『買い物ゼロ秒時代の未来地図――2025年、人は「買い物」をしなくなる〈生活者編〉』より一部抜粋
(本記事は、望月智之氏の著書『買い物ゼロ秒時代の未来地図――2025年、人は「買い物」をしなくなる〈生活者編〉』=クロスメディア・パブリッシング、2021年1月29日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
目次
誰もが何気なく行っている「買い物」は、どんな行動なのか。私たちは何を考えて商品を選んでいるのか。それらを詳しく知るには、まず分解してみるといい。そうすることで、私たちが普段、買い物をしながらも自覚していない点に気づくことができるからだ。
この本では、「買い物の仕方」と「商品の探し方」という大きく2つの側面から、買い物を分解しつつ考えていく。デジタル時代の今、私たちはどんな買い方をしているのか(=買い物の仕方)。そして、私たちはどんなふうに商品を見つけて購入しているのか(=商品の探し方)。そこから話を始めてみたい。
まずは、「買い物の仕方」からだ。デジタル時代の「買い物の仕方」は、図表1に示す6つに分類することができる。
これらはいずれもアナログの時代はできなかった、新しい手法だ。それぞれ少し詳しく解説していこう。
楽天市場やZOZOTOWN、Amazonなどには、気になった商品を「欲しいものリスト」や「お気に入りリスト」に追加する機能がある。これを「ウィッシュリスト」と呼ぶ。
たとえばセールなどで、大量の商品を見て回っているときには、「買い物かごに入れるまでには至らないけど、ちょっと気になる商品」が次々に見つかる。それらをひとまずウィッシュリストにまとめておき、あとでまとめて検討してから購入するという買い方が、「ウィッシュリストショッピング」だ。
セール以外でも、「この本、ちょっと気になるけど、今は読む時間がないからウィッシュリストに入れておこう」という使い方もある。
現代人はとにかく入ってくる情報が多いため、脳で記憶しておける情報量などすぐに超えてしまう。何が欲しかったのかも忘れてしまうので、とりあえず欲しいものをウィッシュリストに入れておくのだが、多くの場合、買わずにリストに残ったままにもなる。
情報をたくさん手に入れても、それを取捨選択するのが面倒だという人は多い。自分の好きな商品ならいくらでも情報を見られるという人でも、興味の薄い商品を選ぶ際には、やはり面倒くさいと思うだろう。
そんなとき、自分では調べたり判断したりせず、SNSなどで他人がおすすめしている商品をそのまま買う「レコメンドショッピング」をする人が増えている。
たとえば、「これからジョギングを始めようかな」というときに、どんなシューズがいいか、いちいち調べるのは面倒くさい。ジョギングシューズとひと口にいってもいろいろあり、形や素材もさまざまだ。だいたい、何日もかけて調べるより、一日でも早く走り出せたほうがいいだろう。かといって、シューズなら何でもいいというわけではない。やはり履き心地がいいもの、デザイン性が高くてカッコいいものを選びたい。
自分がランニングシューズに詳しければ、自分で選ぶのも楽しいかもしれないが、特に詳しいわけでもなく、好きなブランドがあるわけでもなければ、他人のおすすめの通りにレコメンドショッピングをしたほうが、楽だし手っ取り早いのである。
自分の情報を積極的に知らせた上で、店舗やブランドに自分に合う商品を選んでもらう買い方が「カウンセリングショッピング」だ。
たとえば化粧品を買うときに、「自分はこういう肌の悩みがあるので、それに合ったものはありませんか?」と店員に相談しながら商品を選ぶのは、典型例のひとつといえる。
お気づきだと思うが、カウンセリングショッピングは、デジタル時代よりも前から存在する。百貨店などで、「何かお探しでしょうか?」と声をかけられて(あるいは声をかけられる前に自ら)自分の情報を店員に知らせつつ相談するという経験は皆さんにもあるだろう。しかし、最近は特にコロナ禍もあって、このようなリアル店舗でのカウンセリングショッピングは激減している。
百貨店業界の苦境にもつながる話だが、カウンセリングショッピング自体がなくなった
わけではなく、オンラインカウンセリングという形態に移行し始めているのだ。
インターネットで影響力を持つユーチューバーやインフルエンサーも、生活者の購買行動に大きな影響力を持つようになった。
たとえば自分の好きなインフルエンサーがSNSで、「今日は新発売のこのおもちゃで遊んでみました」と紹介した投稿動画などを見て、「自分も試してみたい」と思って買うような行為や、後日たまたま店舗で見かけて「前に見たやつだ。買ってみよう」と思って購入する行為は、まさにこの「インフルエンサーショッピング」といえる。
また、この買い物の仕方で起点となるのは、必ずしも有名なインフルエンサーとは限らず、自分の友人というケースもある。
