日本の公的年金の持続性を不安視する人もいるでしょう。しかし冷静に状況を紐解いてみると、公的年金が破綻するという意見には疑問が残ります。今回は公的年金が破綻しないと考えられる理由を3つ紹介します。
目次
日本の公的年金の仕組み
まずは、日本の公的年金の仕組みを簡単におさらいしておきましょう。
日本の公的年金制度は、現役世代が支払った保険料を年金給付に充てる「世代と世代の支え合い(賦課方式・世代間扶養)」という考え方を基本としています。
日本の公的年金制度は「2階建て構造」です。日本は「国民皆年金」を採用しているため、20歳以上のすべての人は1階部分にあたる国民年金(基礎年金)に加入します。そして、会社員などは2階部分にあたる厚生年金にも加入します。
日本の公的年金の持続性を不安視、疑問視する人の主張は、「少子高齢化が急速に進むため、現役世代の人数が減り、高齢者の人数は増えていく。世代間扶養が原則なのに、どこかのタイミングでバランスが取れなくなるのではないか」というものでしょう。
年金が破綻しないと思われる3つの理由
しかし、日本の公的年金が破綻しない可能性は高いといえます。ここからは、日本の公的年金が破綻しないと考えられる理由を3つ紹介します。
1.定期的な年金制度改正
1つめの理由は、定期的に年金制度の改正を行っていることです。例えば令和2年5月29日には、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立し、6月5日に公布されました(施行は令和4年から)。
この改正では公的年金と私的年金の両方が見直され、公的年金においては年金受給開始時期の上限を70歳から75歳に引き上げました(自分で受給開始を選択できる範囲が広がったという意味で、75歳にならないと年金がもらえないということではありません)。また、在職定時改定という制度が新設されました。どちらも、簡単にいえば「インセンティブを付与することで、できるだけ長く働いてもらう」ことを促すものです。
最近は元気なシニアが多く、60歳以降も働き続ける人が増えています。元気なシニアにできる限り長く働いてもらうことは、公的年金の持続性という観点では望ましいことです。もちろん上記の改正はあくまで一例であり、定期的にさまざまな改正が行われています。後述するマクロ経済スライドも、平成16年の年金制度改正で導入されたものです。
このように、時代の変化に合わせて定期的に年金制度の改正が行われており、破綻リスクを下げているのです。
2.マクロ経済スライド
2つめの理由は「マクロ経済スライド」です。マクロ経済スライドとは、その時の社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。
日本経済をマクロの観点で見ると、「公的年金制度を支える現役世代の人数は減っていくこと」「平均余命の伸びに伴う高齢者への給付額は増えていくこと」は確実です。そこでマクロ経済スライドでは、原則として公的年金財政の収入を決めて、その収入の範囲内で給付を行います。
マクロ経済スライドの細かいルールは割愛しますが、保険料収入と年金給付額の均衡が保たれるよう、時間をかけて緩やかに年金の給付水準が調整されるため、破綻リスクを大きく下げる仕組みといえるでしょう。また、現役世代(負担側)と高齢者(受給側)の間の不公平感を小さくする仕組みでもあります。
3. 年金積立金の活用
日本の公的年金制度の持続性を高めるために行われている施策のひとつが、「年金積立金(将来の年金給付の財源となる資金)の活用」で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がその積立金の管理・運用を行っています。
現在、GPIFは約191兆円の年金積立金を運用しています。2001年の運用開始以降、収益率は年3.7%、累計収益額は約100兆円と安定した運用成果を出し続けており、積立金の増大に貢献しています。
元本割れのリスクがある資産で運用しているため、今後も積立金が増えていく保証はありませんが、約20年間安定的な成績を残しているので、今後もそうなる可能性は高いでしょう。積立金を有効活用する仕組みが整っており、それを20年かけて安定的に増やしている事実は、破綻リスクの低下に寄与しているといえます。
自助努力をしなくてよいわけではない
ここまで、日本の公的年金は破綻しないと思われる3つの理由を紹介してきました。少子高齢化が進むことが確実視されていますが、その対策も着実に行われているため、日本の公的年金が破綻する可能性はほとんどないでしょう。
日本の公的年金が破綻する可能性は低いかもしれませんが、私たちが老後生活を過ごすために必要な収入を公的年金だけで賄えるとは限りません。豊かな老後を過ごすためには、自助努力が不可欠です。着実に資産形成を進めていきましょう。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。