テクノロジーの進化による影響は、広告産業にも押し寄せています。「インタラクティブ・デジタルサイネージ(Interactive digital signage)」の登場により、広告が「見るだけ、読むだけ」の受動的なものから、ユーザーの参加や行動を促すインタラクティブ(対話方式)なものへと、変貌しつつあります。
今後5年で市場規模が3兆円以上に拡大すると予想されるデジタルサイネージが、広告の未来のカギを握っていることは、間違いなさそうです。
目次
「デジタルサイネージ」という単語には馴染みがないかもしれませんが、実は私たちの生活の中で非常に身近な存在です。例えば、街や駅、電車の中などで見かける、広告や情報を表示するためのデジタル・ディスプレイ(画面)が、デジタルサイネージです。サイネージとは、記号や標識などを意味します。
そこに、インタラクティブな要素を追加し、通行人やユーザーがエンゲージできるよう進化させたデジタル・ディスプレイを、インタラクティブ・デジタルサイネージといいます。
従来の広告は、ユーザーに興味をもたせ、サービス・商品の購入に誘導するという受動型でした。しかし、インタラクティブ・デジタルサイネージは、ユーザーがモニターに触れたり、センサー付きのカメラでユーザーの動きをキャッチすることで、広告や情報の世界へ引き込む効果があります。
インタラクティブな経験を通し、ユーザーにより深く商品やサービスに興味を抱いてもらえると同時に、ブランドメッセージが伝わりやすくなるため、企業にとっては非常に効果的なプロモーション戦略です。
実際、デジタルサイネージ関連サービス企業のブロードサイン(Broadsign)が2016年に実施した世論調査によると、マーケティング担当者の81%が、「インタラクティブなコンテンツは、従来の受動的なメディアよりプロモーション効果が高い」と回答しました。
デジタルサイネージの需要は、広告業や小売業に限らず、ホスピタリティやガイダンス、経路探索、エンターテイメントなど、公共および商業スペースにおいて広範囲に拡大しています 。
インタラクティブ・デジタルサイネージの成功例を、いくつか挙げてみましょう。
オーストリアのラグジュアリー・クリスタルメーカー、スワロフスキーのインタラクティブ・デジタルサイネージを使ったショッピングモールでのキャンペーンは、多数の通行人に、スワロフスキーというブランド名を認識させることに成功しました。このキャンペーンでは、対象物の動きを追跡するモーショントラッキングとジェスチャー認識技術を利用し、通行人がゲームを楽しみながら、スワロフスキーの商品に親しめるというものです。
Google Playは、ユーザーがNFC またはQRコードをスキャンするだけで、キャンぺーンに参加しているメディアに直接アクセスできる、インタラクティブ・デジタルサイネージを空港に設置しました。
その他、マクドナルドやバーガーキングなど、ファストフード店のデジタルメニューボードも、インタラクティブ・デジタルサイネージの成功例です。
商業用デジタルスクリーンの増加、4Kや8Kといったディスプレイ製品の画質の向上、新興国のインフラ開発などが追い風となり、デジタルサイネージ市場は、今後も急速な成長を続けると予想されています。
米市場調査企業マーケッツアンドマーケッツは、デジタルサイネージ市場が2019~2024年にわたりCAGR(年平均成長率)7.3%で成長し、2019年に208億米ドル(約2兆2,572億円)、2024年までに296億米ドル(約3兆2,121億円)に達すると見込んでいます。
テクノロジーのさらなる発展や需要の拡大とともに、インタラクティブ・デジタルサイネージもますます進化するものと予想されます。
例えば、AI(人工知能)がユーザーと対話したり、ユーザー層や地理的条件、気候、イベントなどに合わせた商品やサービスを、自動的に判断して紹介するデジタルサイネージが、街中で利用可能になるかもしれません。
また、よりパーソナルな利用に焦点を当て、ユーザーの好みや生活スタイルにカスタマイズ可能な、自宅用インタラクティブ・デジタルサイネージが登場しても、不思議ではありません。
インタラクティブ・デジタルサイネージは、「自動化」「パーソナライズ」「体験型」など、広告の未来のキーワードをすべて備えた、第4次産業革命時代の広告といえるのではないでしょうか。