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目次
✔︎過去の歴史を振り返りながら、2020年後半の見通しを紹介
●世界経済の回復に関する私たちのベースシナリオ
—回復の初期段階では世界的な経済回復のスピードは遅く、国・地域で差が生じるだろう
●米国の見通し
●大陸欧州の見通し
●英国の見通し
●日本の見通し
●中国の見通し
●新興国の見通し
●今後の見通し
—2020年後半には経済の回復が続くと予想も、回復ペースは遅く、不均一なものになる
—過去以上に分散投資が大切な局面と考える
2020年前半は予期外の出来事の連続でした。新型コロナウイルスの急速な感染拡大とそれに伴う世界的な都市封鎖(ロックダウン)により、予想されていた2020年見通しは覆され、経済活動は妨げられ、需要は過去ないほど落ち込みました。それを踏まえ、本稿では、2020年後半の私たちの見通しについてご紹介します。
新型コロナウイルスの世界的な大流行(パンデミック)の最中に、先6カ月の見通しを立てることは難しいことです。そして、激動の時期には、金融市場と景気サイクルについての過去からの教訓を重視すべきでしょう。過去、弱気相場は通常、景気後退の予兆であり、ボラティリティは極端に高まり、投資家の保有資産は極端に偏り、悲観的なセンチメントが見られることが分かっています。そして、その後、深刻な景気後退には政策対応が行われ、金融政策が緩和され、株式市場がより高い水準に戻り、新しい景気サイクルが生まれてきました。そして、その時には景気動向に敏感な資産が最初に反発し、市場をけん引しました。問題は、今回の局面が、この典型的なパターンをたどるのかどうかです。
今日、私たちは、今後の経済回復がどのような形をたどるのかについて議論しています。マクロ経済見通しの策定のため、私たちは国別の国内総生産(GDP)の単純化したモデルを構築しました。次に、ロックダウンに関する前提と、様々なシナリオの下で想定されるGDP成長について、考察しました。その結果、景気回復の形に対する多くの可能性が分かりました。
私たちのベースシナリオは、回復の初期段階では世界的な経済回復のスピードは遅く、差が生じるというものです。すなわち、「ルート(√)」型、あるいはスポーツ関連商品を扱う米国企業NIKE社のロゴ「スウッシュ」のような曲線を描く回復であると考えています。ロックダウンは徐々に緩和され、通常の消費行動への回帰が想定されます。その他の前提としては、ワクチンの開発がすぐには完了しないこと、そして追加の財政支援が実施されることを考えています。
このシナリオはもちろん、感染率、財政政策、金融政策、公衆衛生政策(ロックダウンの厳しさを含む)、そして治療法やワクチン開発に関する進展など、様々な要因に左右されます。また、消費者や企業活動にも影響を受けます。例えば、感染の増加する中でロックダウンを再度実施しない国や州があり、消費者や企業は自ら自分たちを隔離しなければならない場合があります。
米国では、景気回復の兆しが見えてきており、ゆっくりではありますが、景気回復が年の後半において進みそうです。ただし、サービス部門や公共部門など、経済の一部が非常にぜい弱な状態にあることを認識する必要があります。また、最近の感染率の上昇も懸念されており、それが米国経済にさらなる逆風をもたらす恐れがあります。
2020年後半に米国経済が直面すると考えられる上記の問題やその他の課題を考慮すると、政府は引き続き、財政刺激策を提供することが重要と考えています。特に、パンデミックの打撃を受けた家計や企業はもちろんのこと、州・地方自治体への支援も必要と考えます。新しい景気サイクルの始まりは適当でないポリシー・ミックスによって芽を摘まれることがあり、これは真のダウンサイド・リスクといえます。しかし、私たちは議会とトランプ政権が企業、家計、そして地方自治体に対し、必要な財政支援を進めると予想しています。また、米連邦準備理事会(FRB)は、自ら語っている通り、今後何年にもわたり金融支援を提供すると見込んでいます。そして、私たちは、財政支援策と経済再開に関する政策に注目しています。
経済活動の再開にはリスクが伴い、いくつかの州では新型コロナウイルスの感染症例数が増加しています。経済活動が再度停止されれば、市場のボラティリティはさらに高まりますが、2020年初から数カ月の間に実施されたような大胆な封鎖措置は、今後、実施されないと予想されます。新型ウイルスについて、マスクと社会的距離の利点や、屋外集会における低い感染リスクなど、2020年3月時点よりもはるかに多くのことが明らかになっています。
