文部科学省の発表では、大学、短大、専門学校などの高等教育機関進学率は毎年上昇を続け、2016年以降は80%を超えています。2019年の進学率は過去最高の82.8%でした。しかし大学進学は、学費の他に遠方の大学に行く場合は家賃や生活費など大きなお金が必要となり、家計にも影響を与えるものです。大学の学費を奨学金でまかなっている人は多いようです。今回は、奨学金の仕組みやお得な返済方法などを解説します。
目次
奨学金とは
奨学金とは、経済的な理由で進学困難な学生に対して、資金提供をする制度です。大学、短大、専門学校、地方自治体や民間団体など、全国で5,000を超える団体が奨学金制度を設けています。
大学進学時が教育費のピーク
大学における1年間の学費平均額は、国公立大学で約54万円、私立大学は文化系学部で約100万円、理科系学部で約130万円、医歯系学部では約380万円にものぼります。
奨学金利用者の割合
日本学生支援機構の調べ(2018年度)によると、何らかの奨学金を受給している大学生(学部)は47.5%です。修士課程で48.0%、博士課程では53.5%となっており、大学院進学を機に申請するケースもあるようです。
奨学金の種類
奨学金には、返済不要な「給付型」と卒業後に返済が始まる「貸与型」があり、世帯収入や本人の学業成績などそれぞれに受給条件が設定されています。
奨学金を借りている人の70.3%が利用している「日本学生支援機構」の制度を紹介します。
給付型
2020年4月に始まった新制度では、対象者に「給付型奨学金の支給」と「授業料等の減免」を行い、実質無償化を図ります。住民税非課税世帯(目安:世帯年収270万円以下・4人家族の場合)に対する満額給付を上限として、それに準ずる世帯に対しても2/3、1/3を給付します。
収入基準だけでなく、学修状況や学習意欲についても厳しい条件が設けられています。
貸与型
高校3年時に申し込む「予約採用」と、進学後に申し込む「在学採用」があります。
通常は申請時期や貸与始期が決まっていますが、保護者の失職や病気・死亡、災害等で家計の急変があった場合は「緊急採用・応急採用」として、いつでも申請することができます。
-第一種奨学金(無利子)
第一種奨学金 | |
学力基準 | 次の①②いずれかに該当し、進学後も優れた成績を修める見込みがある人 ①高等学校等における全履修科目の評定平均値が3.5以上 ②住民税非課税世帯、生活保護受給世帯、児童養護施設在籍者等社会的養護を必要とする人で、大学進学意欲のある人 |
家計基準 | 次の①②いずれかに該当 ①世帯年収目安(4人家族の場合):給与所得747万円以下・給与所得以外:349万円以下 ②学力基準②に同じ |
利子が無い分、学力基準と家計基準が厳しめです。
月2万円から借りることができ、学校種別や通学形態によって貸与月額上限が決められています。また、最高月額を借りる際には、さらに厳しい家計基準が設けられています。
-第二種奨学金(有利子)
第二種奨学金 | |
学力基準 | 次の①~④のいずれかに該当すること ①高等学校等における成績が平均水準以上であること ②特定の分野で特に優れた資質能力を有すること ③学習意欲があり学業を確実に修了できる見込みがあること ④高等学校卒業程度認定合格者で①~③のいずれかに該当すること |
家計基準 | 世帯年収目安(4人家族の場合):給与所得1,100万円以下・給与所得以外:692万円以下 |
返済時に年3%(上限)の利子がつきます。学力基準が緩和されているため、家計基準に該当すれば採用の可能性が高い奨学金です。
貸与月額は2万~12万円の間で、1万円単位で選択できます。学校種別や通学形態による違いはありません。私立大学の薬学・獣医学課程に通っている場合は2万円、医学・歯学課程では4万円を上乗せできます。
-第一種奨学金と第二種奨学金の併用
第一種奨学金と第二種奨学金の併用 | |
学力基準 | 第一種奨学金に準ずる |
家計基準 | 生計維持者(父母)の年収目安:給与所得686万円以下・給与所得以外:306万円以下(4人家族の場合) |
第一種と第二種、双方の採用基準を満たしていることが前提で、家計基準は「第一種奨学金の最高月額基準」と同等です。
また、日本学生支援機構では、別の団体が実施する奨学金制度との併用に制限がありません。そのため、他方で併用が許可されている場合は、両方からの受給が可能です。
-入学時特別増額貸与奨学金
入学時特別増額貸与奨学金 | |
学力基準 | 併せて貸与を受ける奨学金基準に準ずる |
家計基準 | 次の①②のいずれかに該当すること ①認定所得金額が0円以下であること ②「国の教育ローン」を、低所得を理由に利用できなかった世帯 |
第一種、あるいは第二種奨学金に増額して受け取る一時金で、入学時にしか申請できません。
貸与額は10万~50万円までの間で、10万円単位で選択できます。入学時諸費用負担のためという名目ですが、受給タイミングは入学後です。
教育ローン
入学手続きでは、「入学金・前期分学費・施設利用料など」を一括で支払います。しかし、奨学金の貸与始期は、入学後から始まります。そのため、入学前に借りられる教育ローンを利用、併用する人も少なくありません。
-奨学金と教育ローンの違い
奨学金 (第二種奨学金の場合) | 教育ローン | |
学生本人 | 借主 | 保護者 |
毎月定額 | 貸与方法 | 一括 |
上限3%(固定金利 ) | 利子 | 金融機関による |
卒業後 | 利子計算始期 | 借りた翌日から |
卒業後 | 返済開始 | 借りた翌月から |
教育ローンには、「国の教育ローン」と「民間金融機関の教育ローン」があります。
国の教育ローンは、「教育の機会均等」を目的に行っているため、奨学金同様に収入基準を「下回る世帯」が対象となっています。
民間金融機関の教育ローンは、返済能力を有していることが前提なため、独自の収入基準を「上回る世帯」が対象です。
奨学金の落とし穴 返すのは保護者ではなく学生
奨学金は、親の借金ではありません。学生本人が、自分の学費を借りるための制度です。
返済が滞ってしまうと、延滞金が課せられます。また、本人だけでなく保証人・連帯保証人に返済催促などの連絡がいくことになります。延滞が3ヵ月以上続く場合は、個人信用情報機関に個人情報が記載され、今後クレジットカードやローンを申し込む際に影響を及ぼす可能性があります。
返済が始まるのは、いつから?
