市場規模が700兆円にものぼるとされるフードテックは、人類の課題である食糧問題への貢献が期待されています。今回は、その最前線で何が起こっているのかを詳しく解説します。AIをはじめとした技術の進歩は、私たちの未来にどんな変化をもたらすのでしょうか。
目次
既存の業界にAI・IoT・VR・ビッグデータといった最新テクノロジーを組み合わせ、新しい価値を提供するサービスを総称して「X-Tech(クロステック)」といいます。「金融×テクノロジー」のFinTech(フィンテック)や「教育×テクノロジー」のEdTech(エドテック)などが有名です。
そして今、私たちの生活に欠かせない「食」の領域でも、IT革命が起きつつあります。「食×テクノロジー」のFoodTech(フードテック)によって、私たちの生活はどのように変わるのでしょうか。
2019年8月に開かれたフードテックイベント「スマートキッチン・サミット・ジャパン(SKSJ)2019」では、フードテックの最先端を走るさまざまな商品・サービスが紹介されました。
大手レシピサイトの「クックパッド」は、スマート家電とレシピを連動させてオムライスを作るデモを実施。他にも、自動でクレープを焼く「クレープロボットQ」や、規格外果物(キズや形状により市場に流通しないもの)を特殊冷凍し福利厚生としてオフィスに提供する「HenoHeno(ヘノヘノ)」が注目を集めていました。
同イベントには、ソニーやパナソニックなどの大手家電メーカーや要注目のスタートアップ企業、料理研究家や医学研究者など多種多様な企業・個人が集まりました。専門家によれば、2018年の世界におけるフードテックの投資規模は75億ドル(7,900億円)に達しており、フードテックが今世界から注目されていることがわかります。
フードテックは、人類の課題である食糧不足問題を解決する方法としても期待されています。
その一つに「培養肉」があります。少量の細胞を培養液に浸して増やす培養肉は、今でこそ味や食感・コストの問題で実用化されていませんが、今後研究が進めば当たり前のように培養肉を食べる時代が来る可能性があります。
2019年3月、日清食品ホールディングスと東京大学の生産技術研究所は、サイコロステーキ状のウシ筋組織の作製に成功したと発表しました。今後はヒレステーキのようなより大きな培養肉の作製を目指すそうです。
今、人口は世界的に増加しており、地球規模での食肉消費量は増加する見込みです。その一方で、飼料不足や土地不足によって家畜の生産が追い付かないことが問題視されています。培養肉は、こういった食糧不足問題を一気に解決できる可能性を秘めています。
また、培養肉なら家畜の細胞を取り出すだけで肉を培養でき、家畜を殺す必要がありません。このことは一部のベジタリアンの支持を得ており、いずれは倫理的な観点からも培養肉の実用化が推進されるかもしれません。作製コストが下がれば、飲食店などは一気に培養肉へと切り替える可能性もあります。
AIやIoTを活用した次世代スマート農業も、フードテックの注目分野の一つです。
ルートレック・ネットワークスは、作物や土壌の状態に応じて自動で水やりをしてくれる「ゼロアグリ」を開発しました。手動では困難なきめ細かな水やりで、作物へのストレスを減らします。
ヤンマーは、タブレットで操作できるテクノロジートラクターを開発しました。熟練の技を持っていなくても、土づくりから収穫までの年間作業を素早く正確に行えます。テクノロジートラクターは、農家の後継者不足を解決する方法としても注目されています。
スペイン発のベンチャー企業Natural Machineが開発した「FOODINI(フーディーニー)」は、3Dフードプリンターです。ペースト状の材料をケチャップやマヨネーズのように絞り出しながら、立体的に成形していくことが可能。価格が安くなれば、一般家庭に普及する日もそう遠くないかもしれません。
食事は生活に欠かせないものだからこそ、小さなアイデアが世界的に広がる可能性を秘めています。フードテック分野で画期的な商品・サービスを開発する企業には、要注目です。