生命保険文化センターの調査によると、老後生活に不安を感じると答えた人の割合は84.4%にものぼります。具体的な不安の内容は、「公的年金だけでは不十分」など、経済面での不安が多く挙げられています。先の見通しが立たない将来に対して、どのような対策を立てればいいのでしょうか。
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生命保険文化センターの「令和元年度 生活保障に関する調査」では、老後生活に対する不安内容として、「公的年金だけでは不十分」(82.8%)、「退職金や企業年金だけでは不十分」(38.8%)などが挙げられています。同調査では、老後の最低日常生活費(月額)は平均22.1万円、ゆとりある老後生活費は平均36.1万円となっています。しかし、生活費はそれぞれの家族構成や居住環境などによって異なるため、現在の生活費を基準に「我が家の場合」を考えることが重要です。
また、「老後開始年齢」は、人によってさまざまな考え方がありますが、経済面について考えるときは公的年金の支給が始まる「65歳」を起点とするとわかりやすいでしょう。
また、厚生労働省の発表では、平均寿命が男性81.25年・女性87.32年、100歳に到達した人は約3万7,000人となっています。老後期間は、20~30年続くことになりそうです。
老後における「必要な出費」には、基本的な生活費と賃貸住宅の家賃などの他に「健康保険料・介護保険料」があります。社会保険(被用者保険)から国民健康保険(あるいは後期高齢者医療制度)に切り替えることで、自分も被扶養者もそれぞれが保険料を全額自己負担することになります。また、厚生年金加入の夫が定年退職後に60歳未満の妻がいる場合は、妻の国民年金保険料も支払わなければなりません。
「不要になる出費」の代表格は、子どもの教育費用や住宅ローンなど金額の大きな出費です。
また、退職を機に生活パターンや行動範囲が変わり、交際費や被服費は減るでしょう。しかし、新たに発生する人間関係や趣味・教養のための費用、旅行費用などを考えると、大きな変化はないかもしれません。
「終わる収入」は会社員としての給与、「始まる収入」は公的年金の支給です。
年金額は、加入期間や報酬を元に算出するため、それぞれの働き方や配偶者の有無などで異なります。そのため、一般的な平均額はあくまで参考程度にとどめておきましょう。日本年金機構の「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で、自分の「年金の見込み受給額」が確認できます。
また、国民年金は支給額から税金や健康保険料・介護保険料などが天引きされることを覚えておいてください(※年金額によります)。
老後生活費は「現在の生活費-(老後までに終わる住宅ローンや教育費など)+(国民健康保険料・介護保険料)」で、おおよその金額がわかります。「公的年金額÷12ヵ月」(月額の収入)と比較することで、月ごとの不足分が見えてきます。
不足分を補うためには、自助努力が欠かせません。財形貯蓄や個人年金など、既に始めているものがある場合は受取年齢と金額を再確認しておきましょう。
退職金は、勤務先の就業規則で支給要件と退職金額の算出方法がわかります。退職金制度が無い場合もあるため、今のうちに確認しておくと安心です。
子や孫のイベントなどの嬉しい出費や、病気やケガ、介護といったあまり歓迎したくない出費にも備えておきましょう。現時点での貯蓄などは、生活費用の計算に入れず、非日常出費のために温存しておく方法もあります。
ソニー生命の「シニアの生活意識調査2019」によると、1年間で孫のために使う平均金額は約13万円、その内訳は「おこづかい・お年玉・お祝い金」が約78%でダントツの1位です。
出産祝いやお宮参り、初節句や七五三、入園・入学など節目のお祝いは、頻度は少ないものの1回あたりの出費額が大きいものです。時には、「必要なものをプレゼント」することもあるでしょう。ものによっては、お祝い金相場よりも高額になるかもしれません。
