超長寿社会を見据え、資産運用によって老後の生活費を確保することが注目されていますが、「加齢とともに認知能力が低下していく中で、どのように資産を適切に管理してくか」という視点も重要です。これは今、「金融老年学」として注目を浴びています。
金融老年学は、高齢者の資産管理などについて研究する学問です。「人生100年時代」における、認知症などのリスクが高くなる高齢者の財産管理のあるべき姿が研究されています。
老後のための資産を築いたとしても、認知機能が低下すると適切な判断がしにくくなります。お金を計画的に使ったり、資産を効率よく運用したりすることは難しくなるでしょう。そのため今後は、金融老年学の研究成果をもとにした、新たなシニア向けの金融サービスなどが求められることになります。
2019年4月、日本でも「日本金融ジェロントロジー協会」が設立され、法人会員にはメガバンクや地方銀行のほか、大手生命保険会社や証券会社などが名を連ねています。これらの課題に真摯に向き合い、金融老年学に関する知識習得や情報共有などを目的に活動しています。
実際のところ、高齢者にはどのような金融サービスが必要なのでしょうか。その一つが高齢者向けの専門アドバイザー制度です。
日本には、「成年後見制度」があります。病気や事故で判断能力が著しく低下した人の生活や財産を保護・管理するために、後見人がその支援を行うための仕組みです。ただし、後見人は一般的に親族や弁護士、福祉関係者などが務めることが多いため、金融や資産管理に関する知識が乏しいこともあります。
そんなとき高齢者の資産管理に詳しい専門のアドバイザーがいれば、知識不足を補うことができます。実際に日本金融ジェロントロジー協会は、金融老年学に関する検定試験の実施や認定資格の付与に取り組むことを発表しており、今後は「シニア向けフィナンシャルプランナー」が増えていくかもしれません。
このようなアドバイザーは、高齢者の資産管理などに関する多角的な知識と視点を持っている必要があります。生活費はもちろんのこと、将来必要になる介護費用など、加齢が進むにつれて予想されるさまざまなシーンを想定しておかなければなりません。
アドバイザーには顧客(高齢者)だけでなく、その家族に寄り添った対応が求められます。顧客と家族の意向を踏まえて最良の選択をし、それを最良の形で提供する必要があります。
いずれ金融機関の各支店にこのようなアドバイザーが配置されることが予想されますが、地方自治体などにも、このような専門知識を持つ担当者を配置することが求められるようになるでしょう。これは、決して遠い未来の話ではありません。金融老年学の研究が盛んな欧米では、すでにシニア向け金融サービスに力を入れている金融機関もあります。
資産運用が「上手にお金を増やす方法」だとすれば、金融老年学は「上手にお金を切り崩す方法」と言えるかもしれません。老いから逃れられる人は、誰もいません。その意味で金融老年学は万人に必要な学問であり、超長寿時代を前にそのニーズは加速度的に高まっていくでしょう。