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新型コロナの感染者が増加する中、パウエル議長はテーパリングに取り組むのか?

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〔要旨〕

新型コロナの感染拡大に慌てる米国消費者:短期的には、コロナ関連のニュースが消費者心理に大きな影響を与える見込み

人やモノの移動は引き続き多い:消費者心理よりも人やモノの移動量を観察する方がはるかに有益だろう

パウエル議長のジャクソンホールでのスピーチに大きな注目:パウエル議長はジャクソンホールで、テーパリングの開始が近いとの発言を繰り返し、詳細を説明すると予想

新型コロナの感染拡大に慌てる米国消費者

ミシガン大学による8月の消費者態度指数は前月から大きく低下

人やモノの移動は引き続き多い

感染再拡大への懸念が聞かれるものの、人の往来は依然として活発

投資家心理は低下したが、どのくらいの期間だろうか?

新型コロナウイルスの感染再拡大を受け、米10年国債利回りは低下し、主要株価指数が下落

早い時期からテーパリングの開始について言及していたダラス連銀総裁が、テーパリングの開始について柔軟に対応すると発言

パウエル議長のジャクソンホールでのスピーチに大きな注目

デルタ変異株の高い攻撃性と、一部のワクチンの有効性の低下により、イスラエルや米国などで新規感染者数が急増

過去数週間にわたり、新型コロナウイルスがまもなく過去の問題になるという見方は、最近のデータによって打ち砕かれました。ワクチン接種の「有効な実践におけるモデル」と私が説明していたイスラエルや米国などの国々では、新型コロナウイルスの感染者が急増しています。そして、私が以前触れましたが、前月にイスラエルが発表した調査結果から、ファイザー社製のワクチンの感染を防ぐ有効性が、4月にワクチンを接種した場合は75%だったのに対して1月に接種した場合は16%となっており、時間の経過とともに低下していることが明らかになりました 1 。一方で、ワクチンの重症化を防ぐ効果は引き続き非常に高いものでした 1

先週発表されたオックスフォードの研究では、イスラエルと同様、英国でも時間の経過とともにワクチンの有効性が低下していることが示されました。研究結果では、ファイザー社製のワクチンは、2回目の接種から2週間後の感染予防効果が92%だったことが示されましたが、2回目の接種から3カ月後では78%に低下しました 2 。また、アストラゼネカ社製ワクチンの有効性は、2回目の接種から2週間後では69%だったものの、2回目の接種から3カ月後では61%に低下しました 2 。有効性の低下はイスラエルの調査ほど大きくはありませんでしたが、英国の調査がイスラエルよりも短い時間軸での比較に基づくものであったためかもしれません。

したがって、イスラエルや米国などの国で新型コロナの感染者が増加していることには驚くべきではないでしょう。なぜなら、これらの国々、特にイスラエルでは、他の国々よりも早く2回目のワクチン接種を行うことができたからです。先週、米国では2月以降初めて、90万人以上の新規感染者数が報告されました 3 。これは、デルタ変異株の高い攻撃性と、一部のワクチンの有効性の低下を示しています。米国ロサンゼルス郡の統計から、これに関する洞察を得ることができます。

• 2021年3月、ワクチン接種を完了していた人のブレークスルー(突破型)感染(ワクチン接種により抗体ができたはずの人が感染すること)は、全感染者数のうちわずか2%だった 4

• しかし、デルタ変異株が郡内の新規感染者の50%を占めた6月には、ワクチン接種が完了した人のブレークスルー感染が全感染の20%を占めた 4

• その後、デルタ変異体が全感染の90%以上を占めた7月下旬には、ブレークスルー感染が全感染の30%を占めた 4

新型コロナの感染拡大に慌てる米国消費者

ミシガン大学による8月の消費者態度指数は前月から大きく低下

新型コロナウイルスの感染再拡大は、米国の消費者心理に衝撃を与えました。ミシガン大学が発表した8月の消費者態度指数(速報値)は70.2と、7月の81.2(確報値)から大きく低下しました 5 。この結果の重要性について、ミシガン大学の調査部門のチーフエコノミストは以下のように強調しました:「過去50年において、消費者態度指数が大きく低下したのは6回しかなく、そのすべてが経済の急激なネガティブな変化に関係している。同指数が大きく低下したのは、2020年4月の経済封鎖時(-19.4%)と世界金融危機時に景気が大きく後退した2008年10月(-18.1%)だった。」 5

この結果から私が得たポイントは、ほとんど分かっていない、恐ろしい伝染病に関するトップニュースが、短期的に消費者心理に大きな影響を与える可能性があるということです。米調査会社のモーニング・コンサルトによる最近の世論調査では、米国人の31%が新型コロナウイルスを深刻な健康リスクと見なしていることを示しており、わずか1カ月前の21%から急増しました 6

人やモノの移動は引き続き多い

感染再拡大への懸念が聞かれるものの、人の往来は依然として活発

しかし、私は消費者心理指数の結果に動揺するよりも、モビリティデータ(人やモノの移動量)を観察する方がはるかに有益だと思います。多くの人は、新型コロナにおびえていて、経済動向が心配だと言っていますが、それでも実際には、少なくともまだ、人々は感染再拡大のために外出してレストランや店に行くのを控えていません。

グーグルによる米国のモビリティデータ(小売店、レクリエーション、職場、駅、食料品店、薬局の単純平均)は、8月19日時点ではわずかに減少したに過ぎません。ほとんどの米国人がまだ行きたくない場所は、オフィスに戻ることだけのようです。もちろん、今後もモビリティデータを調査して、今後数週間で新型コロナによる予期しない悪影響があるかどうかを確認する必要があるでしょう。

投資家心理は低下したが、どのくらいの期間だろうか?

