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なぜ米国債の利回りが低下しているのか?

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〔要旨〕

先週、米10年国債利回りが低下:長く金融業界に従事している経験では、米10年国債利回りは投資家の恐れを測るのに適切な指標

何が利回り低下の原因か?:この重要な指標の低下の背後にある4つの理由を探る

理由1:新型コロナウイルスの感染者数の増加

オーストラリアをはじめ、インドネシアやカンボジアなど、パンデミックの第一波の抑制に成功した国々で感染が拡大。米国では、ワクチン接種の水準に応じて感染状況が二分化

理由2:成長期待の鈍化

米国では景気減速を示すわずかな兆候が見られている。ただし、経済成長に関する最大の懸念は、中央銀行による想定以上に早い金融政策の転換である

理由3:インフレへの懸念の弱まり

FRBは高水準にあるインフレを「一時的」と表現を続けている。また、今後の財政刺激策の見通しなどから、消費者の5年先のインフレ期待は弱い

理由4:米国債への根強い需要

①ポートフォリオの分散と利回りの追求、②変異ウイルスへの懸念、③他の先進国国債に比べて高い利回り水準―などから、米国債への需要は根強い

まとめ

現在は変異ウイルスに対しても有効性が確認されている一方で、ワクチン接種水準の大きな差や、中央銀行の政策ミスの可能性など、利回りを抑制するリスクも存在

今後の注目点

①ワクチン接種の進捗状況や変異ウイルスの感染状況、②パウエル議長の議会証言、③決算発表―に注目

先週、米国債利回りが数カ月ぶりの水準に低下しました。10年債利回りは一時1.25%を下回りましたが、その後は若干上昇して週を終えました 1 。30年債利回りでさえもが、週後半に2%を割り込みました 2 。私は、長く金融業界に従事している経験から、恐怖を示す尺度として、米10年債利回りがVIX指数よりも優れていると考えていますので、10年債利回りを注視し、なぜ急低下したのかを理解することが重要だと思います。

理由1:新型コロナウイルスの感染者数の増加

オーストラリアをはじめ、インドネシアやカンボジアなど、パンデミックの第一波の抑制に成功した国々で感染が拡大。米国では、ワクチン接種の水準に応じて感染状況が二分化

明らかな理由の1つは、新型コロナウイルスです。世界や米国の一部地域では、新規感染者数が増加しています。これが利回りの低下の大きな理由ではないと考える人は、統計をしっかりとみていないと言えます。

• オーストラリアは、7月11日の新規感染者数が過去1年超において最も多かったと報告しました 3 。その数は112人ですが、日次ベースの感染者数が増加していることや、オーストラリアの成人人口の約10%しかワクチン接種を受けていないことを考えると、今後が懸念されます。

• インドネシアでは新型コロナウイルスの新規感染者数と死者数が大きく増加しており、先週、それらの数は最多を更新しました 4 。インドネシア政府はそれを受け、地域の指導者に対してより厳格な行動制限を課すように要請しました。また、カンボジア、ミャンマー、タイ、ベトナムでも新規感染者数でも日次の新規患者数は過去最多となりました 5 。特に気がかりなのは、オーストラリアと同様に、この地域が新型コロナウイルスの第一波が比較的うまく管理した地域であったことです。それだけに、(おそらく、インドで初めて確認されたデルタ株の感染力がより強力なため)今回の感染の波において大きな困難に直面していることが懸念されます。

• 米国疾病予防管理センター(CDC)によると、米国では7月7日から4日間で1日当たり2万人以上の新規感染者数を記録しました。これは前週からの大幅な増加です 6 。デルタ株のまん延とともに感染者数が増加しており、30代、40代、50代のより若い世代も深刻な病状に陥っているとの報告もあります。CDCのロシェル・ワレンスキー所長は、ワクチン接種の水準に応じて異なった軌道を歩む2つの米国が生まれているようだとして次のように述べました。「新型コロナウイルスに関する数字やパンデミック(新型コロナウイルスの世界的な大流行)の現状は2つの真実を示している。1つは、過去8カ月間でワクチン接種プログラムの成功により、1月のピークよりも新規感染者、入院者、そして死者が著しく減少したことだ。その一方で、新たな懸念材料も見られ始めている。簡単に言えば、ワクチン接種の水準が低い地域では、感染数と入院数が増加している。」 7

• 日本政府は、東京オリンピックにおいて、大部分の競技を無観客で実施すると発表しました。これは、新型コロナウイルスの感染者数の急増を背景とした、衝撃的、かつ経済に悪影響を及ぼす出来事です。

理由2:成長期待の鈍化

米国では景気減速を示すわずかな兆候が見られている。ただし、経済成長に関する最大の懸念は、中央銀行による想定以上に早い金融政策の転換である

世界の多くの地域で力強い景気回復が見られましたが、新型コロナウイルスのまん延により、経済成長を減速させる新たな規制が採られる恐れがあります。先週、欧州委員会は、2021年のユーロ圏の経済成長率予測を上方修正しましたが、新型コロナウイルスの変異ウイルスにより制限措置がとられる可能性があると警鐘を鳴らしました。

