早期リタイアに憧れる方は少なくありません。「自分は何歳まで働けば良いのか」「退職金をもらって若くして悠々自適に暮らすことはできないものか」と考えたことがある方も多いのではないでしょうか。
早期リタイアをすると働かない期間が長くなります。退職金の取り崩しだけで生活を維持するのは難しいと言えます。まずは、退職金の目安を確認しながら、足りない分のお金をどのように備えれば良いのかを解説していきます。
目次
自分が将来受け取る退職金の額が全く見当もつかない、という会社員の方は少なくありません。実際に辞めていく上司や先輩から退職金の額を聞ける機会は少ないでしょう。まずは、統計的な数字で退職金の金額を確認します。
中央労働委員会の賃金事情等総合調査によると、令和元年の大学卒、事務・技術労働者、総合職相当の方の自己都合退職の場合の退職金は、下記の通りになっています。退職金は勤続年数が短い方でも受け取れる傾向があります。
(大学卒、事務・技術労働者、総合職相当の方の自己都合退職の場合の退職金)
勤続3年、32万8,000円、月収換算1.3ヵ月分
勤続5年、63万4,000円、月収換算2.3ヵ月分
勤続10年、186万1,000円、月収換算5.3ヵ月分
勤続15年、407万6,000円、月収換算9.5ヵ月分
勤続20年、801万8,000円、月収換算15.9ヵ月分
勤続25年、1,287万円、月収換算22.5ヵ月分
勤続30年、1,898万3,000円、月収換算30.8ヵ月分
勤続35年、2,368万3,000円、月収換算37.7ヵ月分
勤続38年、2,659万7,000円、月収換算41.6ヵ月分
この数字を見て分かる通り、勤続年数が長くなるほど、退職金の額が大きくなっています。早期リタイアをするにしても、数百万円の退職金ではすぐに資金が底をついてしまうことでしょう。早期に退職をすることで、定年退職者と比較して受け取る退職金の額が少なくなってしまうことを念頭に置きましょう。
退職金の制度にはさまざまなものがあります。中には退職金制度がない企業もあるので、勤務先の制度を確認しておきましょう。
退職金の制度は、大きく分けて会社の資産から払い出す退職一時金制度と、会社の外に資金を積み立てる企業年金制度に分かれます。
退職一時金制度を採用している企業の場合、最も気にしなければならないことが勤め先の倒産です。債権者に会社の資産が差し押さえられてしまった場合、退職金が十分に支払われないケースが想定されます。
一方、確定給付企業年金制度、確定拠出年金制度、中小企業退職金共済制度などを採用している会社に勤めている方は安心です。これらは、外部積立型の退職金制度です。万が一勤め先が倒産しても、債権者に没収されてしまうものではありません。
早期退職には自己都合退職と会社都合退職の2種類があります。
基本的には言葉通りの理解で問題ありません。自己都合退職とは、転職、結婚、介護、病気などの自分の意思もしくはプライベートな事情により退職することです。会社都合退職は、業績不振による整理解雇などがあげられます。
中央労働委員会の賃金事情等総合調査のデータでは、2018年度(平成30年度)における自己都合の方の退職金は平均値で414万4,000円となっていますが、会社都合の方の退職金は平均値で1,300万2,000円となっています。業績改善のための整理解雇の場合、退職金が割増になることがあるので、これだけの金額の違いが生じているのだと推測できます。
退職金の額を知る方法は簡単です。企業によっては、定期的に確定給付企業年金や確定拠出年金の積立額を従業員に知らせている場合があります。
また、人事部に問い合わせをすれば、通常は退職金の額を教えてくれます。外部積立の退職金の場合、個人に紐づけて外部の金融機関が金額を管理しているので、迅速に回答がもらえます。
また、退職金の金額の決定方法には、勤続年数や年齢で決める定額方式や、勤続年数と能力や貢献度に基づくポイント制などがあります。将来の退職金の額を試算する際には勤め先のルールを知っておく必要があります。
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ここまでの情報だけを見ても、早期リタイア後に退職金だけをあてにして生活するのは難しいことが分かります。では、具体的にどれだけの資産があれば早期リタイアを実現できるのでしょうか。
まず、早期リタイアを目指す年齢を定める必要があります。ここでは、どこに住むのか、何をして過ごすのか、家族構成は、という観点で考えましょう。そして、早期リタイアの年齢を定めたら、その年齢における平均余命を見てみましょう。
例えば、早期退職の年齢を50歳と定めたとします。
その場合の平均余命は、厚生労働省「令和元年簡易生命表の概況」によると、男性で33年(83歳)、女性で39年(89歳)となります(1年未満切り上げ)。