明らかなことは、足元では新しい景気サイクルが出現し始めており、米国の歴史の中で最も深刻な不況は最も短いものとなる可能性があることです。ただし、今回の危機は突発的な事象が起きやすい性質を踏まえると、V字型の回復は期待しづらいと考えます。金融市場は現在、債券利回りの緩やかな上昇、「安全資産」通貨の緩やかな下落、堅調なコモディティ価格、クレジット・スプレッドの縮小、株価の上昇など、安定した経済成長を示唆しています。これらの傾向は2020年後半も続くと予想していますが、リスク要因として、米国と中国の緊張の高まりと新型ウイルスの感染第二波があります。短期的には、ボラティリティの高い状況を伴いながら、大型株と長期成長株がアウトパフォームすると見込んでいます。しかしながら、私たちのベースシナリオは、年間を通じて回復が進むというものであり、回復が進むにつれて、景気先行型でバリュエーションが魅力的な資産も市場をけん引すると考えています。
私たちは、フランス、イタリア、スペインなど、ユーロ圏内で経済規模の大きい国々は、旅行・観光業へのGDPや雇用の依存度が大きいため、ユーロ圏の経済回復の初期の兆候は小さいものの、夏以降の回復度合いは大きいと考えています。現在、製造業と専門的なビジネスサービスが集中しているドイツや北欧の国々の回復が、観光業がGDPに占める割合が高い南欧やフランスよりも早いと予想しています。そのため、ユーロ圏内の株価指数や債券市場では国によりパフォーマンスに差が生じる状況が続くと思われます。
ポジティブなニュースとしては、欧州のいくつかの国では、労働者と家計に対して部分的な所得支援を提供しており、現在の危機で雇用を守る法律を導入していていることです。例えば、イタリアでは企業が2020年に労働者を解雇することを禁じています。これらの措置は、経済の確実な回復を支援するのに役立つはずです。
また、現在初期段階ではあるものの、議論中のユーロ圏財政政策の共有化(まだ財政の統合ではありません)の実現は、ユーロ圏の競争力と経済成長に向けての布石となります。財政が分離されていることは、ユーロ圏の制度上および設計上の弱点であるため、この共有化は、ぜい弱性がさらに悪化しているユーロ圏経済の状況を改善させるものとなるでしょう。何度も議論されてきたように、財政の統合なしに通貨同盟を作ることは非常に問題があります。共有された財政政策が動き出すことは、景況感を向上させ、ユーロ圏経済を支える上で非常に有効であると考えています。
金融市場に関しては、最近の反発により、米国ほどではないものの、株式のバリュエーションに割高感があると考えています。ユーロ圏の株式は、国債利回りが低いため、リスクプレミアムの点では、他地域よりも魅力的と考えられます。債券では、イタリアなど一部の国債は比較的高い利回りを提供しますが、欧州中央銀行(ECB)の支援に依存しています。一般的に投資家が取るべきリスクに対して、それらの国債への絶対リターンの魅力度は小さいと考えます。クレジット市場は、より興味深い状況です。金利水準は低下し、スプレッドは3月中旬のピーク後に大幅に縮小しましたが、過去20年間に経済ストレスが高まった期間と比較すると、市場に織り込まれているデフォルト確率は、投資適格社債とハイイールド社債ともに高水準にみえます。深刻な景気後退に突入していることを考えると、クレジットへの潜在的なリスク調整後リターンは、ハイイールド社債よりも投資適格社債の方が魅力的と私たちは考えています。ハイイールド社債市場では、投資適格債から格下げされた社債のうち、BB格などに投資妙味があると考えています。
英国の2020年後半の経済回復は、ユーロ圏よりやや弱いと考えています。英国は、米国と同様、ロックダウンがそれほど厳しくなく、他の欧州各国よりも公衆衛生の面でも見劣りしました。その結果、死亡率と超過死亡数が高まり、より厳格なロックダウンを実施した国と同程度の深刻な経済の低迷が続いています。
もう1つの懸念は、英国の欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)が間近に迫っていることです。英国政府は移行期間の延長を拒否し、年末までに貿易協定を結ぶか、さもなくば「ハードブレグジット」を選択すると主張しています(合意なき離脱はロックダウンに比べて痛手とならないと考えているのかもしれません)。私たちは交渉の状況が改善されるとみていますが、包括的な協定が結ばれるのではなく、様々な部門で個別に協定が結ばれると考えており、これは貿易摩擦の高まりや、生産性の低下圧力となりそうです。
