークをつけた後、大幅に緩和しており、2022年10月の値である1.0は、過去のデータとの比較において、正常とみなされる範囲に近づいています 2 。さらに不動産市場は、明らかに住宅ローン金利の大幅上昇に反応しており、シェルター(住居費)・インフレ率(住居費の上昇率)に大きな下方圧力をもたらすと考えられます。
しかし、インフレが高止まりするだろうとのシナリオにも、いくつか論拠があります。その1つは、労働市場が極めてタイトになっていることで、賃金上昇の抑制が難しくなるとの指摘です。私自身、特に特定の産業で、その可能性がある程度高いのではないかと考えています。しかし、だからといって全体的なインフレ率が、今後数カ月で緩和していく可能性がないとは限りません。私がそれよりもはるかに大きな関心を寄せているのは、インフレ期待です。
先週の本レポートでお伝えしましたように、インフレ期待こそが、将来のインフレを左右する大きな役割を果たすとの考え方があります。そして先週も言及しましたように、パウエルFRB議長もその信奉者の一人のようで、長期の期待インフレ率を非常に重視しているようです。実際パウエル議長は、2022年6月の0.75%の政策金利の引き上げ決定(当初FRBは予想引き上げ幅を0.5%としていたにもかかわらず)について、その数日前に発表された2つのデータ(すなわち消費者物価指数(CPI)とミシガン大学消費者調査における消費者インフレ期待)が、いずれもFRBの予想を上回ったことが大きな要因だったと示唆したのです。
先週金曜日、ミシガン大学の11月の消費者調査(速報値)が発表されました。それによると、5年先の期待インフレ率は2.9%から3.0%へとわずかに上昇しました 3 。 わずか数カ月前に、5年先の期待インフレ率が2.7%だったことからすると、これは望ましくない傾向です 3 。ニューヨーク連邦銀行による消費者調査でも、同様の結果が出ています。3年先の期待インフレ率の中央値は、2.8%から3.1%へと1カ月で大きく上昇しました 4 。このところ、消費者の期待インフレ率は好ましくない方向に動いているようです。しかし、これらは限られたデータポイントに過ぎず、ガソリン価格の上昇のタイミングと重なるため、FRBが12月に0.5%の政策金利の引き上げにシフトダウン(減速)するのを妨げるとは思えません。ただし、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーによる監視の目は、厳しくなると思われます。
インフレ期待を、既に一部のFOMCメンバーが意識していることは確実です。例えば、先週スイス・チューリッヒで行われた講演で、ニューヨーク連邦銀行のウィリアムズ総裁は、米国の消費者による長期の期待インフレ率の値に非常に満足しているとの見方をあえて披露しました。「嵐の海で安定をもたらすアンカー(錨)」と題した講演で、ウィリアムズ総裁は、「過去1年半にわたる世界的なインフレの荒波に対応するには、安定した錨がこれまで以上に重要だ。これに関しては良いニュースがある。米国の長期的なインフレ期待は、FOMCの長期目標とほぼ一致する水準できわめて安定的に推移している」と説明しました 5 。しかし他方でウィリアムズ総裁は、インフレの不確実性の問題にも焦点を当て、不確実性が高まっていると指摘しつつ、今後5年間のインフレの先行きに関する見解が極端に分かれていると表明しました 5 。9月のニューヨーク連邦銀行調査では、約25%がデフレを予想し、ほぼ同数が4%超のインフレを予想しました。ウィリアムズ総裁は、この乖離に警鐘を鳴らしはしなかったものの、FOMCの他のメンバーは、この「インフレ期待をめぐる混乱」への懸念をより強めているかもしれません。こうしたことからも、長期的なインフレ期待に関する指標を、今後ますます注意深く見守る必要がありそうです。
2つのシナリオのうち、私はどちらかといえば最初のシナリオ、すなわちインフレは既にピークを迎えたというシナリオに近い見方をしています。しかし、特に次のようなテールリスクが存在することから、私は楽観視しつつも慎重に構えています。FRBによる政策金利の引き上げが一段落するタイミングが間近に迫っているとの期待から、市場が勢いよく好意的に反応した場合、かえってFRBが引き締めの度合いを強めねばならない、逆効果をまねく可能性があります。例えば、ゴールドマン・サックスの米国金融環境指数(FCI)は、株価上昇後の木曜日に、1日の下落幅としては過去3番目の大きさとなる0.5%超の下落を示しました 6 。市場が先走った反応をすれば、FRBが動かざるを得なくなる可能性があります。先週ウォラーFRB理事が、10月のCPIと市場の反応について述べたように、「市場が先走りしているようだが…これはあくまで1つのデータポイントに過ぎない 7 」のです。私は、上記のように、市場の過剰反応に呼応してFRBが更に引き締めを強める事態にはならないと思っていますが、市場の好意的な過剰反応がさらに続く場合を考え、この点について明確に述べておこうと考えました。
私は、インフレはおそらく既にピークを迎えており、FRBの12月の政策金利引き上げ幅が0.5%にとどまるだろうと考えていますが、それでもFRBがいつ金融政策の引き締めを一段落させるか、まだ十分見通しが立っているわけではないことに、留意する必要があります。FRBは、小幅(0.25%)な引き上げに移行しうるものの、引き上げを一服させるのはそうすぐではないかもしれません。私の基本シナリオでは、2023年1-3月期末までには引き上げが一段落すると見ていますが、まだ不透明です。金融政策に関してデータに依存しているFRBにとっても、まだ不透明なのではと思われます。しかし私は、消費者による長期の期待インフレ率の方向性こそが、FRBの今後の道筋に影響を与えるのではないかとひそかに考えています。
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2022-169