iDeCoの節税効果はどれくらい?実例を交えて解説

節税効果が魅力の「iDeCo」に加入する人が増えています。運営管理機関連絡協議会が作成した確定拠出年金の統計資料によると、iDeCo加入者は毎年増え続け、2021年5月時点で200万人を突破しています。

iDeCoは節税効果があることで知られていますが、実際にどれくらい節税できるのでしょうか。今回はiDeCoとは何か、iDeCoの3つの節税効果、節税効果の具体的なシミュレーション、iDeCoの節税効果を得にくい人について解説します。

iDeCoとは?

iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)は、確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金制度です。60歳になるまで掛金を拠出し、自分で運用方法を選んで掛金を運用します。60歳以降、掛金とその運用益との合計額を受け取ることができます。

基本的に20歳以上60歳未満のすべての人が加入でき(諸条件あり)、より豊かな老後生活を送るための資産形成方法として位置づけられています。

また、【積立時】【運用時】【受取時】において、税制優遇があります。ただし、原則として60歳になるまで資産を引き出すことができません。

iDeCoの3つの節税効果【積立時】

ここからは、iDeCoの3つの節税効果について見ていきましょう。まずは【積立時】についてです。

確定拠出年金の掛金は全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象となり、課税所得額から差し引かれることで所得税・住民税が軽減されます。つまり、iDeCoに拠出した金額は「なかったもの」とみなされ、課税所得が減ることで所得税・住民税の節税につながるのです。

所得税と住民税所得割は、累進課税(稼げば稼ぐほど税額が大きくなる)です。拠出限度額は属性によって異なるため一概には言えませんが、基本的には年収が高くなるほど節税効果は大きくなります。

節税効果をシミュレーションしてみよう

具体例をもとに、【積立時】の節税効果をシミュレーションしてみましょう。なお、計算には以下のシミュレーションツールを利用しています。シミュレーション結果は概算なので、あくまで参考として捉えて下さい。

<iDeCo公式サイト かんたん税制優遇シミュレーション>
https://www.ideco-koushiki.jp/simulation/

・30歳、年収520万円、毎月掛金2万3,000円のAさん(会社に企業年金がない会社員)の場合

毎月2万3,000円(会社に企業年金がない会社員の限度額)の掛金を拠出すると、1年間の節税効果は5万5,200円です(所得税軽減額2万7,600円、住民税軽減額2万7,600円)。仮に60歳まで年収が変わらなかったとすると、30年間で5万5,200円×30年=165万6,000円の節税効果を得られます。

・37歳、年収750万円、毎月掛金1万2,000円のBさん(公務員)の場合

毎月1万2,000円(公務員の限度額)の掛金を拠出すると、1年間の節税効果は4万3,200円です(所得税軽減額2万8,800円、住民税軽減額1万4,400円)。仮に60歳まで年収が変わらなかったとすると、30年間で4万3,200円×23年=99万3,600円の節税効果を得られます。

・51歳、年収1,800万円、毎月掛金6万8,000円のCさん(自営業者)の場合

毎月6万8,000円(自営業者の限度額)の掛金を拠出すると、1年間の節税効果は35万880円です(所得税軽減額26万9,280円、住民税軽減額8万1,600円)。仮に60歳まで年収が変わらなかったとすると、9年間で35万880円×9年=315万7,920円の節税効果を得られます。

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iDeCoの3つの節税効果【運用時】

次は、【運用時】についてです。金融商品の運用益は課税(源泉分離課税20.315%)対象ですが、確定拠出年金内の運用商品の運用益は非課税です。そのため、運用益が多くなるほど節税効果は大きくなります。

運用益をすべて次の投資に回すことができるため、複利効果(運用で得た収益を再投資することで、雪だるま式に資産が増えていくこと)を得やすいといえます。

節税効果をシミュレーションしてみよう

上記の3名(Aさん、Bさん、Cさん)が年3%で運用できたとして、【運用時】の節税効果をシミュレーションしてみましょう。なお、計算は以下のシミュレーションツールを利用しています。シミュレーション結果は概算です。

