健康志向の向上や環境への配慮、シェアサービスの拡大などにより、欧米を中心に自転車の売上が大幅に伸びています。こうした中、テクノロジーを駆使してサイクリング体験を向上させる、「サイクリング・テック」がブレイク中です。先進的な4つのサービスを通して、業界の最前線をのぞいてみましょう。
目次
ひと昔前までは自転車というとレジャーや通勤、通学用の乗り物というイメージでしたが、近年はエクササイズや環境に優しいエコ・ヴィークル(乗り物)としても注目されています。
アジアと欧州圏では政府が環境対策として、自転車シェアリングを含む自転車用のインフラ投資に力を入れており、アジアの自転車産業の収益が国際市場に占める割合は、2017年の時点で25%を上回りました。
このような背景から、米市場調査企業Grand View Researchは2018~25年にわたり国際自転車市場がCAGR(年平均成長率)6.1%で成長し、754億ドルを突破すると予想しています。
これに加え、特に欧米ではロックダウンの影響により、自転車ブームがさらに加速していることから、最終的な数字は予想を大きく上回る可能性があります。米国においては2020年4月だけでも、自転車や室内バイク、部品、サイクリング用ヘルメット、その他アクセサリーの売上高が、前年比75%増の10億ドルに達したことが、米市場調査企業NPDグループの調査で明らかになっています。
日本でも定着した電動アシスト自転車の需要が世界的に拡大し続ける一方、王道のロードバイク、マウンテンバイクやハイブリッド(ロードバイクとマウンテンバイクの両方の利点を併せ持つ自転車)の人気も不動です。
自転車コミュニティーの拡大とともに注目されているサイクリング・テックは、サイクリング体験をより快適で有意義に、そして安全なものへと向上させるためのテクノロジーです。サイクリングのイメージを180度変える、以下のような画期的な商品が続々と登場しています。
サイクリングの際、多くのサイクリストがスマホの地図アプリやGPSナビゲーションを利用していますが、画面に気をとられて転倒や衝突事故に遭うこともあります。
ロンドンのスマート・バイシクル・デバイス・スタートアップBlubelが開発した「Blubel Bike Navigation」は、自転車に設置したベル型(呼び鈴)デバイスから光と音を発信して進行方向へと誘導してくれるため、注意力の低下を防ぎ、より安全なサイクリングを楽しめます。
スマホ(iPhone・Android対応)に搭載されたGPS地図アプリで行先のルートや情報を表示し、Bluetooth(無線通信技術)を利用してデータをデバイスに転送すると、ナビゲーションが作動するという仕組みです。
既存のベルと付け換えるだけで設置に手間がかからず、悪天候にも強いという利便性の高さも人気の秘密でしょう。
自転車に設置する小型デバイスで、自転車の位置を追跡するGPS自転車トラッカーの進化版です。仏テレコミュニケーション企業Invoxiaが開発したもので、すでに数百台の盗難自転車の回収に成功した実績があります。
盗難の疑いがある動きを察知すると、リアルタイムで所有者のスマホに警告を発信するほか、専属のチームが警察に通報してくれるなど、迅速な対応が可能です。また自分だけの「セキュリティゾーン(自宅エリア、駅近辺など)」を設定し、圏外に自転車が持ちだされた場合にも警告を受信できます。
ニューヨークのAo Airが開発した対公害マスク「Atmos Faceware」は、一見VR(仮想現実)ゴーグルかと見間違うほど、ユニークなデザインの次世代マスクです。
特許取得済みのテクノロジー「PositivAir」を採用し、外気中の微粒子や有害な気体成分、ホコリなどをフィルターで濾過・除去。綺麗で冷たい空気をマスクから排出することで、顔の周囲を公害から守ります。
既存のスポーツ用エアーフィルター(空気濾過)マスクと比べて、粒子状物質の吸引阻止力が最大50倍優れています。交通量の多い都市部などをサイクリングする際に装着することで効果を発揮するマスクといえそうです。
夜間や悪天候でのサイクリングは、視界がクリアでないため事故発生の確率が高くなります。
海外のサイクリストは事故防止策として、自転車に設置したインディケーターや両手を使って、後方の車や通行人に右折・左折の意思を伝えます。しかし天候や光の加減、角度によっては、後方から見えにくい場合があります。
CYCL Winglightsはさまざまな状況下で、サイクリストが360度クリアな視界を維持すると同時に、後方車や通行人に右左折を知らせるためのLEDライトです。自転車のハンドル持ち手部分に取り付けるタイプです。開発元であるロンドンのCYCLは、英国版『マネーの虎』と言われる『Dragon’s Den』で出資を受けたことでも注目されています。
「右左折時の衝突」は日本でも「出会いがしらの衝突」に次いで多発している自転車事故原因の一つです。安全性を向上させるサイクリング商品が広範囲に普及することで、自転車事故を低減させる効果が期待できるかもしれません。
新型コロナの影響により、通勤や通学、レジャー、移動手段も刻々と変化しています。テクノロジーを日常に上手に取り入れて新しい時代を満喫すると同時に、投資のチャンスとしてもサイクリング・テック関連の企業に注目してみてはいかがでしょうか。
*記事内の個別の銘柄・企業名については、あくまでも参考として申し述べたものであり、その銘柄又は企業の株式等の売買を推奨するものではありません。