相続不動産に関する財産評価をめぐる判決が、業界に波紋を呼びました。取引価格の8割とされる「路線価」を基準にした財産評価に対して、国税庁が「路線価の約4倍が妥当」と主張し、それを裁判所が認めたからです。
不動産評価の算定基準は、路線価です。不動産の課税評価額は実勢価格よりも低いため、長らく不動産投資は節税対策や相続対策に有効とされてきました。しかし評価方法の基準が路線価ではなくなると、不動産投資による節税対策や相続対策が使えなくなります。
今回の裁判の内容は、以下のとおりです。
13億8,700万円で購入した2棟のマンションを所有していた男性が亡くなり、相続人がマンション2棟の評価額を約3億3,000万円として税務申告しました。しかし国税庁はこれを妥当とせず、不動産鑑定の結果から12億7,300万円の価値があるとして、約3億円の追徴課税処分を下しました。
相続人側はこの処分が妥当ではないとして、追徴課税処分の取り消しを求めて裁判所に提訴しました。しかし、東京地裁は国税庁側の主張を認める判決を下しました。
相続人側が控訴したため今後高裁や最高裁での判決が注目されることになりますが、地裁レベルであれ路線価による評価を否定した判決は、不動産オーナーをはじめ不動産業界全体に大きな衝撃を与えました。
そもそも路線価による土地や家屋の評価は、どのような仕組みになっているのでしょうか。相続税や贈与税を計算・申告するときには、まず相続や贈与によって相続人が得た土地や建物を評価する必要があります。
土地の評価方法の一つに、「路線価方式」があります。路線価について国税庁は「路線(道路)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額のこと」と説明した上で、「相続税、贈与税の税額を算定する際の基準となるもの」としています。路線価は、国土交通省土地鑑定委員会が公示する地価公示価格の8割程度です。
財産評価額が8割になるのであれば、財産を現金で保有するよりも不動産に変えておいてほうが節税になることは容易に想像できます。しかし、今回の裁判ではこの評価方法が否定されたのです。
国税庁が今回の主張の根拠としたのが、「財産評価基本通達」における総則の第6項です。
財産評価基本通達では各財産の評価方法などが説明されていますが、第6項では「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」とされており、国税庁はこの条項の適用を主張したわけです。
この条項は、路線価による評価と客観的な評価の乖離が著しい場合に適用できるとされています。今回の裁判では、相続人側は路線価による評価で約3億3,000万円、国税庁側は不動産鑑定により12億7,300万円と評価し、この差が大きな乖離であるとして第6項が適用されたのです。
今後高裁や最高裁でも同じような判決が下されれば、節税対策として注目される不動産投資は大きな岐路に立たされます。
今後不動産投資を考える人は、路線価による評価と不動産鑑定による評価に大きな乖離がある場合は相続税が想定よりも高くなる可能性を加味した上で、不動産の購入を検討する必要があるでしょう。