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ESG投資とは?投資家にとってのメリット・デメリットとわかりやすい始め方

近年、さまざまなメディアで取り上げられている「ESG投資」。ESG投資の規模は着実に拡大しており、その投資額は世界全体で35兆ドルに上ると言われています。今回はESG投資の概要やメリット・デメリット、始め方などを紹介します。

ESG投資とは?

ESG投資とは、環境・社会・企業統治の3つの観点から投資先を選ぶ投資手法のことです。

ESG投資の概念が広まるまで、多くの投資家は売上高や営業利益などの「財務情報」をもとに投資先を選んでいました。

しかし、ESG投資の浸透によってその状況は変わりつつあり、最近は以下のような「非財務情報」を重視する投資家が増えています。

非財務情報の種類 投資判断に用いられる情報の例
環境に関するもの ・二酸化炭素の排出量が抑えられているか
・環境汚染物質を排出していないか
・再生可能エネルギーを積極的に利用しているか
社会に関するもの ・地域活動に貢献しているか
・女性が活躍できる社内体制になっているか
・労働環境が改善されているか
企業統治に関するもの ・積極的に情報が開示されているか
・資本効率に対する意識が高いか
・適切なコーポレートガバナンスや内部管理体制が整っているか

非財務情報が充実している企業は、経営体制や事業が安定しているところが多いため、将来高い収益力やブランド力などを備える可能性があります。

ESG投資は短期的な利益ではなく、企業の「将来性・持続性」に投資する中長期的な投資手法と言えるでしょう。

ESG投資の市場規模は拡大している

世界持続的投資連合(Global Sustainable Investment Alliance、GSIA)が公表するレポートによると、世界のESG投資残高は以下のように推移しています。

時期 ESG投資残高
2012年 13.261兆ドル
2014年 18.276兆ドル
2016年 22.838兆ドル
2018年 30.683兆ドル

同じくGSIAが公表したデータによると、2020年における世界のESG投資残高は約35兆ドルと2018年比で15%増え、日本のESG投資残高も約2.9兆ドルに上りました(過去2年間で32%増)。

ESG投資の規模が拡大している理由として、2015年の国連サミットで採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」の影響が考えられます。

今やSDGsの概念は世界中に浸透しつつあり、多くの地域で環境や社会などのあり方が見直されています。

こうした動きに合わせて、SDGsとの関連性が強いESG投資も注目されてきており、2025年には世界の投資額が53兆ドルに達するとも言われています。

ESG投資の7つの手法

一口にESGと言っても、その投資手法はさまざまです。
ここからは、GSIAが定義する「7つの手法」について解説します。

1.ネガティブ・スクリーニング

ネガティブ・スクリーニングは、環境・社会・企業統治に関する基準を設定し、その基準を満たさない投資先を除外する手法です。

中でも「酒・タバコ・ギャンブル」関連を除外する方法が有名ですが、最近では原子力や化石燃料、温室効果ガス関連銘柄の多くも除外されるようになりました。

2.ポジティブ・スクリーニング

一方で、環境・社会・企業統治の面で高い評価を受けている投資先を選ぶ手法は、ポジティブ・スクリーニングと呼ばれています。

ポジティブ・スクリーニングでは、主に指数算出会社が公表している「ESG格付け」を参考に投資先を選定します。

3.国際規範スクリーニング

国際規範スクリーニングは、ESGに関する国際基準と各銘柄を照らし合わせて、最低限の基準を満たさないものを除外する手法です。

参考にする国際基準は投資家によって異なりますが、一般的には国連事務総長が提唱した「国連グローバル・コンパクト」や、国際労働機関が定める強制労働に関する条約などが用いられます。

4.ESG統合型

ESG統合型は、環境・社会・企業統治の観点だけでなく、従来の財務情報も含めて総合的に投資先を判断する手法です。

特に日本で注目されている投資手法であり、2018年時点では国内におけるESG投資資金の半分以上を占めています。

5.サステナビリティ・テーマ投資

サステナビリティ・テーマ投資は、ESGの中でも「持続可能性(サステナビリティ)」を重視する手法です。

具体的なものとしては、再生可能エネルギーに関連する銘柄や、持続性のある農業に関する銘柄などへの投資が挙げられます。

6.インパクト投資型

インパクト投資型は、主に環境・社会への貢献度を重視する手法です。

貢献度の計測にはさまざまな指標が用いられており、例えば「就学率や識字率が何%アップしたか?」のように、取り組み前と後のデータを比較することで投資先を判断します。

7.エンゲージメント・議決権行使型

エンゲージメント・議決権行使型は、「株主としての権利」を活用した手法です。

具体的には、株主総会や経営陣との対話などを通じて、ESG関連の取り組みを積極的に提案・推進します。企業が提案に応じない場合は、投資先から除外することもあります。

ESG投資を始めるメリット

ESG投資を始めると、投資家に思いがけないメリットが生じることもあります。ここからは、ESG投資を始める前に押さえておきたいメリットについて解説します。

1.長期的なリターンを期待できる

前述の通り、ESG投資では企業の「将来性・持続性」に投資します。そのため、ESGの観点で投資先を絞ると、自然と長期的なリターンを期待できるようになります。

これからESG投資を始める方にとっては、現在進行形で市場規模が拡大していることも追い風になるでしょう。ESG投資の注目度が高まれば、関連する銘柄の価値もますます高まっていくと考えられます。

