経済指標の改善が見られる一方で、感染率のコントロールには苦戦が続く

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過去1週間のポジティブおよびネガティブなサインを評価する

〔要旨〕

●ポジティブなサイン

—米国、中国で経済指標の改善が続く

—米中関係の緊張が過度に高まる可能性は低い

—新たなインフラ投資計画に関する報道があるものの、2020年の経済への効果は低い

—既存薬が新型コロナウイルス患者の死亡率を低下させる可能性を示す

●ネガティブなサイン

—米国、中国で新型コロナウイルスの感染率の上昇を確認

—州・地方自治体や一般家庭への資金援助、新型コロナウイルスの接触者追跡のための資金など、追加の財政出動が必要

—韓国半島で地政学リスクが高まる

●今後の見通し

—短期的にはボラティリティが高まるものの、大規模な金融緩和策により、株価は上昇基調を維持すると予想

景気回復の兆候が増加

2週間前、私は、世界中で確認されている、景気回復への希望をもたらす明るい兆しについて紹介しました。先進国経済の再開に伴い、経済面でのポジティブなニュースが続いているなど、景気回復の兆候が増えています。ただし、今後の混乱を引き起こす可能性があるネガティブな兆候もあり、注視する必要があります。

ポジティブなサイン

米国、中国で経済指標の改善が続く

先週、米国では、5月の小売売上高が前月比+17.7%と大幅に増加したとの発表がありました1。これは、過去最大の増加で、市場予想をはるかに上回る結果となりました。5月の鉱工業生産についても、市場予想を下回ったものの、改善が見られました。

中国では、5月の鉱工業生産が前年比4.4%増と市場予想を下回りましたが、前月から伸びが加速しました2。また、小売売上高は、4月の前年比7.5%減から、5月には2.8%減と小幅な減少にとどまりました2。固定資産投資は、2020年1-4月までの大幅な落ち込みから改善し、1-5月で6.3%減少となりました2

米中関係の緊張が過度に高まる可能性は低い

その他のニュースでは、ハワイで開催された米中会談があります。中国は、2020年1月の貿易協定の「第一段階の合意」の履行のため、米国産農作物の購入を加速させる方針を示しました。米国側からの挑発的な言動は増えていますが、両国関係が過度に敵対化する可能性は、少なくとも現段階では低い見込みです。11月の米国大統領選挙が近づくにつれ、貿易戦争の再燃など、両国間の緊張が高まる可能性に危惧はしているものの、それは私のメイン・シナリオではありません。

新たなインフラ投資計画に関する報道があるものの、2020年の経済への効果は低い

トランプ政権が新たなインフラ投資計画を準備しているとの報道も流れました。これは非常に歓迎すべきニュースです。インフラ投資による乗数効果は高く、現状、米国内ではインフラ投資への必要性が増しています。ただし、2020年の経済への効果は低いでしょう。インフラストラクチャの構築には時間がかかり、すぐにでも効果が出るという考えは誤っていると思います。その計画は十分に考慮して立てなければなりません。1米ドルの支出で最大の経済効果を上げるためには、大恐慌時代の米公共事業促進局(WPA)のような、過去の成功モデルに着目する必要があります。そして、インフラ投資は非常に必要とされており、長期の米国経済にプラスの影響を与えるはずです。

既存薬が新型コロナウイルス患者の死亡率を低下させる可能性が示される

医療面でも、デキサメタゾンと呼ばれるステロイド薬が新型コロナウイルスの治療に効果を発揮したとのニュースが流れました。英国では新型コロナウイルスの治療に同薬を使用しており、重症患者の死亡例の減少が確認されています。英国の前臨床試験では、新型コロナウイルスの患者の内、アレルギーの抗炎症薬として広く処方されているデキサメタゾンを投与した患者の死亡率は、同薬を投与していない患者と比較すると、人工呼吸器を装着している患者では3分の1、酸素を吸入している患者では5分の1、それぞれ低下していることが明らかとなりました3。同薬が広く普及していることを考えると、このニュースは非常に期待できるものです。