<金融庁 資産運用シミュレーション>
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/moneyplan_sim/index.html

・30歳のAさんが30年間、年3%で運用できた場合

毎月の積立額(拠出金額)が2万3,000円、想定利回り3%、積立期間30年でシミュレーションすると、最終積立金額は1,340万2,948円。元本が828万円、運用収益が約512万3,000円です。本来は約512万3,000円の20.315%にあたる約104万737円が課税されますが、iDeCoでは非課税です。つまり、約104万737円の節税効果を得られるということです。

・37歳のBさんが23年間、年3%で運用できた場合

毎月の積立額(拠出金額)が1万2,000円、想定利回り3%、積立期間23年でシミュレーションすると、最終積立金額は476万1,598円。元本が331万2,000円、運用収益が約145万円です。本来は約145万円の20.315%にあたる約29万4,567円が課税されますが、iDeCoでは非課税です。つまり、約29万4,567円の節税効果を得られるということです。

・51歳のCさんが9年間、年3%で運用できた場合

毎月の積立額(拠出金額)が6万8,000円、想定利回り3%、積立期間9年でシミュレーションすると、最終積立金額は841万9,030円。元本が734万4,000円、運用収益が約107万5,000円です。本来は約107万5,000円の20.315%にあたる約21万8,386円が課税されますが、iDeCoでは非課税です。つまり、約21万8,386円の節税効果を得られるということです。

iDeCoの3つの節税効果【受取時】

次は、【受取時】についてです。iDeCoの受け取り方には、「一時金」「年金」「一時金と年金の併用」があります。受給年齢に達して確定拠出年金を一時金で受給する場合は「退職所得控除」、年金で受給する場合は「公的年金等控除」の対象となります。

まずは「退職所得控除」から確認していきましょう。iDeCoを一時金で受け取る場合は「退職所得」に分類されます。退職所得(退職金)は、長年の勤労に対する報償的給与として一時に支払われるものであるため、税負担が軽くなるよう配慮されています。税負担が軽くなる理由の一つが「退職所得控除」です。

退職所得控除は、以下のように計算します。勤続年数(iDeCoの場合は拠出年数)が長くなるほど、控除額が多くなる仕組みです。

勤続年数(A) 退職所得控除額
20年以下 40万円×A
(80万円に満たない場合は80万円)
20年超 800万円+70万円×(A−20年)

退職所得は、原則として以下のように計算します。役員等勤続年数が5年以下の人を除くと、源泉徴収される前の収入金額から退職所得控除額を差し引き、さらにそれを半分にする(×1/2)ことができます。これも、税負担が軽くなる理由の一つです。

(源泉徴収される前の収入金額-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額

次は、「公的年金等控除」についてです。iDeCoを年金で受給する場合は、年金の収入金額から公的年金等控除額を差し引いて所得金額を計算します。所得区分は「雑所得」です。

公的年金等控除は、「公的年金等の収入金額の合計額」によって控除額が異なります。また、「公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額(以下、他の収入)」が1,000万円以下か、1,000万円超2,000万円以下か、2,000万円超かによっても控除額が異なります。詳細は、以下の国税庁ウェブサイトで確認してください。

No.1600 公的年金等の課税関係

「30年積み立てて一時金で受け取る場合」のシミュレーション

30年積み立てて一時金で受け取る場合のシミュレーションを見てみましょう。上記のAさんは、この条件に該当します。30歳のAさんが30年間、年3%で運用して、60歳になって全額を一時金で受け取る場合を考えてみましょう。

退職所得控除は、800万円+70万円×(30年−20年)=1,500万円です。つまり、一時金が1,500万円までであれば非課税の範囲内であり、税金はかからないということです。