返済は、卒業後7ヵ月目から始まります。貸与終了年度に返済のための手続きを行います。
-定額返還
奨学金総額によって、返済月額と年数が決められます。第二種奨学金では、定額返還のみです。
-所得連動返還
収入に応じて、返済金額が増減する制度です。収入が低い場合は、返済月額が2,000円まで下がりますが、その分返済期間は長くなります。また、別途「機関保証料」が毎月徴収されます。
第一種奨学金は、「定額返還」と「所得連動返還」から選ぶことができます。
長期間返済し続けるために 返済シミュレーション
返済期間は、最長20年です。当然ながら、借りた金額が多いほど返済額は大きく、長期間におよびます。
【例1】月2万円を2年間借りた場合
2万円×24ヵ月×利率3.0%=総額 55万5,329円
55万5,329円÷108回(9年)=返済月額 5,141円
【例2】月12万円を4年間借りた場合
12万円×48ヵ月×利率3.0%=総額 775万1,445円
775万1,445円÷240回(20年)=返済月額 3万2,297円
「借りたら返す」お金であることを念頭におき、最低限の貸与にとどめておくことが重要です。
日本学生支援機構の公式サイトには「奨学金貸与・返還シミュレーション」があります。返済計画作りに役立てましょう。
奨学金返済の負担を軽減する方法
借りた奨学金の元金を減らす方法はありません。しかし、利子の負担を軽減することは可能です。また、返済が厳しくなったときの救済制度についてもご紹介しましょう。
繰上返済(一部繰上・全額繰上)
奨学金はいつでも繰上返済ができ、任意の月数分・金額、または残額全てを指定できます。繰上返済をすると返済期間が短くなり、その分の「利子」を節約することができます。特別な手数料は不要です。
学資保険満期金や祝い金、あるいは働き始めてからのボーナスなど、まとまった資金ができたときには一部でも繰上返済すると、あとが楽になります。
別の奨学金制度を利用する
まだ在学中、あるいはこれから奨学金を検討している場合は、他の奨学金制度の利用を視野にいれておくことをおすすめします。
大学や民間団体では、学業優秀者に対して給付型の奨学金を出しているところがあります。条件は奨学金によって異なりますが、学年1名という厳しいものから、基準達成者全員が対象といったものまでさまざまです。
給付型の奨学金をもらえたら、その分日本学生支援機構の奨学金を減額、あるいは辞退すると、将来の返済額を大きく減らすことができます。学業向上のモチベーションとしても、目指す価値があるのではないでしょうか。
返済が苦しいときの救済制度
日本学生支援機構では、救済制度も整っています。審査がありますが、返済が困難なときは相談してみるといいでしょう。
-減額返還
返済月額を1/2もしくは1/3に減らす制度です。月々の負担額を減らした分、返済期間は延長されます。最長15年まで適用可能です。ただし、第一種奨学金を「所得連動返還方式」で返している場合は利用できません。
-返還期限猶予
一定期間の返済を停止して、返済期限を先送りする制度です。適用期間は、最長10年です。
-在学猶予
奨学金貸与が終了後も在学する場合に、返済期限を先送りする制度です。1回の申請で「卒業予定期」まで猶予され、卒業後7ヵ月目から返済開始となります。適用期間は、最長10年間です。
-返還免除
死亡、または精神・身体の障害により就労不能と診断された場合は、返済が免除されます。
辛くても金融機関からお金を借りて返済するのは危険
奨学金は、親ではなく学生自身が申込みを行うものです。家族でしっかりと話し合い、理解と自覚を持つことが大切です。
もし、返済が厳しい状況でも、目の前の返済額を得るために金融機関でお金を借りるという方法は、大変危険です。繰上返済や救済制度などを利用して、無理のない返済を目指しましょう。