2022年に「スタグフレーション」が発生しないと考える理由

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〔要旨〕

スタグフレーションとは?:経済活動の停滞とインフレが併存する状態である

一部の投資家はスタグフレーションを懸念:代表的なスタグフレーションは、1970年代に発生

2022年にスタグフレーションは発生しないと予想:2022年にスタグフレーションが発生する可能性は非常に低い

2022年とスタグフレーションが生じた1970年代を比較する

1970年代のスタグフレーションは①禁輸措置を主因とする石油価格の急上昇、②当時の米国政権の政策ミス、③FRBが政府の政治的圧力に屈したこと—が主因である

①バイデン政権がインフレの抑制を最優先事項としていること、②FRBが金融政策の正常化へとかじ取りを進めたいと考えていること—から、現状、FRBはインフレに対して積極的な姿勢を示していると考える

結論

FRBは、現在、金融政策において相対的に中立の態度を取っており、最適な対応を実施すると見込まれる

先日、インベスコでは2022年の投資環境見通しを公表しました。そこで、私が受けた質問の1つに、なぜ2022年に米国が「スタグフレーション」に陥らないと考えるのか、というものがあります。

まず、スタグフレーションの定義から始めましょう。スタグフレーションは「経済成長の鈍化と比較的高い失業率、または経済の停滞を特徴とし、同時に物価の上昇(インフレ)を伴う経済環境」と定義されています。まず、その定義を見てみましょう。

• インフレーション

インフレ圧力は2022年半ばにピークに達したのちに低下すると予想しており、同年後半に物価の大幅な上昇がみられる可能性は低いと見込む

現状、物価の上昇が確認されています。12月10日に発表された11月米消費者物価指数(CPI)は、総合CPIが前年同月比6.8%の上昇となり、1991年以来の高水準となりました 1 。私たちは、今後数カ月、インフレ率が高止まりし、さらに上昇する可能性があると考えます。ただし、私たちの2022年の投資環境見通しにおける基本シナリオでは、サプライチェーンの問題は落ち着き、ワクチン接種水準も上昇、そしてさらに多くの人々が仕事に復帰する中、インフレ率は年の半ばにピークに達すると予想しています。その後、2022年後半は、物価の大幅な上昇が続くとは予想しておらず、スタグフレーションの定義である物価の上昇が確認される可能性は低いと考えています。

• 経済成長

米国経済は潜在成長率を上回る水準で推移しており、失業率も低下するなど改善傾向にある

現在、スタグフレーションの定義が当てはまらないと私たちが考えているのは、経済成長の面からです。国内総生産を見ると、現状、経済成長は米国の潜在成長率をはるかに上回っており、2022年には減速するものの、潜在成長率をやや上回る水準に落ち着くと予想しています。また、失業率は低下しており、急速に改善しています。たとえば、12月第1週(12月4日終了週)の米国の新規失業保険申請件数は18万4000件となりましたが、これは、1969年以来の最低水準です 2 。米国では、雇用環境の改善が続いており、2022年には新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)前の失業率の水準まで低下する可能性があります。

2022年とスタグフレーションが生じた1970年代を比較する

1970年代のスタグフレーションは①禁輸措置を主因とする石油価格の急上昇、②当時の米国政権の政策ミス、③FRBが政府の政治的圧力に屈したこと—が主因である

2022年のマクロ経済環境は、過去のスタグフレーションが発生したときと比較するとどのような違いが見られるでしょうか。

人々に大きな混乱をもたらした代表的なスタグフレーションは、1970年代、特に1973年のアラブ諸国による原油禁輸措置と1979年のイランの石油禁輸により物価が急上昇したときでした。当時、これらの石油ショックだけが問題だった訳ではありませんでしたが、物価を急激に押し上げ、世界中に波及したため、混乱をもたらす大きな要素となっていました。

では、現在と異なる点は何でしょうか。確かにエネルギー価格は急上昇していますが、供給主導ではなく需要主導によるものです。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国で構成されるOPECプラスは、生産量の増加を大きく制限する生産管理を始めていますが、現在のエネルギー価格の上昇は、主に経済再開を背景とした需要の拡大によってもたらされてきました。そしてさらに重要なことに、現在の世界経済は、エネルギー集約度の点で1970年代よりもはるかに低い水準にあります。

現在の経済において、半導体は1970年代の経済におけるエネルギーと同じ位置づけにあると示唆する声があります。それは確かに正しく、私たちは、洗濯機から自動車、携帯電話まで、さまざまな製品の一部において半導体に大きく依存するようになりました。半導体の供給不足は深刻ですが、1970年代の石油輸出国機構(OPEC)のように、半導体の生産はカルテルによって管理されていません。半導体メーカーは、需要を満たすために供給を増やしたいと考えています。生産量を増やすためにファウンドリ(半導体チップを生産する工場)を建設する必要があることを考えると、単にタイムラグがあるということです。半導体の供給不足は最悪の事態を脱したように見えており、これは、2022年に向けての歓迎すべきニュースと言えるでしょう。