しかし、新たな制限措置がまだとられていない現在でも、景気減速を示す小さな兆候が見られ始めています。

• 6月の米ISM非製造業景況感指数は、60.1と市場予想を下回り、前月の64.0から大きく低下しました 8

• 米国の1週間の新規失業保険申請件数は、37万3,000件と前週からわずかに増加しました。市場では減少を見込んでいましたが、予想外の結果となりました 9 。

• 法人税の国際最低税率が経済成長を阻害する可能性があるという懸念もあるようです。

ただし、(新型コロナウイルスの収束後の)世界経済の成長に関する最大の懸念は、中央銀行が2023年初よりも早く政策金利の引き上げを開始するという、中央銀行の政策の失敗に関連した懸念であると思います。セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁は2022年半ばに米連邦準備理事会(FRB)の政策変更が行われる可能性を示唆しました。ラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁も同様の示唆をしました。

理由3:インフレへの懸念の弱まり

FRBは高水準にあるインフレを「一時的」と表現を続けている。また、今後の財政刺激策の見通しなどから、消費者の5年先のインフレ期待は弱い

市場は、インフレ率の上昇は一時的との見方に同調しているようです。FRBは、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨や、先週金曜日に発表された金融政策報告書(半年ごとに提出)など、あらゆる場面で、高水準にあるインフレを「一時的」と表現し続けており、投資家もその見解を信頼しています。

ミシガン大学の1年先の消費者期待インフレ率は、5月の4.6%から6月には4.2%に低下しましたが、依然として高い水準です 10 。一方で、5年先の期待インフレ率は3%から2.8%に低下しました 10 。考えられる要因の1つとして、今後の財政刺激策が十分ではない可能性があるとの認識があります。超党派の支持を得られる問題であるにもかかわらず、米国がインフラ投資法案を可決させるためにどれだけ苦労しているかをみればわかります。

理由4:米国債への根強い需要

①ポートフォリオの分散と利回りの追求、②変異ウイルスへの懸念、③他の先進国国債に比べて高い利回り水準―などから、米国債への需要は根強い

米国債への高い需要は、単に分散と利回りの追求の結果である可能性があります。強気相場の2年目は、1年目よりも多くの困難に直面し、変動性が高くなる可能性があり、一部の投資家は、特に変異ウイルスがもたらすリスクを考えると、ポートフォリオの多くがリスク資産で構成されているのに加えて、米国債へのエクスポージャーを増やしたいと考えるかもしれません。言い換えれば、ポートフォリオの大部分は、ポジティブでリスク資産がアウトパフォームする可能性があると予想される私たちの「基本シナリオ」に沿ったものとなる一方で、ごく一部は、「パンデミックの再発」シナリオを前提として構築される可能性があります。また、米国債利回りは、その他の先進国の国債に比べて依然として高いため、強い需要があると考えます。

まとめ

現在は変異ウイルスに対しても有効性が確認されている一方で、ワクチン接種水準の大きな差や、中央銀行の政策ミスの可能性など、利回りを抑制するリスクも存在

結論として、現状が2020年と同じではないことを強調することが重要だと思います。現在は新型コロナウイルスに対するワクチンが開発されており、現存する変異ウイルスすべてに対して有効なことが示されています。それが、スプレッドがタイトであり、米10年国債利回りが0.5%ではない理由です。しかし、国や地域間のワクチン接種水準の大きな差は、経済回復の速度が異なることを示唆しています。また、そのことは、さらに悪性の変異ウイルスが発生するリスクを高めます。そして、中央銀行の政策ミスの可能性など、利回りを抑制している他のリスクも存在しています。それでも、私は10年国債利回りは2021年後半には上昇するという見方を維持しており、特にいったんテーパリング(資産購入額の減少)が始まればそうなるはずであると考えています。

今後の注目点

①ワクチン接種の進捗状況や変異ウイルスの感染状況、②パウエル議長の議会証言、③決算発表―に注目

今後については、ワクチン接種の進ちょく状況と変異ウイルスのまん延状況を引き続き注視したいと思います。また、私は、今週予定されているパウエルFRB議長の議会証言にも注目しています。その際、パウエル議長は、利上げを開始する可能性のある最も早い時期についての手がかりを与えてくれるかもしれません。2022年半ばに利上げが行われる可能性は非常に低いと思いますが、仮に利上げが実施されたとしても、それは、米国経済が十分すぎる金融緩和を必要としなくなったためでしょう。最後に、いよいよ企業決算が始まります。非常に力強い企業収益結果が予想されるため、今後の収益見通しに着目しようと考えています。

1.出所:ブルームバーグL.P.
2.出所:ブルームバーグL.P.
3.出所:フィナンシャル・タイムズ、“Australia reports highest daily cases total in a year”、2021年7月11日
4.出所:エコノミスト、“A wave of covid-19 is engulfing Indonesia”、2021年7月11日
5.出所:エコノミスト、“A wave of covid-19 is engulfing Indonesia”、2021年7月11日
6.ビジネスインサイダー、“The US recorded more than 20,000 new COVID-19 cases each of the past four days as the Delta variant spreads”、2021年7月10日
7.出所:ホワイトハウス、記者会見、2021年7月8日
8.出所:米サプライマネジメント協会、2021年7月6日
9.出所:米国労働省、2021年7月8日
10.出所:ミシガン大学、“Stronger economy anticipated amid appreciable risks”、2021年6月25日

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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