例えば、節句人形を購入する場合の予算は最低でも約10~20万円で、上を見るときりがありません。また、ランドセルは安いものもありますが、最も多い購入価格帯は5~7万円台となっています。覚悟と準備が必要です。
医療費負担の増加が不安な人もいるかもしれません。しかし、健康保険に加入していれば、医療機関での自己負担額は実費の3割以下で済み、高額療養費制度も整っているため、過度な心配は必要ないかもしれません。
では、介護への備えはどうでしょうか。厚生労働省によると、要介護・要支援認定者数は増加の一途をたどり、2019年11月時点で668万人を越えています。これは、65歳以上人口の約18.5%に相当します。
公的介護保険は「介護費用が給付されるもの」ではありません。健康保険同様に、「利用時の負担額が軽減されるもの」です。例えば、要介護5と認定された場合は、介護サービス利用料のうち月約36万円分が「1割負担」で済みます。つまり、3万6,000円は自分で払わなければなりません。
また、民間の「介護保険」は、保険会社によって「支払い基準」が異なり、もらえるタイミングに大きな差があります。今のうちに、比較検討しておきましょう。
「65歳-今の年齢」が、老後資金の準備期間です。
老後生活30年分の不足額を計算すると金額が大きくなり、不安が増してしまうかもしれません。「不足額合計÷準備期間」で1年間に準備する金額、さらに「÷12ヵ月」でひと月あたりの確保すべき金額が見えてきます。
では、その金額を満たす方法を考えましょう。
普通預金の残高として置いておくのではなく、確実によけておく方が効果的です。各銀行の「自動積立サービス」やネット銀行の「定額自動入金サービス」を利用すると、毎月設定した金額を自動で積み立てることができます。低金利のため「増える」ことは期待できませんが、元本保証の安心感があります。
また、生命保険会社の「個人年金」でも、指定年齢までコツコツと積み立てることができます。将来の年金額が、元本を下回ることはありません(生命保険とセットの場合、保障部分の保険料は掛け捨てです)。
老後のための資産運用では、長期的な視点で考えることが大切です。
「つみたてNISA」は、長期運用に適したファンドのみを対象とした投資信託制度です。販売手数料が0円で信託報酬も低く、投資から20年間は運用利益が非課税(非課税投資枠は年間40万円)と、低コストでの投資が可能です。
「iDeCo(個人型確定拠出年金)」は、月々5,000円からの掛金で運用できる私的年金制度です。運用利益を途中で引き出すことはできず、原則60歳以降に有期年金あるいは一時金として支給されます。運用利益は非課税で、掛金や受取時にも所得控除を受けられます。
ただし、資産運用は、将来の利益が確定しているわけではありません。投資商品にもよりますが、元本保証のないものがほとんどです。よく理解した上で、選択しましょう。
65歳以前からの勤務先に継続雇用されたり、別のアルバイトやパートを探したりと、老後も働き続ける人は少なくありません。内閣府の「平成30年版高齢社会白書」によると、就業している男性の割合は、65~69歳で54.8%、70~74歳で34.2%、75歳以上でも14.0%です。女性は、65~69歳で34.4%、70~74歳で20.9%、75歳以上で5.8%となっています。
ただし、月々の収入が「現役並み」だと、健康保険・介護保険利用時の自己負担割合があがってしまいます。また、支給されている国民年金額も減額される場合があります。大きく稼ぐのなら別ですが、そうでない場合はバランス調整に気をつけましょう。
老後の生活費を準備するためには、まずは老後の必要額を計算して目標額がいくらなのかを明確にすることが肝心だ、ということをお伝えしました。自分の老後を現実的に見つめ直すことで、今後の対策をどうするべきかが見え、漠然とした不安からは解き放たれることと思います。
ゆとりある老後のために一定の蓄えが必要なのは事実です。早いうちに計画を立て、コツコツ貯めていく自助努力がよりいっそう重要になります。いきなり大きな金額を目指すのではなく、月単位や週単位での小さな金額から始めましょう。
老後資金のための資産運用は、長期的に考えることで成功へと繋がるはずです。