毎月の積立額(拠出金額)が2万3,000円、想定利回り3%、積立期間30年だと、前述のとおり最終積立金額は1,340万2,948円でした。したがって、Aさんは税金を払うことなく全額を受け取れます。

「60歳から年金で受け取る場合」のシミュレーション

次に、60歳から年金で受け取る場合のシミュレーションを見てみましょう。Aさんが、最終積立金額1,340万2,948円を一時金ではなく、全額を年金受取で受給するとします。

年金受取の場合は、iDeCoを契約している金融機関によって、選択できる受取期間や支給回数が異なります。今回は、20年にわたって年1回受け取るとします。1年(1回)ごとの受取金額は、1,340万2,948円÷20年(20回)=約67万147円です。ここから、公的年金等控除を差し引いて「公的年金等に係る雑所得」が決定します。

前述のとおり、公的年金等控除は他の収入の多寡と年齢によって異なります。他の収入が1,000万円以下の場合は60万円、1,000万円超2,000万円以下の場合は50万円、2,000万円超の場合は40万円が公的年金等控除額となります。Aさんが65歳以上で年金を受け取る場合は、それぞれ110万円、100万円、90万円が控除されます。

ここでは、Aさんの他の収入は1,000万円以下とします。その場合、60歳から64歳までの5年間は、約67万147円−60万円=約7万147円が課税対象になります。65歳から80歳までの15年間は控除額が110万円に増え、受取給付額(約67万147円)が110万円を下回るため税金はかかりません。

このシミュレーションの注意点は、AさんにはiDeCo以外の公的年金収入がないことが前提になっている点です。実際は国民年金、厚生年金、共済組合などの年金収入を合算するので、税負担は増す可能性があります。

iDeCoの節税効果を得にくい人

iDeCoの大きなメリットは【積立時】【運用時】【受取時】における節税効果ですが、以下のような人は節税効果を得にくいといえます。

収入がない(低い)人

収入がない(低い)人は、【積立時】の節税効果をあまり(まったく)享受できません。前述のとおり、確定拠出年金の掛金は全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象となり、課税所得額から差し引かれることで所得税・住民税が軽減されます。しかし、差し引く元となる課税所得がなければ、このメリットを得ることができません。

そもそも収入がない、もしくは収入があっても税負担額が低い人は、iDeCoのメリットの一つである「掛金が全額所得控除」の効果をあまり得られないのです。

元本確保型で運用している人

iDeCoは自分で運用商品を選んで、自分で運用していく私的年金です。「積み立てている資産が目減りするのは嫌だから、元本確保型の商品で運用している」という人もいるでしょう。しかし、そのような人は、【運用時】の効果を十分得られません。

【運用時】の節税メリットは、本来課税される譲渡益の20.315%が非課税になることです。つまり、運用益が多くなるほど節税効果も大きくなります。現在は低金利なので、元本確保型の商品では運用益はほとんど期待できません。節税効果はゼロではありませんが、極めて低いといえます。

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具体的にシミュレーションしてみることが重要

ここまでiDeCoとは何か、iDeCoの3つの節税効果、節税効果の具体的なシミュレーション、iDeCoの節税効果を得にくい人について解説してきました。

iDeCoは60歳まで引き出せないというデメリットはあるものの、【積立時】【運用時】【受取時】において節税効果を享受しながら、老後のための資産を形成できる優れた制度です。

とはいえ、具体的にシミュレーションしてみないと、自分がどれくらい節税できるかはなかなかイメージできないでしょう。

まだiDeCoに加入していない人は、自分の拠出限度額を調べてみましょう。そして、満額を拠出し続けると、あるいは○%で運用し続けると、どれだけ節税効果があるのか確認してください。具体的な節税効果を見れば、iDeCoがいかに優れた制度であるかがわかるはずです。

すでにiDecoに入っている人も入っていない人も、一度自分の節税効果をシミュレーションして、自分の老後についてさらに具体的に考えてみてはどうでしょうか。さらに運用へのモチベーションがあがるはずです。

※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。

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