世界経済は不況に向かうのか?

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世界経済は現在の困難を乗り超えられるとクリスティーナ・フーパーが考える理由

〔要旨〕

雇用環境に明るい兆しはあるか?:8月の米雇用統計は予想外の結果だったが、少なくとも9月の統計までは雇用環境の正常化が見られ始めることはないだろう

人・モノの移動は引き続き活発:米国とユーロ圏では、ロックダウンの緩和により支出を増やすことが可能に

景気の急減速が近いと想定するべきではない:世界経済は次第に立ち直る力を増している

米国の雇用統計に見られる明るい兆し

失業手当の上乗せ分が失効し、米国中の子供たちが学校に通うようになる9月の雇用統計までは、雇用状況の正常化が見られ始めることはないと考えます

各国で異なる新型コロナ対策

変異ウイルスの感染拡大にもかかわらず、米国・英国・ユーロ圏では、人やモノの移動は引き続き活発。その一方で、厳格なコロナ対策が取られているアジアの一部では、サービス業の悪化が続く

経験から学ぶ

2020年の新型コロナの感染拡大以降、各国経済は新型コロナへの対処法を学んできた。そのため、現在の感染拡大においても、世界経済はうまく対処するだろう

9月に注視すべきポイント

①変異ウイルス「ミュー株」、②ワクチン接種の進ちょく状況、③人やモノの移動量、④FRBのテーパリング計画の行方—に注目

先日、夫があることを告白し、子供たちを驚かせました。夫が高校生のとき、ラテン語の先生がラテン語のアドバンスト・プレイスメント(AP)試験(高校で実施されるハイレベルのクラスの試験)を受けないように夫を説得したというのです。その先生は、夫がクラス全体の平均点数を下げると考えていたようでした。それを聞いて、たくさんの疑問が私の頭の中を渦巻きました。何よりもまず、教師はどのようにしたらそのような生徒を見限ることができるのでしょうか?(夫はどれほどにひどい学生だったのでしょうか?そして私は結婚して25年経つというのにどうしてこの話を聞くのが初めてだったというのでしょうか?)

夫がラテン語のAP試験を受けていたとしたら、おそらく不合格だったかもしれませんが、夫は高校、大学、大学院を卒業し、現在、社会に貢献しています。しかし、実際のところ、そのラテン語の先生は、夫が試験で自身のラテン語の能力を示す前にラテン語に関する夫の能力を見限っていたようです。この話を聞いて、私は、現在世間で起こっていること、すなわち、メディアと投資家は、世界経済が深刻な局面に直面していると想定していることを思い出します。しかし、私は、世界経済には一部の人々が信じるよりも大きな可能性があるように感じています。

米国の雇用統計に見られる明るい兆し

失業手当の上乗せ分が失効し、米国中の子供たちが学校に通うようになる9月の雇用統計までは、雇用状況の正常化が見られ始めることはないと考えます

確かに、8月の米雇用統計は市場予想を大きく下回りました。しかし、同統計で完全に見落とされていた点があります。それは、7月の非農業部門雇用者数が100万人を大きく超える水準に上方修正されたことです 1 。さらに、8月22~28日までの1週間の新規失業保険申請件数は34万件となり、パンデミック(新型コロナウイルスの世界的な大流行)後の最低水準を記録しました。これは、現在、雇用環境が改善傾向にあることを示唆しています 2

以前にもお伝えしたように、失業手当の上乗せ分が失効し、米国中の子供たちが学校に通うようになる9月の雇用統計までは、雇用状況の正常化が見られ始めることはないと考えます。そのような状況になれば、より多くの人が職を求めるようになるでしょう。

各国で異なる新型コロナ対策

変異ウイルスの感染拡大にもかかわらず、米国・英国・ユーロ圏では、人やモノの移動は引き続き活発。その一方で、厳格なコロナ対策が取られているアジアの一部では、サービス業の悪化が続く

私は、新型コロナウイルスの感染拡大が経済に影響を与えているという現実を認めざるをえません。ただし、その影響はメディアが示しているほど深刻ではないと思います。確かに、米国はいくつかの逆風に直面していますが、それらは軽微に見えます。米国では人出は減少しておらず、自主隔離はあまり行われていないようです。例えば、8月26日の米国のモビリティ・データ(人・モノの移動量)はわずかな低下にとどまりました 3

英国やユーロ圏でも同様の状況となっています。例えば、8月のユーロ圏サービス業購買担当者景気指数(PMI)は前月からわずかに低下しましたが、モビリティ・データ(8月26日時点)は引き続き良好です。IHSマークイットのエコノミストであるジョー・ヘイズは、「ロックダウンが緩和されたことで、サービス業指数は2006年7月・8月以降の高水準となった。」と述べました 4