新型コロナウイルスの感染再拡大を受け、米10年国債利回りは低下し、主要株価指数が下落

最近の新型コロナ関連のデータは、消費者心理だけでなく、投資家心理にも衝撃を与えました。前週、米10年国債利回りが低下し、米主要株価指数や石油価格が下落した一方、VIX指数は大幅に上昇しました。そして現実にも、新型コロナウイルスの感染再拡大は、中国と同様に、世界の一部の地域で緩やかな景気減速を引き起こす可能性があります(ただし、中国の景気減速には複数の要因があり、一部は新型コロナとは無関係です)。ワクチンの有効性の低下とともに、英国、ユーロ圏、カナダおよびその他の国ですぐに景気が緩やかに減速する可能性があります。しかし、追加接種を迅速に行う意欲と能力がある米国やその他の国では、生じる問題はわずかであると私は引き続き考えます。さらに、米食品医薬品局は月曜日には、ファイザー社製ワクチンを正式に承認したと発表しました。これは、より多くの人々にワクチン接種を促す上で、大きな助けとなるでしょう。

私は、市場に影響を与えているのは新型コロナウイルスだけではないことを強調しなければなりません。多くの市場参加者は、新型コロナにより経済成長が鈍化する中、米連邦準備理事会(FRB)が金融引き締めを開始することで、米国経済に「二重の打撃」を与えるとのストーリーを共有しており、これも市場に影響しています。確かに、FRBが近い将来のテーパリング(資産購入額の段階的な縮小)に向かって急速に動いていることを示す7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が公表されたことは、そのストーリーの形成に一役買いました。

早い時期からテーパリングの開始について言及していたダラス連銀総裁が、テーパリングの開始について柔軟に対応すると発言

しかし、7月のFOMCでの出来事は、古い情報に基づくものだったことを覚えておく必要があります。FOMC以降、新型コロナの感染状況は大きく変化しました。幸いなことに、FRBの「タカ派」とダラス地区連邦銀行のカプラン総裁は、先週金曜日に市場の懸念を和らげました。カプラン総裁は、これまでのところ、新型コロナの感染再拡大は「高頻度のデータで確認されているように、外食、消費者活動に重大な影響を与えていない」ものの、オフィス復帰計画の遅れという点での影響や、感染拡大の恐れが高まる中での労働者の採用活動を通じた影響を及ぼしていることを認めました 7 。また、カプラン総裁は、新型コロナウイルスが「非常に不可思議な」ものであることを認識しており、それが米国経済に与える影響を綿密に追跡することを約束しました。そして、新型コロナウイルスが米国経済に重大な影響を与えるのであれば、テーパリング計画の調整を提唱するだろうと述べました。カプラン総裁がFRBにテーパリングの開始について最初に呼びかけた人物であったことを考えると、同総裁の今回の発言は重要です。

パウエル議長のジャクソンホールでのスピーチに大きな注目

そして今、ジャクソンホールでのパウエルFRB議長のスピーチ(8月27日に予定)はさらに重要な意味を持っています。最新のFOMC議事要旨では、暗号資産に言及していることから、それに関する発言が聞かれると期待する人もいます。これは、FRBで研究が進んでいる中央銀行デジタル通貨の開発に関連するトピックです。しかし、私はパウエル議長がテーパリングについて発言するのではという希望を抱いています。具体的には、間もなくテーパリングを開始する可能性を繰り返し、詳細を語ると考えています。

もちろん、カプラン総裁の先週の発言をパウエル議長が拡大すること、つまり、新型コロナウイルスの経済への影響に応じて、FRBはテーパリング計画を調整する用意があると述べることを私は望んでいます。パウエル議長の発言が「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく(米国のテレビドラマ)」の最新シリーズのように楽しいものになるとは約束できませんが、私の家では間違いなく、ポップコーンなどとともに必見のテレビになるでしょう。

1.出所:タイムズ・オブ・イスラエル、“Israeli, UK data offer mixed signals on vaccine’s potency against Delta strain”、2021年7月22日
2.出所:ロイター、“British study shows COVID-19 vaccine efficacy wanes under Delta”、2021年8月19日
3.出所:ミネソタ大学、Center for Infectious Disease Research and Policy、“US COVID-19 cases back to pre-vaccination levels”、2021年8月16日
4.出所:Deadline、“In Los Angeles, Breakthrough Infections Are Now 30% Of All New Covid Cases Amid Delta Surge”、2021年8月19日
5.出所:ミシガン大学、“Surveys of Consumers, Preliminary Results for August 2021”
6.出所:モーニング・コンサルト、“The Return to Normal: Views on the Pandemic”、2021年8月18日
7.出所:フォックス・ビジネス、“Fed’s Kaplan watching COVID delta variant ‘very carefully,’ may ‘adjust’ views”、2021年8月20日

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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