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FRBの利下げに備える市場

FRBの利下げに備える市場

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〔要旨〕

  • FRB:利下げ観測が熱を帯び、先週、特にテクノロジー銘柄を筆頭に大幅な株高となった
  • 段階的に移行?:0.5%の利下げは、米国経済の現状に警鐘を鳴らすことになり得ることから、FRBは0.5%ではなく0.25%の利下げを行うと予想
  • 米国経済:パウエルFRB議長の記者会見が、米国の景気後退が近づいていると懸念する人々にとって信頼感の醸成につながる可能性

データは、FRBがいつでも利下げを開始できる状況を示唆

景気にまつわる懸念がテクノロジー・セクターへの関心を高める可能性

今週のFRB会合における注目点

利下げ幅

FOMC声明の文言

ドットプロットその他の見通し

今週行われる世界の中央銀行の決定

結論

注目の日程

先週は、米国株を筆頭に世界的に株高となりました。米国株はテクノロジー・セクターに牽引され、ナスダック総合指数が1週間で6%近く上昇し、昨年11月以来の上昇幅を記録しました1 。これは一体なぜでしょうか?確かに、ここ数週間テクノロジー銘柄の価格が低迷しており、投資家が相対的に割安な銘柄を買いに走ったことも一因と考えられます。しかし私は、米連邦準備制度理事会(FRB)による大規模な緩和サイクルが始まることへの期待と、米国経済成長への懸念の2つが、主な牽引要因となったと考えています。

データは、FRBがいつでも利下げを開始できる状況を示唆

米国のインフレ懸念はほぼ落ち着いてきており、FRBが金融緩和を進める余地が生じています―その結果、テクノロジー株のような高バリュエーション資産へのプレッシャーが弱まる可能性があります。テクノロジー株は「ロング・デュレーション」の資産クラスと見なされますが、これはより長期の将来に渡る収益フローが織り込まれていることから、一般的に金利変動に対する価格感応度が高いことを意味します。

インフレ期待に関するマーケット指標から見ても、消費者調査から見ても、インフレがもはや重要な懸念ではなくなってきていることが示唆されています。これは、大規模な緩和サイクルへの扉を開く一助となるでしょう:

  • 米5年物国債について、固定利付債と物価連動債の利回り差で求められるブレーク・イーブン・インフレ率は、現在FRBの目標の2%を下回っています2
  • ミシガン大学消費者調査における1年先の消費者インフレ期待の9月速報値は、2.7%と2020年12月以来の低水準に落ち込みました3

景気にまつわる懸念がテクノロジー・セクターへの関心を高める可能性

近年テクノロジー・セクターは、経済成長予想が低迷する中で、長期の成長を求める投資家に選好されるセクターとなってきました。経済成長への懸念は、これまで様々な形で顕在化しています:

  • 米10年物国債利回りの週終値は、2023年5月以来の低水準となりました4
  • 「セーフヘイブン」資産クラスとされる金は、先週金曜日に最高値を更新し、1オンス=2600ドルに迫りました4
  • 原油価格は、供給増のみならず世界的な需要減退への懸念から下落しました(ただしここ数日は、ハリケーン「フランシーヌ」の影響で反発が見られています)。
  • 欧州中央銀行(ECB)は、成長見通しを下方修正しました。
  • ECB前総裁で前イタリア首相のマリオ・ドラギ氏が、欧州連合(EU)の競争力に関する報告書を発表し、経済成長の低迷を憂慮しつつ、経済改革を達成するための大規模投資が必要だと指摘しました。

市場は明らかに、景気減速への不安と目前に迫った利下げへの興奮とが相まった、複雑な感情を抱いています。

今週のFRB会合における注目点

米連邦公開市場委員会(FOMC)は、9月18日に政策金利に関する決定を行います。私が注目しているのは、以下の点です:

利下げ幅

私はFRBが0.5%ではなく、0.25%の利下げを行うと予想しています。以前にも述べたように、0.5%の利下げを行えば、米国経済の現状に警鐘を鳴らすことになるためです。思い返せば2020年3月、FRBは世界的なパンデミックを目の当たりにして0.5%の利下げを行い、短期的な緩和サイクルを開始しました。現在、0.5%の利下げが必要なほど悲惨な状況にあると主張するのは非常に厳しいでしょう。

実際、前回の政策変更開始の際も、FRBは段階的な動きを見せました:
FRB自身が、インフレ対策が後手に回ったと認めた2022年3月の利上げ開始時でさえ、0.5%の利上げは行いませんでした。0.25%の利上げから始め、すぐにより大幅な利上げへと移行しました。とはいえ、今週の利下げが0.25%に留まったとして、FOMC出席者のうち一体何名が0.5%の利下げに賛成したかは興味深いところです。この人数が比較的多ければ、今後より積極的な緩和が予想されます。

FOMC声明の文言

今回と前回の声明を比較することで、文言の細かな調整具合が分かるでしょう。私は特に、前回に比べて、今回の声明で経済についてどのような表現がなされるかに関心があります。

例えば、7月のFOMC声明における経済についての評価では、GDP成長率を 「堅調」としつつも、FOMCは新規雇用が「緩やかになった」と認め、 失業率が「上昇した」と指摘しました5 。今回も似たような表現がなされるのではないかと考えています。より否定的な表現となれば、危険信号のサインかもしれません。

