8月に注目すべき5つのこと

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目次

①米国の財政刺激策の進展、②世界の新型ウイルスの感染状況、③米中間の緊張の高まり、④米ドル動向、⑤民主党の副大統領候補の選出

〔要旨〕

●大統領令の発動と好調な雇用統計を受け、財政刺激策の合意形成がさらに遅れる可能性
●米中関係の緊張が高まるものの、米企業の中国での業績推移は堅調
●民主党の副大統領候補の選出が金融市場で話題となるだろう

1. 米国の財政刺激策の進展状況

①予想を上回る雇用統計、②新型ウイルスの経済対策の大統領令発動—で、米上院議会の審議が遅れる可能性が浮上

2. 新型コロナウイルス感染状況

新学期の開始により、ウイルスの再拡大が懸念される

3. 米中関係の緊張

トランプ大統領が中国アプリのTikTokの米国事業の強制売却を要求
米国の多くのグローバル企業は、決算で堅調な中国事業を報告

4. 米ドルの動向

格付け会社が米国債の格付け見通しを「弱含み」に引き下げ

5. 民主党バイデン氏による副大統領候補の選出

副大統領候補の選出が金融市場へ与える影響は軽微だろう

現在、北半球は盛夏を迎えていますが、あまりの暑さを不快と感じる人が数多くいらしゃるでしょう。本稿では、盛夏を過ぎ、金融市場全体に影響を与えると予想される5つの問題を取り上げます。

1. 米国の財政刺激策の進展状況

①予想を上回る雇用統計、②新型ウイルスの経済対策の大統領令発動—で、米上院議会の審議が遅れる可能性が浮上

財政刺激策が議会を通過することは緊迫した問題だと私は考えています。しかし、過去数日間の状況を考えると、議会が迅速に行動する可能性は低くなっているようです。

第一に、7月の米雇用統計では非農業部門就業者数が180万人増加と、市場予想を上回る結果となりました 1 。第二に、議会審議が膠着状態にある中、8月8日にトランプ大統領は、新型コロナウイルス対策を大統領令で発動し、署名しました 2 。以下がその内容です。

⚫︎財政刺激策第4弾の重要項目の1つで、民主党と共和党の争点となっていた失業給付の延長。民主党は週600米ドルの給付を維持したいと考えていますが、共和党は週200米ドルへの減額を求めています。今回の大統領令により、給付額は週600米ドルから400米ドルに減少し、うち100米ドルは州の負担となります。

⚫︎学生ローンの返済の猶予

⚫︎給与税の納税を2020年末まで猶予。企業は年収10万米ドル未満の従業員に対する給与税徴収の免除が認められます。これにより、従業員は給与税分の金額を手元に残すことができます(ただし、この金額が従業員に手渡されることは保証されていません)。ただし、(猶予が恒久的にならない限り)企業は2021年初からは、猶予された金額を増額して従業員から徴収することになります。また、社会保障やメディケア基金は給与税を主な税源としていますが、給与税の納税猶予によりこれらの財源が減少するため、社会保障とメディケアにおける別の問題を深刻化させる可能性があります。

⚫︎住宅の強制立ち退きの一部停止。「経済が安定するまで」住宅の強制立ち退きを阻止するべく、政府が住宅所有者と賃借人を支援します。これは歓迎されるものではありますが、内容はむしろ曖昧です。

言うまでもなく、これらの大統領令のいくつかは、議会が持つ歳出の決定権を侵害しており、裁判所へ直ちに異議が申し立てられると予想されます。議会での審議は続くものの、大統領令と予想を上回る7月の雇用統計の結果、共和党が民主党との妥協点を見いだす緊急性は低くなったと思います。

インフレと財政赤字拡大への懸念から、金の上昇と米ドルの下落が続くと予想

最終的には、議会は財政刺激策の合意に達すると予想しており、これは株式市場のプラス要因となるでしょう。また、インフレと財政赤字の拡大に対する懸念も高まるかもしれません。その結果、金価格はさらに上昇し、米ドルはさらに下落する可能性が高いと私は考えています。

2. 新型コロナウイルス感染状況

新学期の開始により、ウイルスの再拡大を懸念

米国の新型ウイルスの感染状況を見てみましょう。数週間前にウイルスの急速な拡大が見られたフロリダ、アリゾナおよび他の州では、状況は改善しているようです。一方、中西部では感染が急拡大している州もあります。また、新学期が始まり、子どもたちが学校に戻ると、全州で再び感染が拡大するのではないかと懸念されます。今後の状況を注視したいと考えています。

ウイルス感染が再拡大した場合、長期成長株とディフェンシブ株がアウトパフォームすると予想

また、南アフリカ、インド、ブラジルなどの国々の感染状況も気がかりです。世界保健機関(WHO)の緊急事態対応の責任者であるマイク・ライアン氏は、南アフリカの新型ウイルスの感染者の急増は、他のアフリカ諸国に感染が拡大する恐れがあるとして警告しました。オーストラリアやフィリピンなどの国々では感染拡大地域の封鎖措置を迅速に行っていますが、私は、医療制度や施設が不足したり、ウイルス対策が十分ではない国々の状況を懸念しています。英国の哲学者ラッセルは「人類を罪から救う唯一の方法は協力である」と語りました。今日、ウイルス根絶のために協力が必要なことは明らかですが、それは米国のような国では難しい目標であるようにみえます。ウイルスが抑制できなければ、金価格の上昇が続き、米ドル安が続くと予想しています。米連邦準備理事会(FRB)の非常に緩和的な金融政策は米国の株式市場を下支えするはずですが、ウイルスの抑制に成功しなければ、長期成長株とディフェンシブ株が景気循環株をアウトパフォームすると考えています。

