『60過ぎたらコンパクトに暮らす モノ・コトすべてを大より小に、重より軽に』より一部抜粋
(本記事は、藤野 嘉子氏の著書『60過ぎたらコンパクトに暮らす モノ・コトすべてを大より小に、重より軽に』=講談社、2020年8月28日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
『60過ぎたらコンパクトに暮らす モノ・コトすべてを大より小に、重より軽に』
ランニングを始めたのは、4年くらい前、60歳を目前にしたころでした。少しずつ走る距離を伸ばしていき、フルマラソンにも出場。ランニング仲間もできて、充実したランニングライフを送っていたのですが、夫が体調を崩したこともあり、ここ半年ほどは走っていませんでした。
そろそろ再開しようと走り始めて、今日は3㎞、次の日は5㎞、そして休んで、みたいにボチボチやっていたのですが、なかなか10㎞走れるようになりません。走っていると急に心臓がバクバクしてきて走れなくなってしまったりして。
どうしたんだろうと思っているうちに、不意にあることを思い出しました。1年ほど前のある日、自分でもわかるくらい体力がガクッと落ちたことを感じたのです。これはなんだろう? と不思議に思うような感覚でした。
そのあと走れない日が続き、すっかり忘れていたのですが、自分なりに解釈したのは、私のからだがその瞬間、 60代を自覚したのではないか、ということです。もう50代のときと同じことはできないと。
ランニングを再開したとき、私の記憶にあるのは50代の自分でした。そのつもりで走ろうとするから、なかなかからだが反応しない。気力だけではどうにもならないことをからだが教えてくれました。
ランニング以外のスポーツをやることも考えました。だけどヨガはそれほど得意ではないですし、ジムに通うのもあまり気乗りしません。
ランニングは、つらいときもありますが、やっぱり私に合っています。やりたいときにサッと始められる気軽さもいい。旅ランといって、どこかへ行って景色を眺めながらゆっくり走るのもやってみたい。
これからは、60代のからだからスタートして、楽しくコツコツやっていけばいい。
前はもっと走れたのに、と過去の自分と比べて落ち込むのではなく、未来の自分に挑戦するような気分で続けていこうと思います。
そこで、ランニング用の時計を夫に買ってもらいました。ひとつはランニングへのモチベーションを高めるため。そしてもうひとつは、自分の体調をチェックするため。
心拍計がついているので、高いとすぐに休むこともできますし、あとでデータを見直して、どれくらいのペースで走ると、心拍数がどうなるか、と自分の走りを確認することができます。
60代のからだと相談しながらゆっくり短い距離から始めて、また、マラソンを完走できるからだを作っていきます。フルマラソンを完走したときの、あのなんとも言えないよろこびをまた味わいたいです。
50代のときとは違う味わいのよろこびかもしれません。
ランニング用の腕時計は、夫がクリスマスプレゼントとして買ってくれました。ランニングで使いたい、欲しい、と思っていたのですがなかなか決断できずに「買おうかな」「どうしよう」と迷っていたら、夫が「プレゼントしてあげるよ」と言ってくれたのです。
体調を崩した時期もあって感謝の意味もあったのかもしれません。買ってもらったのは、GPS機能がついたガーミンというメーカーのランニング用ウォッチです。ストップウォッチ機能だけでなく、距離やペース、心拍数も表示してくれて、とても走りやすくなりました。
それなら私からも、と夫に欲しいものを聞いたら、歩きやすいシューズがいいということで、夫が見つけてきた広島のスピングルというメーカーのものをプレゼントしました。今、膝を少し悪くしているのですが、ソールに天然ゴムを使っていてとても歩きやすいそうです。気に入って1日おきにはいています。
これまでは、欲しいものがあればそれぞれが自分で買っていたのに、思わぬタイミングで初めてのプレゼント交換です。
自分で選んで、買うならこれ、と決めていた時計ですが、わざわざ買う必要があるのかと、ずっと自問自答していました。いつもきっかけをつかむのにひと苦労するのです。だからとてもありがたい申し出でした。
お互い、あればうれしいけれど、必需品というほどでもないものをプレゼントできました。とてもいいプレゼント交換でした。
毎月1回くらいの頻度で、女子会をする仲間ができました。もともとは一緒にランニングをする仲間です。くだらない話でワイワイと盛り上がって、走り終わったら解散。お互い、仕事のことも家族のこともよく知らないまま仲良くなりましたから、とてもさっぱりとした関係です。
少しずつ打ち解けて、少し深い話もするようになったりして、これからもずっとつながっていたいと思うようになったところで、女子会をするようになりました。年齢は、40代、50代で、私より少し若い人たちです。
ときには、それぞれの得意分野を披露し合うこともあって、マッサージをしてもらったり、片付け方をアドバイスしてもらったり。私はもちろん、みんなのために料理を作ります。
人のお家で料理を作るなんて、なかなかない経験です。自分がいつも使う道具がない場所で、家族に作るような料理を、仲間に食べてもらう。「どうやって作るの?」と聞かれて説明したりして、とても和気あいあいとしています。
仕事が忙しくて、あるいは体調が悪くて参加できない人がいても「また、来れるときにどうぞ」という関係だから、とても心地いいのです。
お互い背負っているものが見えるお付き合いは、ときに苦しくなります。仕事のこと、夫婦のことや子どものこと、あるいは介護問題などを語り始めると、誰しも愚痴っぽくなることがありますから。今、こういうライトなお付き合いができる仲間がいることにとても感謝しています。
藤野嘉子(ふじの・よしこ)
学習院女子高等科卒業後、料理家に師事。フリーとなり雑誌、テレビ(NHK「きょうの料理」)、講習会などで料理の指導をする。「誰でも簡単に、家庭で手軽に作れる料理」「自然体で心和む料理」を数多く紹介し、その温かな人柄にファンも多い。
著書に『女の子の好きなお弁当』(文化出版局)、『料理の基本 おいしい和食』(永岡書店)、『一汁一菜でいい!楽シニアごはん』『がんばらなくていい!楽シニアの作りおき』『生き方がラクになる60歳からは「小さくする」暮らし』(以上、講談社)など多数。
夫はフレンチレストラン「カストール&ラボラトリー」のシェフ、藤野賢治氏。