早期リタイア後に最低限必要な資金は、リタイア後に生きる年数に生活費をかけたものから、退職金と将来の老齢年金の受け取り総額を引くことで簡易的に計算できます。実際に計算をする際には、今の生活費を参考にしながら、理想の暮らしの生活費を試算してみましょう。
生命保険文化センターによると、老齢夫婦のゆとりある生活費は 平均36万1,000円とされています(「老後の生活費はいくらくらい必要と考える?」より)。ここでは計算の例として月36万1,000円を元に平均余命から生活費を算出してみます。
・男性が50歳で早期退職した場合
36万1,000円×12ヶ月×33年=1億4,295万6,000円
・女性が50歳で早期退職した場合
36万1,000円×12ヶ月×39年=1億6,984万8,000円
特別な支出が発生した場合、この試算よりも支出額が大きくなる可能性は十分にあります。
また、この計算はあくまでも概算なので、ご自身の支出の習慣や予定を鑑みて同様の計算をする必要があります。
次に50歳時点で受け取る退職金の額と65歳から受け取れる老齢年金の額を計算します。退職金は勤務先の制度に準じて試算します。
老齢年金には、老齢基礎年金と老齢厚生年金があります。早期リタイア後も国民年金保険料は納付する義務があるので、老齢基礎年金は満額である約78万円で計算します。一方、老齢厚生年金は50歳までの納付期間を元に65歳から受け取れる額を計算します。iDeCoなどの私的年金の金額も積み立て額を元に受け取り額を試算しましょう。
例えば、退職金が2,000万円の場合、50歳〜65歳までの間をこの資金と貯蓄で過ごす必要があります。65歳から年金の受取が始まりますが、老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計額が150万円となった場合、65歳から83歳まで(男性の平均余命のケース)の18年間で受け取れる公的年金額は2,700万円となります。
もしiDeCoで1,000万円程度の資産を築けていたとしたら、65歳〜83歳の年金資産は2,700 万円+1,000万円で3,700万円という考え方になります。
退職金の2,000万円、年金資産の3,700万円を全て足しても、5,700万円にしかなりません。。
先述した「男性が50歳で早期退職した場合」のゆとりある生活費の合計額1億4,295万6,000円を例にして計算すると、男性の場合は「1億4,295万6,000円-5,700万円=8,595万6,000円」が不足するということになります。
退職金と年金だけでは生活費が不足するため、別途これだけの大きな金額の資産を築いておく必要があるということです。さもなければ、早期リタイアによって生活を切り詰めなければならなくなります。
さらに、余命はコントロールできないので、長生きの可能性も考えて資産は余裕をもって計画するようにしましょう。
早期リタイアまでに、現金で全ての老後資金を貯める必要はありません。不労所得を生み出す資産を持つことで、年金以外の退職後の収入になります。
不労所得を生み出す資産として代表的なものが、株式と不動産です。この2つの共通点は、資産が自分の変わりに働いてくれるというところです。自分が働かなくても収入を得られるという特徴があります。
株式は投資した企業の業績が良ければ配当金が期待できます。例えば、年間で税引き後3%の配当利回りの株式を1,000万円分保有していれば、年間30万円の手取り収入が得られます。現役の時から配当が高い株に少しずつ投資をしていくことが大切です。
不動産は、家賃収入から諸経費を引いた分が手取りの収入になります。不動産は株式と比較すると高額にはなりますが、借り入れによって物件を購入することができます。そして、借主の家賃を元にローン返済を進めていくことができます。早期リタイアの目標年齢までに、ローンの返済が終了した物件を保有していれば、家賃収入はかなりの生活の助けになるでしょう。
しかし、株式や不動産に投資をする際には、リスクをよく把握する必要があります。株であれば、過去にどれだけ値下がりしたことがあるのか、不動産の空室リスクはどの程度見込んだら良いのかなどです。投資によって資産が目減りしてしまっては、早期リタイアの夢が遠のいてしまいます。
早期リタイアに漠然と憧れを抱いていても、実現できません。退職後に必要な資金と、退職金や年金の額を確認し、不労所得を生み出す資産を築いていくことが大切です。一方で、先述のデータの通り、長く働いた方が退職金を多く受け取れることも事実です。
また、厚生年金は長い期間納めると受給額が増える仕組みになっています。必ずしも退職だけが自己実現の道ではありません。ワークライフバランスを考え、働きながら自由な時間を得るという選択肢も考えてみましょう。