「SNSで他人がおすすめしているものを買う」という点では、先ほどのレコメンドショッピングとも似ているが、レコメンドショッピングは「自分が知らない多数の他人」の評価を見ているのに対して、インフルエンサーショッピングは、「有名人やあこがれの他人」がすすめるものを買うという点で異なる。
メーカーが卸業者や小売りなどを通さず、直接、個人に販売するビジネスモデルを「DtoC(またはD2C=Direct to Consumer)」と呼ぶ。このDtoCからの流れで、生活者がメーカーや小売店と直接のつながりを持ちながら買い物をする「ブランドショッピング」も広がっている。
ここ数年、市場規模を拡大させている購入型クラウドファンディングはその一例だ。「ファンディング」なのでショッピングとは違うと思われるかもれないが、お金を出して商品やサービスの提供を受けるという意味で、買い物の一種といえる。
メーカーにとってのDtoCの醍醐味は、「顧客に商品のメイキングストーリーを伝えられること」だ。従来は顧客に対して、出来上がった商品・サービスを見てもらうだけだったが、通常の買い物では見えにくいメイキングの中身を見てもらうことで、顧客に応援してもらうことが可能になる。
デジタル時代よりも前は、顧客はそのメイキングをただ見ることしかできなかったが、双方向のやり取りができるようになったことで、顧客自身が商品やサービスのメイキングにも関わりながら、自分に近い価値観や世界観を持つメーカーとつながることが可能となっている。
2010年代は、さまざまな場面で「時短」のブームが起こった。料理・片付け・仕事などは、デジタルを駆使して時間が大幅に短縮された。買い物も同様だ。デジタルシェルフ時代の買い物は、「かかる時間を1分1秒でも減らしたい」という生活者のニーズに沿って、時短の買い物―ストップウォッチショッピングが進んでいる。
とりわけ日用品のように、いつも買うものが決まっていて比較検討が必要ないものに関しては、買い物にかける時間をなるべくゼロに近づけたい。買いに出かける時間はもちろん、商品選びから決済に至るまで極力時間をかけたくないので、ショッピングサイトの買い物履歴から「いつもの商品」を注文しているという人も多い。
ストップウォッチショッピングの究極の形は、考える時間すらなくすことだ。いくら買い物履歴から買えるのが便利といっても、それが10 アイテム、20アイテムと数が増えてくると「あとどれくらい残っているか、いつ買い足せばいいか」を一つひとつ覚えておくのもしんどい。そのためデジタル時代では、日用品については、「ストックが切れる前」のタイミングで自動的に商品が送られてくるようなサービスが広がると考えられる。
これら6つの買い方は、人によっても商材によっても変わる。「レビューの評価こそ大事だ」という人はレコメンドショッピングが多いだろうし、同じ人でも、「化粧品はカウンセリングショッピングでないと決められない」ということがある。
いずれにせよ、デジタル時代の買い物の仕方に共通しているのは、「これまでの買い物におけるわずらわしさ」を取り払う方向に動いているということだ。
行く、選ぶ、調べる、覚える……。どれも面倒なことばかりで、中には決めることすら面倒という人もいる。そういった、人々が感じるわずらわしさをデジタルが次々に解決し、新しい買い方として定着し始めているのだ。
そして、生活者が新たに求める要素に、「つながり」がある。ソーシャルショッピングの特徴として、「つながり」という言葉を使ったが、レコメンドショッピングやインフルエンサーショッピングなどにもつながりの要素は含まれている。
望月智之(もちづき・ともゆき)
株式会社いつも 取締役副社長
東証1部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつも を共同創業。
同社は消費財ブランドに対するD2C・ECコンサルティング会社として、現在までのべ9500案件以上を支援し、2020年12月には東証マザーズ上場。
自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。
デジタル消費の専門家として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、ブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。
番組ナビゲーターを務めるニッポン放送「望月智之 イノベーターズ・クロス」のほか、J-WAVE、東洋経済オンライン、ダイヤモンド・オンラインなど、メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。
著書に『2025年、人は「買い物」をしなくなる』がある。
『買い物ゼロ秒時代の未来地図――2025年、人は「買い物」をしなくなる〈生活者編〉』