用途に合わせて貯蓄する口座を分けることは、一見すると堅実な資産形成に思えますが、貯蓄だけに頼った運用には実はリスクがあります。将来必要なお金を準備し、思い描くライフプランを実現するためには、資産形成について改めて考える必要があります。目標達成のために知っておくべき、貯蓄以外の方法について考えていきましょう。
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人生には、まとまったお金が必要になることがあります。結婚、子どもの学費や住宅購入、老後などにはまとまったお金が必要になります。
例えば、老人ホームの入居一時金は1,000万円以上にのぼることも少なくありません。車の買い替えやリフォームに備えて百万円単位で用意したい人もいるでしょう。
これらの資金を確実に用意するため、目的別に口座を分けて貯蓄する人もいると思います。例えば、住宅資金は会社の財形貯蓄制度を使い、老後資金は定期預金に預けるといった具合です。目標達成度が一目でわかり、管理しやすい方法です。別の目的で使い込んでしまうことも防げるでしょう。
平成のはじめのころは定期預金の金利が約6%もあったので、お金をただ銀行に預けておくだけで自然と増えていきました。しかし今では、限りなく0%に近い超低金利時代が長く続いています。例えば0.01%という金利では、100万円を1年預けても利息はたったの100円。預金だけでは目標達成までの道のりは程遠いことに気づくはずです。貯蓄でお金を眠らせるのではなく、今後は投資などを活用し、お金を増やすことが大切になります。
貯蓄だけで資産形成をすることの具体的なリスクについて、3つご紹介いたします。
まず、貯金だけだと危ない理由1つ目は、「インフレリスク」です。
預貯金の1万円は、引き出して使わない限り、1万円のまま保管しておくことができるでしょう。しかし、物価が上昇(インフレ)すると、1万円の価値は目減りしてしまいます。ご存知のとおり過去20年以上に渡り日本ではデフレが進行したこともあり、現金を保有していることが最も安全とされる時期が続きました。
しかし、この先インフレが起こらないという保証はなく、実際に、ライフプラン上で重要ないくつかの費用には上昇傾向が見られます。例えば学費です。文部科学省の調査によると私立大学の授業料は2006年の83万583円から10年後の2016年には87万7,735円と増えています。約5%の上昇です。もし物価が上がったら、さらなる上昇も考えられます。
危ない理由2つ目は、「円安リスク」です。円安になると気づかないうちに円の価値が下がります。多くのものを輸入に頼っている日本では円安になった場合、物価が上昇するため、預貯金額は変わっていないにも関わらず、実質的には価値が目減りする事態にもなりかねません。
3つ目のリスクとして、大手銀行を中心に「口座管理手数料」を始めようという動きもあります。もし導入されれば銀行にお金を預けておくだけでは増えないどころか減る時代が到来するかもしれません。投資すればお金は増える可能性もあれば減る可能性もあります。自分の人生やライフスタイルに合った投資の方法を考えていくことも大事なのです。
資産のすべてを貯蓄で運用することは、ひとつのアセットクラスに集中投資することと同じです。目的別に口座を分けていたとしてもこの事実は変わりません。資産運用において貯蓄だけにお金をつぎ込んで、価値が大きく下がってしまったら大変です。また、投資先を1つに絞ってしまうと、投資対象の価値が下がった時に全ての資産の価値も低下してしまうリスクがあります。購買力を維持し、そして増やすためには分散投資が必要です。
複数の商品に分けて投資するのです。そうすることで、どれかが値下がりしても、他のどれかの値上がりでカバーしたり、利益を出したりして、トータルでお金を増やせると考えられるのです。具体的には次のような方法があります。
昔から「財産三分法」というのがあり、それは現金・預金、有価証券、不動産の3つに財産を分けておくことをいいます。これら3つに分けておけば、資産価格がどのように変化しても対応できるとされています。
どちらかというと運用先の分類というよりは、「資産の置き場所」を分散させる考え方といったほうがいいかもしれません。有価証券には債券や株式などさまざまなアセットクラスがあるからです。財産三分法は、分散投資をすすめる「格言」のようなものととらえたほうがよいでしょう。
実際に運用先として不動産を選ぶのは簡単なことではありません。購入には多額の費用や手間がかかり、管理も必要です。 実際には「金融資産の財産三分法」の考え方が役に立つでしょう。
伝統的に財産三分法は、資産を流動性資産・安全性資産・収益性資産と呼ばれる3つの資産に分けて行われてきました。「流動性資産」とは、換金のしやすい資産を指し、具体的には現金を指します。「安全性資産」とは、元本割れを起こす可能性が低く、預金よりも高い収益性を持った資産を指し、国債や優良企業の社債などがこれにあたります。また、「収益性資産」とは、預金や国債、社債より高い収益をもたらすと考えられる資産を指し、具体的には、株式や不動産投資信託、新興国債券など、元本割れのリスクがあり、価格変動が相対的に激しいものの、高い収益性をもたらす可能性もあるものを指します。
「金融資産の財産三分法」を念頭に、値動きの違う幾つかの資産を組み合わせることで、価格変動を緩和し安定性のある資産形成、投資先を分散することでリスクも分散される、というメリットがあると考えられています。
目的別貯蓄にはそれなりの効果がありますが、貯蓄だけに頼るのは弱点があります。財産三分法やポートフォリオ理論によると、預貯金は資産全体の一部に過ぎません。株式や債券、投資信託などに分散させることが、人生における「お金の目標」を達成するために有効だといえるでしょう。預金だけでは目標達成までの道のりは程遠いのです。眠っているお金を元手にしてお金を増やす「資産運用」の考え方をこの機会に考えてみるのはいかがでしょうか。