ネガティブなサイン

米国、中国で新型コロナウイルスの感染率の上昇を確認

残念ながら、すべてのニュースが好ましいものとは限りません。欧州、米国、英国では、それぞれ経済活動が再開し始めていますが、米国と英国では依然として感染率が上昇しています。実際、前週の金曜日と土曜日の米国の新規感染者数は、2日連続で30,000人を上回りました。これは5月1日以来最大です4。経済活動の再開により、経済データが改善されるのは明らかではありますが、多くの米国人がマスクの着用といった簡単で効果的な対策を実行するのに無頓着であることを考えると、米国と英国ではウイルスの拡散を押さえ込むことが非常に難しい可能性があります。米国全州の感染率は緩やかな上昇にとどまっていますが、アリゾナ州やフロリダ州など、米国の南部や西部の州を中心に、感染者が急増しています。一方で、経済封鎖(ロックダウン)を長期間実行した州では、感染率が低下しています。もし、このように米国が新型コロナウイルスの第一波でさえ押さえ込めないとなると、通常の生活に戻るのにはかなり時間がかかることになります。また、ウイルスの第一波の封じ込めに成功した中国でしたが、北京では感染者が再び増加しています。ただし、大規模なウイルス検査と接触者の追跡調査の結果、6月17日時点で確認された感染者数は137人にとどまっています5。今回の発生を受け、北京は近隣都市を封鎖し、航空便を欠航とし、学校を閉鎖しました。

州・地方自治体や一般家庭への資金援助、新型コロナウイルスの接触者追跡のための資金など、追加の財政出動が必要

また、7月4日までの休暇期間が終わるまで、米国議会はこれ以上の財政刺激策を検討することはありません。ただし、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が先週の議会証言で繰り返した通り、追加の財政出動は非常に重要です。例えば、米国では過去2カ月で100万人の政府職員が職を失いました6。州や地方自治体への資金支援が十分でなければ、失業者の数は大幅に増えると懸念されます。同様に、米国人の多数の家計の状況は厳しく、一般家庭への継続的な資金援助も必要だと考えます。そして、新型コロナウイルスの接触者を追跡するための資金も用意する必要があると思います。

韓国半島で地政学リスクが高まる

また、前週、北朝鮮と韓国間で緊張が高まりました。北朝鮮は、国境近くに設置された、南北融和の象徴である南北共同連絡事務所を爆破しました。この行動は、韓国の脱北者団体が北朝鮮に反北朝鮮のビラをまいたことへの報復でした。金正恩朝鮮労働党委員長の実妹である金与正がこの爆撃を決定したようですが、このことは金与正がもう一人の指導者として大きな役割を担っていることを示唆し、そして金正恩の安否についての疑問も生じました。北朝鮮は米国との交渉が進んでいないことに非常に不満を感じており、また新型コロナウイルス感染の影響で経済的にも影響が出ているようです。米国にとって、北朝鮮は最優先的に交渉すべき相手ではないようですが、北朝鮮は米国との交渉の再開を望んでいると考えられます。現在、北朝鮮は、2018年に北朝鮮と韓国の間で結ばれた非武装化協定(平壌共同宣言)をほごして、非武装地帯へ軍を進出させると警告しています。

今後の見通し

短期的にはボラティリティが高まるものの、大規模な金融緩和策により、株価は上昇基調を維持すると予想

次週に向けて、経済指標は引き続き改善の兆候を示すものの、感染率はさらに上昇すると予想しています。次週に発表される経済指標には、欧州と米国の購買担当者景気指数がありますが、これは前月からの改善が予想され、株式市場の支援材料になると考えられます。ただし、米国の一部の州では、感染率の上昇が続く可能性が高いことは、市場の圧迫要因になりそうです。良い経済指標と感染率の上昇という両者の存在は理想的な姿ではなく、どこまでその状況が続けられるのかは分かりません。短期的には、市場のボラティリティが高まるものの、FRBや他の中央銀行が提供した大規模な金融緩和策により、株式市場は上昇基調を維持すると予想しています。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

 

1.出所:米国国勢調査局、米国商務省、2020年6月16日。

2.出所:中国国家統計局。

3.出所:ニュー・サイエンティスト、新型コロナウイルスアーカイブ:“UK using dexamethasone to treat patients”、2020年6月17日。

4.出所:米国疾病予防管理センター。

5.出所:サイエンス、“Source of Beijing’s big new COVID-19 outbreak is still a mystery”、2020年6月17日。

6.出所:米国労働省労働統計局、2020年6月5日。


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