2.投資リスクを抑えられる

投資リスクを抑えられることもESG投資を始める大きなメリットです。

ESGに取り組む企業は安定した経営基盤や事業を有しているところが多いため、企業価値が下がりにくいと言えます。

最近では欧米を中心に、ESGに取り組まない企業に対して「ダイベストメント(※)」が行われるケースが増えています。このダイベストメントによる株価の下落リスクを回避できる点も、ESG投資を始めるメリットと言えます。

(※)機関投資家などが投資資金を引き上げること。対象となった銘柄の価値は下落しやすい。

3.社会や地域に貢献できる

個人投資家の中には、経済的なリターンだけでなく「社会や地域への貢献」を重視する人がいます。そうした投資家にとって、ESG投資は目的を達成しやすい投資手法と言えるでしょう。

ESG投資を通して社会や地域に貢献すると、他の投資にはない満足感・達成感を得られます。

ESG投資のデメリットやリスク

一方で、ESG投資には次のようなデメリットやリスクも潜んでいます。

1.短期的なリターンを得にくい

ESGに取り組む企業は、中長期的な利益を重視して経営にあたっています。目先の利益にはとらわれない経営方針なので、投資家は短期的なリターンを得にくい傾向があります。

そもそも、環境・社会・企業統治に関する課題は短期間で解決できるものではありません。
短くても数年単位のプロジェクトとなるので、ESG投資を始める場合はあくまで「長期的なリターン」に目を向けることが大切です。

2.投資判断が難しい

判断材料に非財務情報が含まれることで、投資判断が難しくなりやすいこともESG投資のデメリットです。

非財務情報は数値化できないものが多いため、場合によっては自分の感覚だけを頼りに投資先を選ばなくてはなりません。

また、最近では「グリーン・ウォッシュ(※)」と呼ばれる行為も問題視されています。

グリーン・ウォッシュを行っている企業に投資すると、ESGに取り組んでいない企業に資金が回ってしまうため、投資家は公開されている情報の真偽もチェックする必要があります。

(※)実際はESGに取り組んでいないにも関わらず、あたかも取り組んでいるように見せかけること。

3.情報収集に手間がかかる

ESG投資では、情報収集に手間がかかる点も軽視できません。

中でも非財務情報は膨大な資料から多角的に収集する必要があるので、個人投資家では十分な情報収集が難しいケースもあります。

また、非財務情報から企業価値を見極めるには、ある程度の知識や経験も求められます。

ESG投資のメリット ESG投資のデメリット
・長期的なリターンを期待できる
・投資リスクを抑えられる
・社会や地域に貢献できる
・短期的なリターンを得にくい
・投資判断が難しい
・情報収集に手間がかかる

ここまで解説したように、ESG投資にはメリット・デメリットの両面が存在します。

従来の投資手法とは大きく異なるので、特に情報収集や投資判断は慎重に行う必要があります。

潜んでいるリスクも当然変わってくるため、ESG投資を始める前には十分な知識をつけた上で、中長期的な投資計画を立てることが重要です。

ESG投資の始め方

ここからは、個人投資家がESG投資を始める3つの方法を紹介します。

ESG関連の投資信託を購入する

ESG投資初心者や投資判断に自信がない人は投資信託を検討するのもよいでしょう。

投資信託では、経験豊富な運用会社が投資先を選定してくれるため、知識や経験がなくても手軽にESG投資を始められます。

投資信託の始め方 概要
【STEP1】口座の開設 証券会社や金融機関で、専用の「投資信託口座」を開設する。
【STEP2】ファンドを探す 情報収集を行った上で、投資先となるファンド(投資信託)を選ぶ。
【STEP3】ファンドの購入 窓口もしくはネット上で、選んだファンドを購入する。

投資信託は上記の流れで始められますが、必ずしも運用会社の判断が正しいわけではありません。

元本割れを起こすリスクもあるので、ファンドの運用状況や具体的な投資先はしっかりと確認しておきましょう。

自ら投資先を選ぶ

次は、自身の判断で投資先を選ぶ方法を紹介します。

自ら投資先を選ぶ方法 概要
【STEP1】口座の開設 使いやすさや手数料などをチェックした上で、証券会社に口座を開設する。
【STEP2】銘柄を探す 必要な情報収集や分析を行い、購入する銘柄を選ぶ。
【STEP3】買い注文を出す 銘柄コードや株数、注文方法などを入力し、買い注文を出す。

始め方の流れは通常の株式投資と同じですが、投資信託のように専用のパンフレットや資料などが用意されているわけではありません。

ESGに関する情報収集・分析も自身で行う必要があるので、特に【STEP2】には十分な時間をかけることが重要です。

ESG関連のクラウドファンディングを利用する

クラウドファンディングとは、企業などがプロジェクトを始める際、不特定多数の個人から支援を募るためのサービスのことです。このクラウドファンディングにも、ESG関連の案件が多く掲載されています。

クラウドファンディングは登録するだけで簡単に利用できますが、利用する際は以下の点に注意する必要があります。

・サービスによって掲載されている案件が異なる
・高利回りを期待できる案件は競争率が高い
・金銭的なリターンを得られるとは限らない

クラウドファンディングのリターンはプロジェクトの掲載者が自由に決めるため、必ずしも金銭的な利益を得られるとは限りません。

また、貸し倒れが発生するリスクもあるので、投資する前に掲載者や運用者の情報をしっかりと確認しておきましょう。

ESG投資を成功させるには新しい知識や情報が必要

ESG投資は新しい投資手法ですが、始め方自体はそれほど難しくありません。ただし、ESG投資を成功させるには従来の投資とは異なる知識や情報が必要です。

また、始め方によっても期待できるリターンやリスクが変わるので、興味がある人はその点にも注意しながら準備を進めましょう。

※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。

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