SDGs(Sustainable Development Goals)は、「持続可能な開発目標」として世界が達成を目指す国際目標です。2015年の国連サミットで採択され、2016年にスタートしました。2030年までの達成を目指して、国連に加盟する193ヵ国が一丸となって取り組んでいます。
日本でもSDGsの認知度は高まっていますが、同時に問題点も見えてきています。今回はSDGsが抱える問題点と解決策について、わかりやすく解説します。
目次
わかりやすくいえば「この世界で安定して暮らし続けるために、世界中の全員で協力して解決したい目標」です。
SDGsの前身は、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MSDs:Millennium Development Goals)です。MSDsは「極度の貧困と飢餓の撲滅」「初等教育の完全普及の達成」などを含む8つの目標で、主に発展途上国の環境改善を目指す国際目標でした。
SDGsでは、先進国を含むすべての国が取り組むべき普遍的な目標として17のゴールを掲げています。
ここには、今後世界が直面する優先課題が示されています。
<SDGsの17のゴール>
1 | 貧困 | 貧困をなくそう |
2 | 飢餓 | 飢餓をゼロに |
3 | 保健 | すべての人に健康と福祉を |
4 | 教育 | 質の高い教育をみんなに |
5 | ジェンダー | ジェンダー平等を実現しよう |
6 | 水・衛生 | 安全な水とトイレを世界中に |
7 | エネルギー | エネルギーをみんなに、そしてクリーンに |
8 | 経済成長と雇用 | 働きがいも経済成長も |
9 | インフラ、産業化、イノベーション | 産業と技術革新の基盤をつくろう |
10 | 不平等 | 人や国の不平等をなくそう |
11 | 持続可能な都市 | 住み続けられるまちづくりを |
12 | 持続可能な消費と生産 | つくる責任つかう責任 |
13 | 気候変動 | 気候変動に具体的な対策を |
14 | 海洋資源 | 海の豊かさを守ろう |
15 | 陸上資源 | 陸の豊かさも守ろう |
16 | 平和 | 平和と公平をすべての人に |
17 | 実施手段 | パートナーシップで目標を達成しよう |
17のゴールの中には国や地域、人によって認識が異なるものや、数値化しにくく定義が曖昧なものもあります。よって、達成に向けてそれぞれの価値観や定義に対する理解を共有することが大切です。
SDGsは、企業規模によっては取り組むことが難しいといわれています。なぜなら、以下のような問題があるからです。
①壮大すぎる
17のゴールのいくつかには、「ゼロに」「すべての」「みんなに」「世界中に」といった壮大な言葉が使われています。もちろん実現できれば素晴らしいことですが、目標が高すぎて現実的ではないと感じる人もいるでしょう。
高い目標を掲げることは悪いことではありませんが、「高すぎる目標」は挑戦意欲をなくしてしまう要因となるため注意が必要です。「手の届かない理想」として取り組むことをやめてしまわないためには、「大きすぎる目標」に向かうための「具体的な小さなステップ」を考えることが大切です。
②ひとりで解決できないことが多い
SDGsが掲げる目標は人々の生活を大きく変えるものが多く、取り組むためには資金力が必要です。
国の調査によると、日本国内企業のうち従業員10名未満の企業は85.6%、100名未満の企業が12.8%、合わせて98.5%を占めています。SDGsに関心があっても、資金や人材が十分ではない企業にとっては取り組みにくいという問題があるのです。
その場合は、同じように考える人や企業とタッグを組む、すでにSDGsに取り組む企業を応援・支援するという方法を検討してもよいでしょう。
③自社事業を活かせない
目標の多くは公衆衛生や地球環境、人権・教育、エネルギー・資源に関わるものです。したがって、関連する事業がない企業は取り組むことが難しいでしょう。
自社事業と関わるゴールがあったとしても、本業とは別にSDGsの達成に向けた行動を起こすことは、簡単ではありません。手間やコストの増加は、企業にとってはリスクだからです。
自社にとってのメリットや必要性について、よく考えることが大切です。
SDGsに取り組むことの第一のメリットは貧困や差別などの課題が減ることですが、取り組む企業にとっては以下のようなメリットが期待できます。
①ビジネスチャンス
目標達成のための行動の中で、新たな人脈が広がる可能性があります。他業種や他分野の人や企業との出会いから新しい商品やサービスが生まれ、自社事業の発展につながることもあるでしょう。また、SDGs報告書などから、新たな層への認知が広がる可能性もあります。
多様性を大切にするSDGsに取り組むことで、多様なチャンスが生まれることが期待できます。