これらの課題により、英国は「コロナ以前の経済環境」への回帰が妨げられ、他の主要経済国よりも状況が悪化するW型の経済減速のリスクが想定されます。ロックダウンが徐々に解除されると、大規模感染の第二波への脅威とブレグジットに伴う支出の圧力により、経済活動の回復は抑制される見込みです。ブレグジット交渉の先行きがより明確になり、パンデミック後の状況とEUの政策が明らかになるまで、家計部門での耐久消費財への高額支出、企業部門での大規模な新規の設備投資支出や外国直接投資の計画は控えられることが見込まれます。ただし、このような逆風はあるものの、英国の消費行動には力強さも確認されており、年後半には消費支出が予想を上回ることも十分に考えられるでしょう。
私たちの英国におけるベースシナリオは、ブレグジットとロックダウン政策による低調な経済環境であり、低金利、英ポンドの下落、そして短期的にはリスク資産に対し圧力がかかることを見込んでいます。しかし、中長期的には、割安なバリュエーションと政策支援により英ポンドと英国のリスク資産の上昇が見込めると考えています。
現在、日本の2020年4-6月期のGDP成長率は大幅に低下すると予想されています。2019年10月の消費税増税が消費を停滞させたため、新型ウイルス危機以前の日本経済はすでに低調な状態にありました。ただし、4-6月期について、日本の消費の減少は米国や欧州よりもはるかに穏やかになると予想されます。日本では厳格なロックダウンが実施されず、政府は緊急事態宣言を解除したため、消費活動は既に底を打ったようです。「新しいライフスタイル」の下での景気回復は、今後数カ月間続くと予想されます。そして、補正予算第2ラウンドを通じた大規模な財政刺激策は、経済成長をサポートする可能性があります。
今後数四半期の日本経済にとって最も重要なリスクは、輸出の減少です。世界経済がマイナスの需給ギャップの状態にあれば、日本からの資本財輸出は減少する恐れがあります。主要経済国における新型ウイルスの第二波も、輸出に悪影響を与える可能性があります。サービス業における倒産の増加も懸念材料です。
金融市場に関しては、日本銀行のイールドカーブ・コントロール政策が安定した市場環境をもたらしたため、パンデミックにもかかわらず、日本の債券市場はここ数カ月安定を維持しています。さらに、3月に日本銀行の株式ETFの購入額を2倍にするという決定が、株価を支えました。さらにFRBが年末に向けてイールドカーブ・コントロール政策を採用する場合、日米間の安定した金利差は、日本から米国への資本流出を進める可能性が高く、これは米ドルに対する円安の圧力となるはずです。しかし、短期的には、世界の資本市場の正常化を伴う米ドルの過剰需要の減少は、円高の圧力となる可能性があります。
私たちの中国への見通しは、引き続き前向きです。中国経済は、消費と民間設備投資が引き続き弱いものの、多くの側面で経済活動が通常の状態に戻っています。しかし、今後の回復には、消費者や企業がお金を使うことへの自信をより強めていくことが必要です。そして、日本同様、上半期にV字型の回復が見られた製造業購買担当者指数が、新型ウイルスの再流行により再び低下することがリスクです。
中国の財政刺激策と金融緩和政策は、他の国々と比較して保守的でした。そして、全国人民代表大会で発表された追加の経済措置は、よく練られた政策であると私たちは考えています。そして、マクロ環境が悪化した場合に備えて、政府が手元に資金を用意しておくことは理にかなっていると考えます。下期も金融緩和の継続が見込まれますが、それはおそらく、様々な金利指標への小さな調整にとどまるでしょう。
金融市場に関しては、中国が経済活動を再開した最初の主要国であることを考えると、中国の株式市場が年初から比較的良好に推移していることは理にかなっています。そして、中国人民銀行による2020年後半の追加の流動性注入は、中国のオンショアA株市場にとって良いニュースとなるでしょう。A株市場は流動性が大きな影響を与える市場であるため、現在の金融緩和はそのサポート材料であり、2020年後半の中国A株についてもポジティブな見方ができるでしょう。そして、市場参加者は、米中間の地政学的緊張を見守る必要があります。ただし、現時点では、合意されたフェーズ1の貿易協定は守られる見通しで、新たな関税が課されることはないようです。債券に関しては、中国およびその他のアジア太平洋諸国の経済状態が通常の状態へ回帰することは、企業経営および財務状態にプラス要因と考えられます。私たちは、中国およびアジア太平洋地域のクレジットには、引き続きポジティブな見方をしています。