次に、最近のアジアの一部の経済は、新型コロナの感染再拡大の影響を大きく受けていますが、それは各国が実施したより厳格な新型コロナ対策の影響によるものと考えます。最近の中国のPMIは、サービス部門の縮小を示しています。また、日本のサービス業PMIも、景況改善と悪化の分岐点である50を下回っています。

経験から学ぶ

2020年の新型コロナの感染拡大以降、各国経済は新型コロナへの対処法を学んできた。そのため、現在の感染拡大においても、世界経済はうまく対処するだろう

端的に言えば、新型コロナ対策は地域によって異なっており、現在、一部の地域では他の地域よりも大きな悪影響を受けています。特に、各国がワクチン接種をさらに進める必要がある場合は、厳格な対処が必要になる可能性があります。しかし、私がお伝えしたい重要なポイントは、深刻な不況が間近に迫っていると想定すべきではないということです。経験は最高の教師であり、各国経済は2020年初以降、新型コロナウイルスの対処法をかなり多く学びました—そして、経済の回復力はめざましいものでした。ですから、今、多くの人が世界経済に悲観的になってきた現状でも、私の見通しは引き続き楽観的です。

9月に注視すべきポイント

①変異ウイルス「ミュー株」、②ワクチン接種の進ちょく状況、③人やモノの移動量、④FRBのテーパリング計画の行方—に注目

もちろん、警戒を怠ってはいけません。私が9月に注視するポイントとして、以下をご紹介します。

• 変異ウイルス「ミュー株」

引き続き、新型コロナ関連のデータを注視します。特に、ミュー変異株が気がかりです。ミュー株は2021年1月に初めて発見され、ワクチン接種率の低い国々で広がりました。最近の調査で、米国50州のうち49州で発見されたことが明らかになりましたが、米国の新規感染者数の1%にすぎません(残りの99%がデルタ株となっています) 5 。ミュー株に関連する懸念として、世界保健機関(WHO)は「免疫回避の潜在的な特性を示す一連の突然変異が見られる」と警告しています 6 。ミュー株が既存のワクチンに耐性があるかどうかを確認するため、さらに研究を行う必要がありますが、もしそうであるならば、非常に懸念されます。今、私は、COVID-19の結果として2020年に見られたような経済的な困難は見られないと確信していることを強調しなければなりません。なぜなら、ワクチンに耐性のある変異株が出現したとしても、経済は新型コロナウイルスの感染が初めて拡大した2020年初頭よりもはるかに良く機能することを学んだためです。ただし、ミュー株は、株式市場にある程度のボラティリティをもたらす可能性があるでしょう。

• ワクチン接種

ワクチン接種の進ちょく状況は引き続き非常に重要です。変異株が増殖する可能性があるのは、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがきかないときであることを覚えておく必要があります。そのため、各国は国民に対してしっかりとワクチンを接種する必要があります。つまり、新興国のワクチン接種状況を見届ける必要があるのです。また、私は、多くの国民に対して有効なワクチン接種が行われている国での3回目のワクチン接種(ブースター接種)の進展も注視しています。ワクチンの有効性が比較的早く失われる可能性があることを示す有力な証拠がいくつか存在しており、そのため、イスラエル政府は、国民への3回目の接種を実施するために迅速に動きました。私は、他の国々が従うべきモデルとしてイスラエルに引き続き注目しています。私は、米国が今秋、国民に対して3回目の接種を行う計画が進行することを望みます。ただし、これは両刃の剣であり、ワクチンの供給量が限られているため、新興国で人口に対するワクチン接種を行う取り組みが遅れる可能性があります。

• 人・モノの移動

新型コロナウイルスが蔓延している現在、モビリティ・データは経済活動に対して非常に有益な洞察を与えてくれています。人やモノの移動量の低下は、経済活動の低下の最初の兆候を示す可能性があり、同データの動向を引き続き注視したいと思います。新型コロナウイルスの感染が再び拡大しても、多くの国では政府が再び厳格な対策をとることを回避しようとすることを思い出してください。つまり、外食と買い物を続けるか、家にとどまることを選ぶかは個人が決定します。このパンデミックの間は、モビリティ・データを「炭鉱のカナリア」と考えてください。

• 米連邦準備制度理事会(FRB)

市場予想を下回った8月の雇用統計により、FRBはテーパリングの発表と実施を遅らせることに向けての柔軟性を手にしましたが、FRBが実際に9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)以降に遅らせるかどうかは分かりません。私は、FRBはテーパリングの発表を少し遅らせると予想しますが、この先のFRB関係者の発言を綿密に追いたいと考えています。

1.出所:米国労働省労働統計局、2021年9月3日
2.出所:米国労働省、2021年8月第4週(22~28日)
3.出所:グーグル
4.出所:IHSマークイット、2021年9月3日
5.出所:インデペンデント紙、“Mu variant found in every US state bar Nebraska, with Florida and California suffering highest numbers”、2021年9月3日
6.出所:世界保健機関、“COVID-19 Weekly Epidemiological Update”、2021年8月31日

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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MC2021-154

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