普段から貯金を続けたことで、総資産の合計が1,000万円の大台に到達したとき、次に何をやるか決まっているでしょうか。このまま貯金だけを続けるのも選択肢の一つですが、株式などで資産運用を行うことで今まで以上の早さで資産を増やせる可能性もあります。
もちろん資産運用には資産を減らすリスクがありますが、国内株式(※1)の場合は1952年〜2013年にかけて年率平均リターンが12.19%(※2)あるとされるため、リスクに見合ったリターンを期待できるかもしれません。
実際に「1,000万貯まったらどうする?」と迷っている方のために、資産運用の始め方をまとめました。
(※1)東京証券取引所1部上場全銘柄時価総額加重指数が対象。
(※2)参照:日本証券経済研究所「株式リスクプレミアムの時系列変動の推計」
目次
資産が1,000万円を超えたからといって全額運用するとリスクが高いため、投資資金は慎重に設定することが大切です。ここからは4つのステップに分けて、資産運用をゼロから始める流れを紹介します。
日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳とされています(※厚生労働省による2021年のデータ)。まずはこの年齢をベースに、将来の総支出額を計算してみます。
各支出項目を洗い出すと確実ですが、簡単に計算したい人は「1ヵ月あたりの平均支出額」を基準にしてみてください。以下では参考として、総務省統計局の「家計調査年報」に記載されているデータを紹介します。
世帯の種類 | 1ヵ月あたりの支出平均額(2021年) |
---|---|
単身世帯 | 155,046円 |
二人以上の世帯 | 279,024円 |
総世帯 | 235,120円 |
(参考:総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2021年(令和3年)Ⅱ総世帯及び単身世帯の家計収支」)
上記の金額に12を掛けると、1年間のおおまかな支出額を算出できます。あとは現在の年齢と平均寿命を踏まえて「寿命までの年齢×年間支出額」を計算すれば、将来の総支出額を簡単に把握できます。
将来の収入は、「働いている間の収入」と「年金による収入」に分けて計算しましょう。それでも細かく算出することは難しいですが、平均寿命までの大まかな収入を把握するだけでも運用計画は立てられます。
【1】働いている間の収入=現在の年収(または期待できる年収)×退職までの年数
【2】年金による収入=1年間に受け取れる年金額×平均寿命までの年数
上記の他にも、人によっては定年退職のタイミングで退職金を受け取れます。退職金についても分かる範囲で計算し、計算したものと上記【1】【2】を合計しましょう。このときに算出された合計金額が、平均寿命までの大まかな収入になります。
将来の収入・支出が分かったら、次は現状で足りない金額を以下のように計算します。
現状で足りない金額=将来の支出-将来の収入
仮に将来の支出を6,000万円、将来の収入を5,000万円とした場合、現状で足りない金額は1,000万円(6,000万円-5,000万円)です。計算結果がマイナスになる人については、これからの収入が支出を上回る状態なので、ゆとりのある運用計画やライフプランを立てやすいでしょう。
将来の収支を計算したことで、当面は使う予定のない余裕資金があることが分かったら、老後に向けた資産運用に目を向けましょう。
資産運用によって資産を増やせますが、かえって減らしてしまうリスクもあります。仮に資産運用によって損失が出たとしても、余裕資金であれば生活に影響を与えることはありません。このような余裕資金を用いて、資産運用を行うことを心掛けましょう。
上記の流れで、1,000万円が貯まったらどうするのかを具体的に考えましょう。
まずは、「1,000万円が貯まったら気をつけたいこと」を2つ紹介します。
1,000万円を貯めた人が知っておきたいのが、「銀行預金のペイオフ制度」です。ペイオフ制度は預金保険制度とも呼ばれ、万が一金融機関が破綻した場合、預金者の保護や資金決済の履行が確保される制度です。
具体的には、利息が付く普通預金・定期預金などについては、いち金融機関につき預金者1人当たり「元本1,000万円までと破綻日までの利息等」が保護されます。逆にいえば、それを超える部分は、破綻した金融機関の残余財産の状況によっては戻ってこない可能性があるのです。