3. 米中関係の緊張

トランプ大統領は中国企業が運営するTikTokの米国事業の強制売却を要求

私は以前より、2020年11月の米国大統領選挙が近づくにつれ、米国と中国で緊張が高まる恐れがあると警告していました。事実、状況は週を追うごとに悪化しているようです。前週、トランプ大統領は、中国の企業が運営している、米国で非常に人気のあるビデオアプリTikTokの米国事業の強制売却に関する大統領令への署名を発表しました。中国の米国への対応は抑制されていますが、それがいつまで続くかは分かりません。

米国の多くのグローバル企業は、決算で堅調な中国事業を報告

一方で、中国の消費者が米中間の緊張により米国企業を排除していないようにみえることは、好ましい状況です。ここ数週間の米国企業の決算発表から、多くのグローバル企業の中国事業は良好であったことが明らかになりました。ある高級品メーカーは、低迷している自社事業において、中国は唯一の例外だと述べており、別の会社の最高経営責任者(CEO)は、中国は「回復、安定、そして成長のモデル」を提供すると語りました 3 。新型ウイルスの感染拡大の抑えこみに成功した中国は、経済も順調に回復しており、グローバル企業はその恩恵を受けています。この状況が続くことを望みます。

米国が中国以外の国を標的にする可能性

一方、米国は、中国以外の国々との間の緊張を高めようとするかもしれません。大統領選の年に「貿易の公平性」を主張することは政治的に好都合である中、米国は中国を怒らせたくないことを理由に、中国以外の国、特にドイツをその攻撃の対象とするかもしれません。

最近の中国株は好ましい投資機会を提供

また、私は、ウイルスを抑えこむ中国の能力とその経済見通しの改善を考えると、最近の中国株の弱さは、好ましい投資機会となっていると考えています。

4. 米ドルの動向

米ドルの軟調が続く

米ドルは2020年3月に高値を付けた後、10%近く下落し、弱含む状況が続いています 4 。米国で財政赤字の拡大と新型ウイルスの感染拡大が続く中、米ドルの下落はここ数週間で加速しています。

米国のウイルス拡大抑制の失敗も米ドル安を誘引

新型ウイルスの世界的な感染拡大の初期段階では、中国と欧州の状況が最も悪化したため、投資家は米国債などの「安全な逃避資産」に資金を集中させ、米ドル高の要因となりました。その後、アジアと欧州はウイルス拡大を抑制しましたが、米国はそうではありませんでした。その結果、米国経済の長期見通しについて懸念が高まり、米ドルは下落しています。

米国の財政状況の悪化から、米格付け会社は米国債の格付け見通しを「弱含み」に引き下げ

また、FRBの大規模な金融緩和策も、米ドルを押し下げる要因となっています。さらに、米ドルが世界随一の準備通貨としての特権を維持する能力に対する懸念が高まったことも、さらなる米ドル安の要因となったと考えられます。米国の巨額の財政赤字も米ドルに下落圧力をかけています。10日ほど前、格付け会社のフィッチは、米国債の格付けをトリプルAに据え置いたものの、米国の財政状況の悪化からその見通しを「安定」から「弱含み」に引き下げました。

米ドル安は米企業の価格競争力を強める

一方で、明るい見通しも存在します。米ドル安で価格競争力が増すため、米国外で収益を得ている米国企業にとって、米ドル安が続くことは好ましい状況です。そしてこれが、米国株にプラスの効果をもたらすかもしれません。

5. 民主党バイデン氏による副大統領候補の選出

メディアではバイデン氏の副大統領候補の選出を興味深い話題として紹介

今週、バイデン元副大統領は、今回の選挙における副大統領候補を発表する予定です。通常の大統領選挙であれば、副大統領の選択はそれほど重要ではないのですが、今回は夏の日々の単調さの中で、興味深い話題とメディアに紹介されています(個人的な話になりますが、直近の熱帯性の暴風雨により、私は5日間以上、電気とインターネットが使えず、昔ながらの雑誌などを読む機会に恵まれました)。ただし、私は、副大統領の選択が深刻な問題になるほど重要とは考えていません。関連するところでは、1972年、心臓の電気ショック療法を受けていたトーマス・イーグルトン上院議員が、副大統領候補から外された事例が思い出されます。そして、2008年も副大統領候補について注目が集まった年でした。そのとき、一部の有権者は、当時72歳と高齢のジョン・マケイン上院議員を大統領に選出することに、副大統領候補の経験と資質を理由に反対したことが思い起こされます(今となっては、72歳の候補は若い候補者となります)。

副大統領候補の選出が金融市場へ与える影響は軽微だろう

バイデン氏の年齢から副大統領候補の選択は話題になりえますが、これは金融市場に大きな影響を与える問題ではない、というのが私の考えです(ただし、バイデン政権における主要人物が、特定の業界に何らかの影響を与える可能性はあるでしょう)。

1.出所:米国労働省労働統計局。
2.出所:ウォール・ストリート・ジャーナル、“What’s in Trump’s Executive Actions on Coronavirus Aid—and What’s Not”、 2020年8月9日。
3.出所:ウォール・ストリート・ジャーナル、“China Becomes a Refuge for US Companies After Overcoming COVID-19”、 2020年8月7日。
4.出所:ブルームバーグL.P.、“Dollar Sends Warning That U.S. Is Losing Its Grip on the Virus”、2020年8月3日。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト


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MC2020-119

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