1970年代におけるその他の問題は、きわめて重要な政府の行動であり、現在よりもはるかに悪く、はるかに「スタグフレーション的」でした。1973年、ニクソン政権は物価と賃金の価格統制(90日間の賃金・物価の凍結)を発表しました。この規制の一部として、国民に対して自動車のナンバープレートの番号に応じて奇数または偶数日にガソリンを購入することが求められました。これらは事実上、ソビエト型の政策であり、まず経済成長と消費を押し下げ、規制解除後は物価を押し上げたことで、モノ不足が生じました。

現在、人やモノの不足はありますが、それは価格統制が原因ではありません。実際、インフレと賃金の上昇は、最終的には生産量の増加と、多くの人々の職場復帰をもたらすはずです。現在の不足は、禁輸措置やボイコットではなく、パンデミックで生じたサプライチェーンや物流の混乱を要因としています。

ニクソン政権が米ドルと金の交換を一時的に停止したことで、米ドルは当初、大幅に下落しました。これにより、エネルギーを含むすべてのコモディティやモノの米ドル建ての価格が上昇しました。それとは対照的に、現在の米ドルは強く、上昇基調にあります。米ドル高により、コモディティやモノの価格に対する上昇圧力が軽減されるはずです。

さらに、そしておそらく最も重要なこととして、米連邦準備理事会(FRB)は1960年代と70年代に大きな政策ミスを犯しました。この中で最も重要なのは、FRBが大統領の圧力に屈服し、金融緩和政策を実施したことでした。1965年、当時の米国大統領リンドン・ジョンソンは、金融緩和政策を維持するようFRBに大きな圧力をかけました。当時のFRB議長のウィリアム・マーティンがジョンソン大統領の要求を拒否し、政策金利を引き上げたとき、ジョンソン大統領はマーティンFRB議長を壁に押さえたと伝えられています 3 。この後、FRBは、ジョンソン大統領が1968年の大統領の再選に立候補しないと決めるまで、政策金利を引き上げませんでした。代わりに、融資の伸びを遅らせるために規制を利用しようとしましたが、ほとんど成功しませんでした。

1973年、FRBはインフレ率が上昇しているにもかかわらず、当時のニクソン大統領からの政治的圧力から政策金利を引き下げ、インフレ率の上昇がさらに加速しました。ニクソン大統領は、FRBの独立性を尊重していると言ってはいたものの、FRBのアーサー・バーンズ議長が同じ結論を出す(政策金利を引き下げる)ことを期待していました 4

①バイデン政権がインフレの抑制を最優先事項としていること、②FRBが金融政策の正常化へとかじ取りを進めたいと考えていること—から、FRBはインフレに対して積極的な姿勢を示していると考える

バイデン政権下でも、インフレは政治的課題です。実際、これは中間選挙において最大の問題になる可能性があります。バイデン大統領は最近、インフレの抑制が最優先事項であると述べており、それはFRBが経済成長よりもインフレに焦点を当てる理由となります。もう1つの理由は、FRBが非常に金融緩和的な政策を取っていたため、FRBは金融政策の正常化が必要であり、必要性が高いと考えているとみられます。そのため、パウエル議長率いるFRBは、金融引き締めを実施することなくインフレを許容したバーンズ議長やマーティン議長のものとは状況が異なると考えられます(実際、バーンズFRB議長は、さらに金融緩和を実施することができました)。私たちは、FRBが今週の会合において、現在のテーパリング(量的金融緩和による資産購入額の段階的な縮小)計画から、その縮小ペースを加速させることで、金融政策を正常化すると予想しています。言い換えれば、インフレの取り組みにおいて、パウエル議長のFRBは、はるかに積極的な姿勢を取っているのです。私は、利上げのハードルは非常に高いと考えていますが、経済情勢によっては、2022年半ばまでに利上げが実施されないという意味ではありません。

結論

FRBは、現在、金融政策において相対的に中立の態度を取っており、最適な対応を行うと見込まれる

まとめると、2022年のスタグフレーションの発生は非常にありそうもないシナリオであるというのが私たちの見解です。しかし、それは、FRBがインフレを懸念していないということではありません。実際、「完全雇用」の目標に近づくということは、FRBがインフレにより集中できることを意味します。現在のインフレ環境をかじ取りすることは、FRBにとって容易ではありません。現時点でのFRBの最も適切な対応は、相対的に中立的な政策をとることであり、金融緩和的過ぎず(供給が制限されているため、需要の押し上げを避ける)、または引き締めすぎる(ボトルネックや人・モノの不足を緩和するために供給を増やすための投資を妨げる可能性があるため)ことではないようです。そして、それこそが、現在FRBが実施していると思われることに他なりません。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

※本稿は、2021年に発行される最後の号となります。2022年は1月3日に最初の号の発行を予定しています。よいお年をお迎えください。

1.出所:米国労働省労働統計局
2.出所:米国労働省
3.出所:マーケットウォッチ、“The history of presidential Fed-bashing suggests it has not been a fruitful strategy”、2018年12月22日
4.出所:BBCニュース、“The perils of a political Federal Reserve”、2017年12月10日

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MC2021-205

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