税金や価格に差が出る「分配金」と「配当金」の違いを解説

投資信託の分配金と株式の配当金は、どちらも保有していると配分されるお金です。それぞれ「課税の対象」「価格への影響」「支払いの原資」が異なるため、これらの違いを知らないと、どのくらい損益に影響をしているのか分からなくなる恐れがあります。

実際に、分配金と配当金の違いは何なのか、詳しく解説していきます。

<この記事で分かる重要なポイント>
①分配金は価格に直接的に影響する
②配当金は価格に間接的に影響する
③分配金は一部非課税になる状況がある

分配金と配当金の大きな違いは「税金」

投資信託で得られる分配金と、株式投資で得られる配当金は税金の仕組みが異なります。

分配金は必ず利益になるものではなく、元本の払い戻しとみなされる特別分配金には税金がかかりません。それ以外の普通分配金は配当所得となり、2037年までは20.315%(※)の税金が課されます。

(※)所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%。

一方で、配当金は支払われる方法に関わらず、その全額が課税対象になります。所得区分や税率については、投資信託の普通分配金と同じです。

なお、源泉徴収ありの特定口座で取引をする場合は、分配金・配当金のいずれも受け取る時点で納税されるため、確定申告の必要はありません。

普通分配金と特別分配金の違いは「税金」

投資信託の分配金には、「普通分配金」と「特別分配金」があります。

普通分配金は、ファンドの運用益から支払われる分配金です。投資家の利益とみなされるため、配当所得として通常の税金がかかります。

一方で、分配金を支払った後の基準価額が個別元本(※)を下回る部分は、特別分配金になります。特別分配金は「元本の払い戻し」とみなされるため、金額に関わらず税金がかかりません。

(※)投資信託を購入したときの基準価額のこと。

分配金は人によって課税対象が違う

同じ投資信託を購入した場合でも、人によって分配金の扱いは異なります。以下の前提条件で、分かりやすい例を紹介しましょう。

<シミュレーションの前提条件>
ファンド購入時の基準価額:7,000円(ケース1)
ファンド購入時の基準価額:9,000円(ケース2)
分配金支払い後の基準価額:8,000円
1口あたりの分配金:1,000円

<ケース1>
基準価額が7,000円のときに購入すると、分配金を支払った後の基準価額(8,000円)が個別元本(7,000円)を下回らないため、受け取った1,000円は普通分配金になります。

<ケース2>
一方で、基準価額が9,000円のときに購入した場合は、分配金支払い後の基準価額(8,000円)が個別元本(9,000円)を下回るので、特別分配金として扱われます。

どちらの分配金として扱われるかは、分配金支払い後の基準価額と個別元本を比較すると計算できます。

配当金と分配金は価格への影響が違う

配当金と分配金は、金融商品の価格への影響にも違いがあります。将来の損益に関わるため、支払われた後の影響は確認しておくことが大切です。なぜ価格への影響が変わるのか、以下で詳しく見ていきましょう。

価格への影響は支払い原資の違いがあるため

配当金と分配金で価格への影響が異なるのは、支払い原資に違いがあるためです。

通常、株式投資の配当金は当期純利益から支払われます。基本的には利益を投資家に還元する形で支払われるため、配当金の支払いで株価が直接減ることはありません。

一方で、投資信託の分配金は純資産総額から支払われます。純資産はファンドの保有資産を時価評価したものなので、分配金が支払われる分だけファンドの規模は縮小します。

なお、「分配金なし」と記載されている投資信託では、運用益が再投資されています。

配当金は株価に対して間接的に影響する

配当金は株価に間接的な影響を与え、投資判断の材料として活用されています。

配当金を出している企業は株主還元に積極的であると評価され、株価上昇の要因になることもあります。ただし、配当金の性質によっては株価の下落要因になる状況もあるので、企業のIR(※)を確認することが大切です。実際の値動きは複数の要因が影響しているため、必ずしも株価が上昇するとは限りません。

(※)企業が投資家に対して、投資判断に必要な情報を提供する活動のこと。

分配金は基準価額に対して直接影響がある

投資信託の価格にあたる基準価額は、「純資産額÷総口数」で計算されます。

純資産額が減ると基準価額も下落するため、分配金は基準価額に直接的な影響を及ぼします。分配金の支払い分は下落することになりますが、運用成績が良い時期と分配金の支払い時期が重なった場合は、基準価額が下がらない可能性も十分に考えられます。

・分配金が基準価額に与える影響を計算

分配金を計算する場合は、まず基準価額について考える必要があります。

ここでは仮に、投資信託の純資産総額を20万円、投資家向けの口数が全部で20口だったとしましょう。この場合、1口あたりの基準価額は、以下の通りです。

<1口あたりの基準価額>
20万円÷20口=1万円

この基準価額1万円のときに投資家が1口を購入して、その後、基準価額が1万2,000円に上がったと想定しましょう。

このとき、投資家が受け取る分配金が3,000円だったとすると、個別元本から収益により増えた分の2,000円部分については課税対象の普通分配金、残りの1,000円部分については非課税の特別分配金として処理されます。

実際の計算は、以下の通りです。

<分配金が基準価額に与える影響>
【1】購入時の基準価額:1万円
【2】購入後の基準価額:1万2,000円
【3】分配金の支払い額:3,000円
【4】その後の基準価額:9,000円
→普通分配金分が基準価額から差し引かれる
【5】分配金の課税金額:406円
→課税対象:普通分配金(税率20.315%)
【6】投資家の保有資産:1万1,594円

上記は信託報酬などのコストや値動きを含めていないため、実際の基準価額は多少異なります。

分配金は受け取るべき?それとも再投資すべき?

