ロックダウンやリモートワークの影響で、「都心より郊外や田舎に家を買いたい」という人が急増しています。こうした新たなトレンドが都心や郊外の不動産価格に与える影響や、緊急時に備えた「シェルター(避難所)」の需要拡大など、新型コロナで生じた不動産への意外な影響について見てみましょう。
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各国におけるロックダウンの緩和後、不動産市場ではオンラインの検索数や物件の問い合わせなどは増えているものの、失業や減収、景気後退への懸念から購入を先延ばしにする人が多いようです。
全米リアルター協会(NAR)のデータによると、米国内の2020年5月の住宅販売数は4月と比べて44.3%増という驚異的な伸びを示したものの、前年同期比は5.1%減、売り物件数は19%減と、先行きの不透明さは拭いきれません。
長年にわたり不動産バブルが続いていた英国では、ロックダウンが緩和された5月の販売数が前年比50%減だったことがHMRC(歳入関税庁)の発表で明らかになったほか、全国住宅価格指数が過去11年間で最大の低下となる前月比1.7%減を記録しました。
市場回復の兆しは見えるものの、「ロックダウンの反動による短期的な動き」との見方が強く、英不動産大手のナイトフランクは年内に7%減、経済・ビジネス研究センター(CEBR)は8.7%減など、少なくとも年内は値下がりが続くと多くの専門家が予想しています。
日本でも不動産テックのクラスココンサルファームが国内4,000店舗の不動産業を対象に実施した調査から、前年と比べ81%が集客減、76.5%が成約数減であることが明らかになるなど、同様の現象が見られます。また不動産サービス大手JLLの調査では、不動産投資家235社の約9割が「年末にかけて不動産価格は下落する」と回答しました。
こうした中、消費者の心理に大きな変化が表れています。都会暮らしへの羨望や執着心が薄れ、ウィルスが拡散しやすい人混みを避けて自然に恵まれ空気が綺麗な郊外や田舎への移住など、ライフスタイルを見直す人が増えているのです。リモートワークが定着し、通勤の必要性が減る人が多いことも理由の一つでしょう。
米オンライン不動産ポータル「Realtor.com」のデータによると、5月の郊外物件の検索数は都心物件の検索数の2倍にあたる13%増を記録しました。同サイトの経済調査担当者は、「郊外への関心はコロナ以前から高まっていたものの、ロックダウンによりさらに加速した」としています。
日本では首都圏近郊の沿岸部の中古住宅への関心が高まっています。例えば千葉県南房総の海沿いエリアの中古住宅への問い合わせ件数が、2月前半から4月前半にかけて3.9倍になったといいます。
郊外や過疎地への関心の移行は、多くの人が新型コロナを機に、自分や家族の暮らし方、働き方について見直した結果と受けとめて間違いないでしょう。
住宅価格は需要と供給に強く影響されるため、消費者の都会離れが加速すれば、いずれ都心や郊外の住宅価格に反映すると予想されます。
実際、郊外への関心が高まっているのとは対照的に、米国ではマンハッタンのアパートの5月の契約数が前年から80%も急減しました。この例が示すように、今後は都心の住宅価格が下落し、郊外の住宅価格が上昇するといった潮流が、多数の国で見られるようになるかもしれません。
影響があるのは住宅だけではありません。リモートワークの急増により、賃貸オフィス物件の需要が縮小する可能性が考えられます。
ロンドンでは1950~60年にオフィスの需要が拡大した際、ウエストエンドの住宅の多くが商業用へと改装されましたが、近年は住宅不足を受け、オフィスから住宅への改装が進んでいます。住宅難が深刻化している国では、このようなリバース現象も活発化すると予想されます。
パンデミックや自然災害、核戦争などから身を守るための、「シェルター(避難所)」の人気が拡大している点も、新型コロナから生まれた興味深い新たなトレンドだといえます。郊外への移転同様、パンデミック以前から需要が増えていましたが、最近の数カ月で自宅の庭などに設置する人が急増しています。
シェルターというと非常に高額なイメージですが、大きさやオプションにより価格はさまざまです。例えば鋼鉄製の地下シェルターの設計・建設を専門とするノース・イースト・バンカー(Northeast Bunkers)の4~6人用のシェルターは、6平方メートルの巨大なドラム缶型で3万3,850ドル(約363万円)。内部にベッドなどを設置し、カプセルホテルのような雰囲気を演出できます。
日本でも鹿児島市の住宅メーカー七呂(しちろ)や静岡県のシェルタージャパンなどが家庭用核シェルターの販売を行っています。シェルタージャパンの大人最大20人を収容可能なシェルターは車いすにも対応している住居タイプで、住宅価格+925万円で購入できます。
自宅の庭などシェルターを設置する場所が確保できることが条件となるため、万人向けではない点が難点です。このような市場の隙間を狙い、今後、「貸しシェルター」や「シェルター・シェアリング」といった、新たなビジネスが登場するかもしれません。
不動産も新型コロナの影響を強く受けている分野の一つです。消費者の意識の変化に伴い、今後どのように市場が変化していくのかに注目する一方、不動産投資は長期的な資産を生むことが目的であることを念頭に、市場の急変に流されることなく、長い目で投資判断を下すよう心掛けましょう。
*記事内、個別の銘柄・企業名については、あくまでも参考として申し述べたものであり、その銘柄又は企業の株式等の売買を推奨するものではありません。