なお、主に企業が営業資金の決済に使っている当座預金や利息の付かない普通預金などは、全額が保護されます。
金融機関の破綻はあまり身近ではないかもしれませんが、1,000万円以上を1つの口座に預けておくということは、「破綻時にお金が戻ってこないかもしれないリスク」を負うということです。
インフレリスクにも気をつける必要があります。インフレとはモノの価値が上がり、現金の価値が下がる現象のことです。
去年は1本100円で売られていたジュースが、インフレによって今年は1本200円になったとします。去年は100円出せば1本買えましたが、今年は200円出さないと買えません。つまり、100円(現金)の価値が相対的に目減りしたわけです。
このように物価が2倍になると、預貯金の価値は2分の1になります。せっかく1,000万円を貯めても、物価が2倍になれば預貯金の価値は半分になってしまうのです。
現在日本でも原油価格の高騰や円安の波によって物価上昇の懸念が叫ばれています。そんな最中、1,000万円以上を銀行口座に置いておくと、「インフレの高まりと相対的に価値が低下する」というリスクを負うことになります。
ここからは、「1,000万円が貯まったら検討したいこと」について解説します。結論からいえば、資金の一部を投資に回して「お金に働いてもらうこと」を検討すべきです。ここでは、「フロー」と「ストック」の2つの視点で見ていきます。
1,000万円を貯めることができたなら、「毎月○万円は貯蓄する」とルールを決めて貯金ができる人でしょう。そこで、毎月の貯蓄額の一部を積立投資に回してみてはいかがでしょうか。
例えば「月10万円は貯蓄する」という人は、その半分の5万円を積立投資に回すといった具合です。1,000万円の貯金があれば当面は生活に困ることはないでしょうから、心理的な負担がなければ10万円すべてを積立投資に回してもよいでしょう。
投資初心者は、まずは少額でもよいので「投資に触れること」が大切です。毎月のフロー(収入)の一部を投資に回すことを検討しましょう。
毎月のフロー(収入)の一部を投資に回しつつ、ストック(貯金)の一部を投資に回すのもよいでしょう。
現在は超低金利なので、1,000万円を銀行に預けていてもほとんど利息が付きません。メガバンクの普通預金金利は0.001%であり(2022年3月現在 )、1,000万円を1年間預けたとしても利息はわずか100円です。
ただし1,000万円の投資余力があるからといって、一気に多額の投資をしないように気をつけましょう。多額の投資をして、短期間に大きな損を出してしまったら、それまでコツコツ貯めてきた努力が水の泡です。
経験と勉強を重ねながら、少しずつ投資金額を引き上げていくとよいでしょう。
投資によって「お金に働いてもらうこと」は、資産を増やす効果的な方法です。しかし、投資である以上は、損をするリスクもあります。
コツコツ貯めてきた1,000万円だからこそ、少しでもリスクを抑えて投資するべきです。
リスクを抑えつつ資産を増やしたいなら、「分散投資」を取り入れましょう。
分散投資とは、投資先の資産や地域などを分けることで、損失のリスクを抑える(=分散させる)手法です。仕組みを理解するために、以下では分かりやすい例を紹介します。
<分散投資のイメージ>
「卵は一つのカゴに盛るな」という、分散投資の重要性を説いた投資格言があります。
全ての卵を同じカゴに入れていて、そのカゴを落としてしまったら、その中の卵が全て割れてしまう恐れがあります。一方で卵を複数のカゴに分けて入れておけば、一つのカゴを落として中の卵が割れてしまっても、他のカゴの卵は無事です。
この卵を金融商品に置き換えると、分散投資の仕組みと同じになります。
分散投資には、大きく分けて4つの種類があります。
<商品分散>
投資する資産の種類を分散させることです。例えば、株式や債券、不動産に分散するといった具合です。
<地域分散>
投資する地域を分散させることです。株式投資を例に挙げると、日本株式や米国株式、欧州株式のように地域を分散します。
<通貨分散>
投資する通貨を分散させることです。円建ての資産の他に米ドル建て、ユーロ建ての資産も持つような手法を指します。
<時間分散>
