iDeCoをやらない方がいい5つのタイプを解説

運営管理機関連絡協議会が作成した確定拠出年金の統計資料によると、2018年3月時点のiDeCo加入者数は約85万人、2019年3月時点は約121万人、2020年3月時点は約156万人、そして2021年6月時点の加入者数は約206万人と、毎年増加していることがわかります。

iDeCoには、所得税・住民税を軽減できる税制優遇がありますので、それを魅力に感じて加入している人は多いでしょう。一方で、「iDeCoをやらない方がいい人」も一定数存在するという事はご存知でしょうか? いったいどのような人が該当するのでしょうか。

今回は、iDeCoの概要、iDeCoが向かない5つのタイプについて解説します。

iDeCoのメリットとデメリットを解説

iDeCoとは

iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)とは、確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金制度のことで、2002年1月に制度運用が開始されました。自分で申し込み、掛金を拠出し、自分で運用方法を選んで掛金を運用します。60歳以降、掛金とその運用益の合計額を給付金として受け取ることができます。

日本は世界でも有数の長寿国です。厚生労働省が発表している「平成30年簡易生命表」によると、65歳の人の平均余命は男性で19.70年、女性で24.50年です。したがって、多くの人は20年前後の老後の生活を送ることになります。中には、平均を大きく超えて長生きする人もいるでしょう。

日本の公的年金制度は、日本に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「国民年金(基礎年金)」と、会社などに勤務している人が加入する「厚生年金」の2階建てになっています。自営業や専業主婦(夫)の人には厚生年金がないため、公的年金は1階部分の国民年金のみです。

しかし、「人生100年時代」が到来したことで老後生活は長期化しており、公的年金だけでは老後資金が足りなくなるおそれがあります。そこで活用したいのが、3階部分にあたる私的年金(iDeCo)です。特に自営業の人は、iDeCoを活用して老後資金を準備することをおすすめします。

iDeCoのメリット

老後資金の重要性は理解できたとしても、なぜiDeCoがその有効な手段になるのでしょうか。「自分で掛金を拠出し、自分で運用し、その合計額を給付として受け取るのであれば、iDeCoではなく通常の資産運用でいいじゃないか」と思うかもしれません。

しかし、iDeCoには老後資金の形成におけるメリットがあります。それは、「掛金を拠出するとき」「運用するとき」「給付を受け取るとき」において、税制上の優遇措置が講じられていることです。それぞれを確認していきましょう。

【1】掛金を拠出するとき
iDeCoを含めて、確定拠出年金の掛金は全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象となり、課税所得額から差し引かれることで所得税・住民税が軽減されます。したがって、老後資金の準備をしつつ、所得税や住民税の節税が可能です。

【2】運用するとき
金融商品の運用益は課税(源泉分離課税20.315%)対象になりますが、確定拠出年金内の運用商品の運用益については、非課税で再投資されます。利息が利息を生んで資産が雪だるま式に増えていく「複利効果」を最大限に享受しながら、老後資金を準備できるのです。

【3】給付を受け取るとき
受給年齢に到達して確定拠出年金を一時金で受給する場合は「退職所得控除」、年金で受給する場合は「公的年金等控除」の対象になります。どちらも、一定の金額まで非課税で受け取ることができます。

また、iDeCoはポータビリティが高いこともメリットです。iDeCoの年金資産は、転職や離職をした場合でも、移換の手続きを行うことで持ち運び(ポータビリティ)ができます。必要な条件を満たせば、確定給付企業年金や企業型確定拠出年金といった他の年金制度から資産を引き継ぐこともできます。

iDeCoのデメリット

一方で、iDeCoにはデメリットもあります。まず、運用は自分で行う必要があります。したがって、選択できる運用商品の一覧を確認し、運用指示を行い、金融市場の動向によっては必要に応じて運用方針を変更する、といった手間がかかります。

また、iDeCoには元本保証型の商品もありますが、それ以外の商品で運用する場合は元本が保証されていないため、自分の運用指示によっては損失が発生することもあります。損失が発生すると運用益はないため、「運用するとき」の非課税メリットを享受できません。

「元本保証型の商品で運用していれば、元本割れすることはない」と思いきや、iDeCoでは国民年金基金連合会や運営管理機関、事務委託先金融機関への手数料がかかるため、元本保証型の商品の利率や手数料によっては、運用結果がマイナスになる可能性があります。掛金を低く設定しすぎると、相対的に手数料の割合が大きくなることにも注意が必要です。

流動性の低さもデメリットといえます。iDeCoは老後資金の準備を目的とした年金制度であることを理由に、税制優遇措置が講じられています。加入後は原則として、60歳以降の受給年齢に到達するまで、資産を引き出すことができません。例外として、脱退一時金の給付がありますが、国民年金の保険料免除者になるなどの要件をすべて満たした場合に限られます。生活費が足りないからといって、iDeCoの資産を取り崩すことはできません。

iDeCoをやったほうがタイプ

ここまで、iDeCoの概要を解説してきましたようにメリット・デメリットが存在します。それらを踏まえ、iDeCoは以下の2つのタイプの人にとっては特におすすめの制度です。

タイプ① 強制力が高い方法で老後資金を貯めたい人

iDeCoでは原則として60歳まで資金を引き出すことができませんが、言い換えれば「他の目的でお金を使ってしまうリスクが極めて低い」ともいえます。したがって、強制力がある方法で老後資金を貯めたい人には、iDeCoが向いています。