投資信託の分配金には、2種類の選択肢があります。分配金をそのまま現金で受け取れる選択肢と、自動的に再投資に回す選択肢です。どちらを選択したら良いのでしょうか。

定期的に現金収入が欲しければ「受け取る」

分配金がたとえ少額であったとしても、定期的に現金で収入を得たいといった人は、分配金を定期的に受け取れる投資信託を選び、「受け取る」という選択肢がよいでしょう。
投資信託の分配金を受け取る時期や回数は運用会社や扱う商品によって異なりますが、たとえば毎月分配型の投資信託の場合、投資を続けながら毎月現金収入を得ることができます。このため、毎月分配型の投資信託は、「生活費を上乗せしたい」「年金の足しにしたい」という人に人気があります。

ただし、前にも述べたように分配金は財源が運用資産であるため、分配金を受け取ると運用する純資産が減少する点には注意が必要です。

分配金を受け取るということは、運用資産の一部を受け取るのと同じ意味となり、基準価額をその分、下げることにつながります。分配金の支払い以上に基準価額が上昇している場合でなければ、基準価額を犠牲にして分配金を受け取っているということに注意しましょう。

長期的運用を検討しているなら「再投資」または分配金を出してきていないファンドを選ぶことも

定期的な現金収入を得ることよりも、中長期的な運用で複利効果を高めたい人はそもそも運用がうまくいっていても、分配金を出していない投資信託を選ぶか、たとえ分配金をファンドが出したとしても受け取らずに「再投資」するとよいでしょう。
ファンドが分配金を出さない場合は売却または解約するまで分配金を受け取ることはできませんが、運用がうまくいっている場合、その分運用資産が増えるため、複利効果が大きくなります。

ファンドが分配金を出した場合であっても、分配金を受け取ったあとに「再投資」することで同じように複利の効果を享受できます。

ただし、分配金を受け取った時点で、その分配金が元本を超過する収益から出ている場合は課税対象となり、税金が差し引かれます。その後、再投資を行ったとしても、分配されない場合よりも運用に回せる金額は少なくなることに注意が必要です。この点は下記で詳しく仕組みをご説明します。

配当金は配当性向を軸に算出できる

株式投資の配当金とは、株式会社が得た利益の中から数パーセントを投資家に配分するものです。あくまで利益の中からのみ捻出されるお金なので、この点は分配金と大きく違います。

企業が利益を上げたとき、どのくらいの金額を配当金に回すかについては、「配当性向」で計算されるのが基本です。配当性向(%)は「(配当金支払総額(予定)÷当期純利益)×100」、または「(1株あたりの年間配当金(予定)÷1株あたりの純利益)×100」で算出されます。企業の配当性向が高いほど投資家への利益還元傾向が強く、低いほど利益を内部にため込む傾向があるといえるでしょう。一般的に、平均的な配当性向は20%から30%です。

また、投資家がどのくらいの配当金をもらえるかについては、「配当利回り」が重要な指標となってきます。配当利回り(%)は「(一株あたりの年間配当金(予定)÷株価)×100」で計算され、数値が高いほど配当が多いことを意味します。

株式投資の配当金の計算例

次に株式投資の配当金について計算してみましょう。まずは想定として、A社が100万円の当期純利益を出し、50万円を内部留保に回し、残り50万円を配当金として株主に配分する状況(配当性向50%)を考えてみます。

この配当金に回された50万円のうち、実際にどのくらいのお金をもらえるかは、基本的に投資家が保有する株式の割合によって決まります。例えば、BさんがA社の株式を10%保有していたら、「50万円×0.1」で5万円の配当金を受け取ることができます。

また、これから株式投資をするという場合、参考にすべき指標が配当利回りです。ここでは銘柄Xの株式が株価3,000円、1株あたりの配当金が60円(予定)である状況を考えてみます。

このとき、配当利回りは、先に紹介した計算式に当てはめると以下の通りです。

・(1株あたりの配当金60円÷株価3,000円)×100=2.0%

Bさんが株式を100株保有している場合であれば、実際に受け取れる配当金は以下のように算出されます。

・(100株×3,000円)×配当利回り2.0%=6,000円

分配金と配当金の計算シミュレーションをみると、両者の違いがよりはっきりとわかります。配当金の場合、企業が配分に充てられるだけの利益を上げていることが大前提です。もし赤字になると、基本的に配当金は望めません。一方、分配金の場合、たとえ資産運用で収益が出ていなくとも、元本払戻金という形で分配金を支払うことが制度的に認められています。

分配金と配当金の違いを理解して運用しよう

投資信託で投資家に短期的に配分されるお金が分配金、株式投資で株主に保有する株式に合わせて配分されるのが配当金です。

分配金は投資信託の純資産の増減によって普通分配金や元本払戻金が支払われ、純資産から直接支払われるという仕組みです。元本払戻金の場合、個別元本から払い戻されるという形で分配金が配分されます。一方、配当金は企業が上げた利益から支払われるので、配当金を受け取っても保有する株式が減少するということはありません。

これから投資を始めるのであれば、まずは分配金、配当金の違いをしっかりと抑えて、自分に合った投資先を選択しましょう。

※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、ファンドの売買や投資を推奨するものではありません。

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