投資する時間を分散させることです。ある商品を一括で買うのではなく、毎月コツコツ10万円ずつ購入するといった方法を指します。
これら4つの視点から分散投資を行うことで、損失のリスクを抑えることができます。
分散投資の考え方を理解しても、投資初心者がいきなり実践するのは大変です。分散投資を行うためには、商品や地域、通貨の特性について学び、投資先を決めなければなりません。投資した後も商品ごとに値動きをウォッチしたり、国内外の動きについて情報を収集したりする必要があります。
実は、自動的に分散投資ができる商品もあります。フローとストックのどちらの投資にも適しているので、それぞれの特徴を踏まえて検討してください。
投資信託とは、投資家から集めた資金を専門家が運用してくれる金融商品です。専門家が投資先を選定し、必要に応じて入れ替えもしてくれるため、基本的には運用をすべて任せられます。投資先は国内外の株式や債券、不動産など、多岐にわたります。
元手が少なくても、多くの投資先に分散投資ができるのも投資信託のメリットです。
株式の購入単位は決められており、日本株であれば基本的に100株購入する必要があります。1つの銘柄を購入するのに数十万円から数百万円かかることもあるため、投資資金が少ない場合は分散投資が難しくなります。
しかし、投資信託なら毎月1万円といった少額から購入することができるため、分散投資が容易です。
ETFとは上場投資信託のことで、基本的な仕組みは投資信託と同じです。投資家から集めた資金を専門家が代わりに運用してくれます。
ETFは投資信託と違って上場しているため、値動きを見てリアルタイムで売買することができます。例えば安い時に購入し、高い時に売却して売却益を得ることを狙う場合、リアルタイムの値動きがわかるほうが、投資のタイミングを計りやすいでしょう。
また、一般的に投資信託よりも運用にかかるコストが低いこともETFのメリットです。
ただし、投資信託と比べると種類が少なく、運用方針も限られることを押さえておきましょう。
「貯金大国」といわれる日本で、投資を促して経済を活性化させるため、政府はさまざまな税制優遇制度を用意しています。ここでは、投資初心者が積極的に活用したい税制優遇制度を2つ紹介します。どちらも一定額を積み立てる方式なので、フローの投資に適しています。
つみたてNISAは、毎年40万円までの投資で得た利益が非課税になる制度です。通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかります。つみたてNISAでは最長20年にわたって利益に税金が課されません。よって手元に残るお金が増え、効率的に資産を形成できるのがメリットです。
つみたてNISAの投資対象は、長期積立・分散投資に適した一定の投資信託です。国が定める基準に適合した商品のみ選べるため、初心者でも安心して利用できる制度といえます。
iDeCo(イデコ)は、自分で商品を選んで年金を積み立てる制度です。投資信託の他、元本確保型の生命保険や定期預金を選ぶこともできます。
iDeCoで投資信託に投資すると、投資額の全額が所得控除の対象となるため、給与にかかる税金を抑えられます。また、運用益が非課税になる、受け取り時にも税金が優遇されるといったメリットもあります。
ただしiDeCoで積み立てたお金は、原則として60歳になるまで引き出すことができません。そのため、節税効果を重視するならiDeCo、引き出しの自由度を重視するならつみたてNISA、といったように使い分けるとよいでしょう。
続いて、ストックの投資に適した投資を3つご紹介します。ストックを投資する場合はまとまった資金を投じることになるため、慎重に投資先を選びましょう。
国債は国にお金を貸し、利息を受け取る商品です。国が破たんしない限り元本割れしないため、日本国債はリスクの低い投資先といえます。
ただし、2022年3月現在の利率 は変動金利10年で0.12%、固定金利3年・5年で0.05%と、非常に低いのが現状です。国債を検討する際は利率の高いネットバンクとも比較し、慎重に判断してください。
不動産投資は賃貸用の不動産を所有し、第三者に貸して家賃収入を得る投資方法です。マンションを丸ごと一棟所有するのではなく、ワンルームマンション投資から始めることもできます。