②信頼度アップ
SDGsに取り組むことが「社会貢献を行う企業」であることの証明となり、取引先や顧客からの信頼度が上がることも期待できます。身近な問題解決から始めることが地域貢献と結びつき、地域から応援されることもあるでしょう。
③仕事の満足度向上
世界的な視野を持ち、前向きな姿勢を見せることで、従業員からの信頼度が高まるかもしれません。また、社会貢献を行う企業に勤めているという自覚が、従業員のモチベーションアップにつながることもあるでしょう。
④利益の向上
SDGsに対する取り組みの中で、新しい商品・サービスの提供や他社との連携などが実現した場合は、企業利益の増加が期待できます。対外的な信頼を獲得することで顧客が増え、売上の拡大につながることもあるでしょう。
また、良い評判が広まれば優秀な人材も集まりやすくなるため、さらなる成長が見込めるのではないでしょうか。
あらゆるものごとには、メリットとデメリットがあります。メリットだけを見て安易に取り組み始めてしまうと、大きな問題に直面するおそれがあるため注意が必要です。
SDGsが抱える大きな問題が「SDGsウォッシュ」です。
「SDGsウォッシュ」という言葉は、「グリーン(環境に配慮する)」と「ホワイトウォッシュ(白塗りでごまかす・上辺だけ飾り立てる)」から生まれた造語「グリーンウォッシュ」が元になっています。
「グリーンウォッシュ」は、環境に配慮しているというアピールばかりで、実際はあまり取り組んでいない企業を批判する際に使われます。
– SDGsウォッシュの定義
明確な定義はありませんが、以下のような企業に使われることが多いようです。
・実態がないのに、取り組んでいるように受け取れる表現を使う
・実際の成果よりも誇大な報告を行う
・都合の良い情報ばかり公表し、都合の悪い情報を隠蔽する
・SDGsの目標を達成しようとして、他の目標達成に悪影響を及ぼしている
「あの企業はSDGsウォッシュではないか」と噂されれば、企業への信頼は大きく損なわれるでしょう。失った信頼の回復が難しいことは、いうまでもありません。
意図的にSDGsウォッシュを行う企業の評価が落ちるのは自業自得ですが、SDGsウォッシュが怖いのは本気で取り組み始めた企業でも陥ってしまうおそれがあることです。
「思っていた成果が出なかった」「継続が困難になった」といった理由で意図せぬSDGsウォッシュにならないために、考えるべきポイントは以下の5つです。
– ①企業規模や能力に見合った取り組みであること
企業規模や能力に合わない取り組みは、思うような成果が得られない可能性が高いです。また、取り組みに人員や予算が割かれることで、本業がおろそかになっては本末転倒です。
事業分野や規模、余力などを考慮して、自社が取り組む必然性も含めて慎重に検討することが大切です。
– ②「持続可能」な取り組みを意識すること
単発的な取り組みを計画すると、継続は難しくなります。「あの会社は、始めた後は何もしない」といった低評価につながるおそれもあります。
SDGsの意義を理解した上で、企業にとっても持続可能な取り組みを考えることが大切です。
– ③トレードオフを意識する
17のゴールは、社会・経済・環境における課題が複雑に絡み合っています。そのため、例えば「貧困や飢餓に対する地域開発が、自然環境に悪影響を与えてしまう可能性」など、予期せぬトレードオフが生じることがあります。
1つのゴールを注視するのではなく、17のゴールを俯瞰することが大切です。
– ④社内認識を共有すること
SDGsについての諸々を経営陣など一部の社員だけで進めてしまうと、他の従業員との温度差が生まれる原因になります。上から押しつけられた新しい作業は負担の増加にすぎず、不信感や不満の素になりかねません。
社内の認識を合わせるための情報共有やコミュニケーションを行いながら、取り組むことが大切です。
– ⑤報告の表現に気をつける
公式サイトや広告などは、多くの人の目に触れます。その内容と実態が異なると「SDGsウォッシュ」と見なされるため、誇張や曖昧な表現や不都合な情報の隠蔽などを行わないようにしましょう。
また、国や地域、文化、宗教によって言葉の意味や判断基準、価値観などが異なることにも注意すべきです。使おうと思っている言葉や表現が、宗教的背景や文化の違いによって異なる意味を持っていないかなど、しっかり調べる必要があります。
SDGsへの取り組みは、これからの企業にとって非常に重要な課題のひとつです。しかし、企業規模によってはメリットだけでなく、デメリットもあります。もしも途中で撤退することになった場合、かかったコストは回収できません。
SDGsの内容を正しく理解し、自社にどのような取り組みができるのかを慎重に検討することが大切です。
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買や投資を推奨するものではありません。