多くの新興国経済は、パンデミックの直接的な影響とロックダウンの経済的負担から、深刻な課題に直面しています。新興国は、先進国と比較し、財政や医療などの公衆衛生の支援が見劣りします。2020年3月での、新興国市場への過去最大の資本フローの急反転は、FRBの急激な金融緩和政策の結果でした。低金利・マイナス金利という環境の継続は、投資家の継続的な利回り追求と、世界的な景気回復へ備えた各国の投資意欲の高まりを刺激し、それは最終的にはコモディティ価格を押し上げ、交易条件、および新興国への資本流入をもたらすと考えます。
とはいえ、各国の経済構造と政策対応の違いは、各国のロックダウンからの復帰の道筋、今後の長期的な経済パフォーマンスや金融資産のリターンが大きく異なることを意味するでしょう。よって、今後は、国と資産クラスの選択の重要性が高まると予想しています。例として、インドとブラジルを比較してみましょう。この2国は世界地図の反対に位置する大陸型の経済国であり、経済構造と産業が非常に異なっています。
インドは感染症の急増に見舞われており、ロックダウンの打撃を和らげるため財政余力も十分ではない状態です。その結果、感染の曲線が平坦化ではなく上昇している中で、経済活動の再開が始められています。良いニュースは、政府が2019年の選挙では避けていたサプライサイドの改革を追求し、また再分配と需要喚起策も意識していることです。一連の労働市場改革は投資を促進し、経済成長を後押しするはずです。また、政府が資本増強や累積不良債権の削減などの金融セクター改革を進めることも、成長を後押しするでしょう。インド政府がこの改革路線を本当に進めるならば、インドの過去の歴史においてそうであったように、外国直接投資と設備投資が強く反応するでしょう。一方で、構造改革が不十分でその進ちょくが遅い場合は、インドの経済回復が失望される可能性があります。
ブラジルでは、パンデミックが蔓延しており、州政府が実践的な対策を取っているにもかかわらず、中央政府は積極的な活動制限には消極的な姿勢が続きます。一方、政府はパンデミックに対応するために約束していた財政規律を一時撤回し、中央銀行は政策金利を過去最低水準からさらに引き下げました。これらすべてが経済の下支えに役立つはずですが、ブラジル、中南米、および新興国全体での職場への復帰や経済成長の回復は、パンデミックの封じ込めの成否と世界経済の動向、それを通じたコモディティ価格と輸出数量の動向に影響を受けます。
アジアの新興国のほとんどは、パンデミックをうまく抑制し、経済は回復へ向かっています。韓国などの国は、人の行動を追跡する強力なインフラを備えており、ウイルスの再発を防ぐ体制が整っています。これらアジア各国の最大のリスクは、日本と中国と同様に、モノに対する世界的な需要の低迷です。私たちは、アジア新興国の株式と債券の投資魅力度は、アジア以外の新興国のそれより高いと考えています。
結論として、2020年後半には経済の回復が続くと予想されますが、それは追加の財政的および金融的支援のおかげであり、回復ペースは遅く、不均一なものになると考えられます。そして、マクロ環境に影響を与える様々な要因の不確実性を考えると、私たちの現在の見解は、今後、疑いなく変化していくと考えます。私たちの見通しからのアップサイドは、新型ウイルスについて医学的な有意義な進展があり、消費者行動が通常の状態に戻ることです。反対にダウンサイドとしては、消費者の行動に影響を与える感染者数の急激な増加、ロックダウンの延期・再開、および政策支援の早すぎる削減が挙げられます。
現在は、大規模な金融政策のサポートにより、リスク資産にとって良好な環境です。ポートフォリオの株式部分においては、幅広い分散を推奨します。債券については、投資適格債のオーバーウェイトと、ハイイールド社債の小幅なオーバーウェイトが望ましいでしょう。そして、様々な資産のボラティリティが高まると考えることから、不動産、コモディティ、現金などの代替的な資産への適切なエクスポージャーが必要と考えます。現在の環境は、過去10年間の中で、分散投資が最も重要な局面と言えるでしょう。
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2020-092