不動産投資のメリットは、入居者がいる限り継続的に家賃収入を得られることです。一方で、不動産投資では、不動産投資ローンを組むのが一般的です。1,000万円の貯金があれば頭金を支払うことはできますが、返済リスクがあることを考慮して投資しましょう。
不動産投資は、人に貸すことによるリスクを考慮しておく必要があります。空室が続けば家賃収入が入らず赤字ばかりが膨らんでいくことになります。また。火災や破損、住人が亡くなる可能性もあります。この他にも家賃の滞納など想定できるリスクを踏まえて、物件を選ぶ必要があります。
他にも地価の下落や自然災害など、不動産投資にはさまざまなリスクがあります。不動産投資を始めることよりも、安定収入をつくることの方が重要なので、あくまで選択肢の一つとして考えましょう。
投資に不安を感じている方は、1,000万円までの元本保証がある銀行への預金を考えてみましょう。資産運用という観点では、預金期間が長いほど高金利になる「定期預金」が選択肢になります。
一般的にメガバンクの定期預金は年0.002%程度、ネット銀行では年0.01~0.02%程度の金利がつきます。仮にネット銀行で1,000万円の定期預金を利用する場合は、年間1,000~2,000円ほどの利息を受け取れる計算です。
また、ネット銀行ではキャンペーンなどを活用することで、金利が0.1%以上になるケースもあります。より高い金利がつくネット銀行を探して活用してみましょう。
リターンは小さいですが、基本的に元本保証なので利用を検討してみましょう。普通預金で資金を放置しているよりは、資産形成に貢献してくれます。
知名度が高いものの難易度が高く、初心者にとってはリスクの大きい投資もあります。続いて、ハイリスク・ハイリターンといわれる投資を3つ紹介します。
「投資」と聞いて、最初に株式投資を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。株式投資は株価が上がる銘柄を見極めるのが難しく、企業が倒産すれば株式の価値がゼロになるリスクもあります。
仮に倒産リスクがなくても、株価が下落した場合は損失を避けられません。もし1,000万円で購入した銘柄が20%下落した場合、資産は800万円に減ってしまいます。投資信託など初心者向けの商品で経験を積み、商品選びや値動きに慣れてから挑戦するとよいでしょう。
FXは二国間の通貨を売買し、為替差益や金利差でリターンを得る投資です。FXではレバレッジをかけることで、元手の25倍までの取引ができるため、少ない元手で大きなリターンを狙える投資として注目を浴びています。
もし1,000万円の資金がある場合は、2億5,000万円分の取引ができます。これだけの取引ができれば、金利差によるスワップポイントでもリターンを狙えるでしょう。
スワップポイントとは2ヵ国間の金利差調整分のことで、政策金利が低い国の通貨を売って政策金利が高い国の通貨を買うと、ポジションを保有している日数だけ、金利差分の利益を得られる仕組みになっています。
しかし、大きなリターンを狙えるということは、大きな損を被るリスクもあるということです。せっかく貯めた1,000万円を一瞬で失うこともあるため、株式投資と同様に経験を積んでから挑戦しましょう。
代表的な仮想通貨であるビットコインの価格は、2020年から2021年にかけて大きく上昇したため、仮想通貨に投資する人が急増しました。
しかし、2021年以降は下落傾向が続いており、ピークからは1ビットコインあたり400万円ほど下落(2023年2月時点)しています。もしピーク時に1,000万円を投資していた場合は、資産が約570万円になってしまう計算です。
現状、仮想通貨は比較的新しい投資対象であり、仮想通貨そのものに価値があるかどうかを疑問視する人もいます。また、非常に値動きが激しいため、投資する場合は他の商品よりも慎重な判断が求められます。
このまま貯金を続けて1,000万貯まったらどうするかを考えた際は、あといくらお金が必要になるのかを具体的な金額に落とし込んで計算してみましょう。その結果、老後までに残り◯◯万円を貯めないといけないと判明したら、新たに資産運用を始める必要があるかもしれません。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。