「これは老後用のお金」と区別して保有していても、それが自由に使えるところにあると、他の目的に使ってしまうかもしれません。iDeCoの「原則として60歳まで引き出すことができない」というデメリットをうまく利用すれば、他の目的に使ってしまうことなく老後資金を貯められるのです。

タイプ② 一定以上の収入がある人

一定以上の収入がある人は掛金を拠出するときのメリットが大きいので、iDeCoをやったほうがいいと言えます。

所得税と住民税(所得割の部分)は、原則として累進課税(稼げば稼ぐほど税負担が大きくなる)です。前述のとおり、iDeCoに掛金を拠出するときは全額が課税所得額から差し引かれるので、所得が多い人ほど「掛金を拠出するとき」のメリットは大きくなります。

iDeCoをやらないほうがいいタイプ

それでは、iDeCoをやらないほうがいい人とは、どのような人でしょうか。以下の5つのタイプについて、見ていきましょう。

タイプ① 貯金が少ない人

前述のとおり、iDeCoでは原則として60歳まで引き出すことができないため、貯金が少ない人はiDeCoをやらないほうがいいでしょう。

今は問題なく生活できていたとしても、病気になったり、ケガをしたり、急に仕事がなくなったりして、収入が途絶えてしまうかもしれません。また、突発的に大きな出費が発生することもあるでしょう。そのような場合でも現在の生活水準を維持できるように、すぐに資金を引き出せる普通預金などに資金をプールしておいた方が良いでしょう。

いざというときに頼れる人がいるかどうかによっても変わりますが、3ヵ月分以上の生活費は確保しておきたいものです。その後にiDeCoで老後資金の準備を進めましょう。

タイプ② 近い将来にまとまったお金が必要な人

近い将来(数年後など)に結婚や出産、マイホーム購入などでまとまったお金が必要な人は、iDeCoをやらないほうがいいでしょう。

前述のとおり、iDeCoでは60歳まで資金を引き出すことができません。したがって、60歳になる前にまとまったお金が必要になっても、その資産を使うことはできないのです。

すでに十分な資金が手元にあり、それで上記のようなライフイベントの費用をまかなえる場合は別ですが、近い将来にまとまったお金が必要ならば、流動性が高い普通預金に資金をプールしておいた方が良いでしょう。

タイプ③ 収入がない(少ない)人

「掛金を拠出するとき」に所得税や住民税を軽減できることは、iDeCoの魅力のひとつです。言い換えれば、もともと所得税額や住民税額が低い人は、このメリットをあまり享受できません。

もちろん、収入がない(少ない)人でも「運用するとき」「給付を受け取るとき」の税制優遇は受けられます。「運用するとき」に運用益が非課税になるのは大きなメリットですが、「給付を受け取るとき」の税制優遇がメリットになるとは限りません。

前述のとおり、「給付を受け取るとき」は一定の金額まで非課税で受け取ることができますが、金額によっては税金が発生します。収入がない(少ない)人は、本来課税が発生しないお金をiDeCoで積み立てているだけなのに、引き出すときは税金がかかるといったことになりかねません。

「運用するとき」の非課税メリットが、「給付を受け取るとき」の税負担を上回っていれば問題ありませんが、運用益が発生するかどうかは事前にはわかりません。

タイプ④ ライフプランが大きく変わる可能性がある人

ライフプランが大きく変わる可能性がある人も、iDeCoをやらないほうがいいでしょう。例えば、「専業主婦(夫)になるかもしれない」「転職を予定しており収入が大幅に減る予定だ」「独立する予定がある」といった人です。

老後資金を準備するという意味では、基本的にiDeCoはできるだけ早く始めるべきです。しかし、ライフプランが大きく変わる可能性がある人は、新しい生活が始まり、収入や生活費の算段ができてからiDeCoを検討することをおすすめします。

タイプ⑤ 20代など自己投資にお金を回したほうがよい人

iDeCoの最終的な目的は、老後資金を準備して、ゆとりある老後生活を送ることです。その目的が達成できるのであれば、手段はなんでも構いません。その観点では、20代などの若い人は資金をiDeCoに回すのではなく、自己投資に回したほうがよい場合もあります。

例えば、英会話学校に通って英会話のスキルが上がったり、ビジネススクールでMBAを取得したり、自身のスキルアップが後の収入に繋がります。結果として今より高い収入を得て、より多くのお金を貯蓄に回すことができれば、iDeCoに資金を回すよりも早くお金を貯められるかもしれません。

拠出したお金は、基本的には60歳まで使えなくなることに注意

iDeCoはメリットの多い制度であり、加入者が年々増えていますが、デメリットがないわけではありません。そのため、前述の通り「iDeCoをやらないほうがいい人」も一定数存在します。

特に重要なのが、「原則として60歳まで資金を引き出せないので、著しく流動性が低い」ことです。iDeCoに拠出したお金は、自分のお金ではあるものの、基本的には60歳まで使えなくなることに注意しましょう。

本稿では「iDeCoをやらないほうがいい5つのタイプ」を紹介しました。「自分は本当にiDeCoをやるべきなのか」をしっかり考えてから、加入を決めるようにしましょう。

※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買や投資を推奨するものではありません。

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