ただし今回は、FOMCメンバーによる「経済予測サマリー」において、失業率と国内総生産(GDP)成長率両方の見通しが出される予定のため、表現の重要性は比較的低いでしょう。

ドットプロットその他の見通し

FOMCの「経済予測サマリー」には、ドットプロット(FOMCメンバーによる金利予測分布図)と、その他いくつかの見通しを示すチャートが掲載されています:

  • ドットプロット:利下げに関するFOMCメンバーの今後1年間の見通しについて大きな示唆を与えてくれます。私は、ドットプロットにおいて今後12ヶ月で2%程度の利下げが示唆されると予想していますが、結果は全く違ったものになるかもしれません。また、FRBの見通しがかなり不正確なものとなり得ることは、気に留めておくべきでしょう。例えば2021年12月のドットプロットでは、2022年末時点のFF金利を0.9%と予想していましたが6 、実際2022年末のFF金利は4%をはるかに超えました7 。同様に、2024年6月のドットプロットでは、2024年末までの利下げ幅の中央値を0.25%と予想していましたが8 、現時点ではこれは過小評価だったとみられます。私は9月のドットプロットでは、2024年中の利下げ幅の見通しを0.75%に引き上げると見込んでいます。また、FRBが考える長期の中立金利水準を知る上でも、ドットプロットに注目したいところです。6月のドットプロットでは、これが3月のドットプロットの2.6%から引き上げられ、2.8%とされましたが8 、再び変わることになれば驚きです。
  • 失業率とGDP成長率の見通し:前述の通り、これらはFOMCメンバーの米国の経済状況への見方を示す最良の指標となります。2024年6月のドットプロットでは、FRBは2024年末時点の失業率を4%(これは現時点で既に超えていますが)、2025年末時点の失業率を4.2%と予想していました8。私は、この予想値が2024年、2025年ともに更に高い水準に引き上げられるとみています。どの程度引き上げられるかによって、FRBが労働市場の軟化をどの程度と予想しているかがわかるでしょう。失業率は上昇しているものの、私は、最近の成長率改善を反映し、FRBの2024年のGDP成長率見通しが小幅に上方修正されると予想しています。FRBが2025年のGDP成長率見通しを下方修正すれば懸念が生じますが、私はその可能性は低いと考えています。私はむしろ、FRBが2025年のGDP成長率見通しを上方修正するのではとの希望を持っています。興味深いことに、1995-1996年の緩和サイクル(この直前が、景気後退につながらなかった最も直近の引き締めサイクル)開始後、GDP成長率は大幅に上昇しました。1996年の再現を期待する訳ではありませんが、私は、特に生産性の向上と技術革新の継続により、FOMCメンバーの中には、より前向きな成長見通しを予想する者もいるだろうと考えています。それは私の夢物語かもしれませんが、成長率見通しを注視していきたいと考えています。
  • インフレ見通し:前述したように、米国のインフレへの懸念は、わずか数週間の間に大きく低下しました。とは言え、FRBがいつ目標のインフレ率を達成すると予想しているか知ることは、依然として重要です。FRBは「経済予測サマリー」で、ヘッドライン個人消費支出(PCE)価格指数とコアPCE価格指数の両方の見通しを発表する予定です。6月時点の予想では、FRBは、コアPCE価格指数の上昇率がFRBの目標の2%まで下がるのは2026年になると予想していました8。私は、今夏にディスインフレが大幅に進展したことを受け、この時期が早まる可能性があると考えています。
  • 記者会見:パウエルFRB議長が記者会見で米国経済の現状について何を語るかによっては、近々景気後退を懸念する人々にとって信頼感の醸成につながるでしょう。7月の記者会見でパウエル議長は、経済に弱さは見られないと述べ、足元の経済について2019年の状況になぞらえて言及しました。今週も似たような発言が予想されますが、経済の弱含みに対する一定の懸念が示唆される可能性は常にあります。また、今後の利下げの見通しに関するパウエル議長の考え方、特にどのような条件が方針転換(緩和の減速あるいは加速)の引き金になり得るのかについて知ることは重要です。これらはドットプロットからは読み取れないため、記者会見はまさに「必見のテレビ番組」となるでしょう。

今週行われる世界の中央銀行の決定

  • イングランド銀行:コンセンサス予想では、既に利下げを1回実施し、経済状況も比較的堅調なことから、イングランド銀行は今週の会合で金利を据え置くとみられています。しかし、賃金の伸びやサービスインフレの面で著しいディスインフレの進展が見られることから、再度の利下げの可能性を完全に否定するものではありません。
  • 日銀:最近の市場の混乱に鑑みて、日銀が今週の会合で追加利上げを行わず、据え置くとのコンセンサス予想に同意します。今会合での利上げ見送りは、慎重かつ適切と思われます。利上げが10月の会合で決定される可能性はありますが、12月会合で決定される可能性の方がはるかに高いとみられます。
  • ノルウェー銀行(中央銀行) :ノルウェー銀行は利下げを頑なに拒んでいます。従来の見方では、12月まで利下げは行われないだろうと見られてきましたが、他の主要中央銀行が1回を超えて利下げを行い、FRBも利下げを開始する構えを見せている今、今週の会合で利下げが決定される可能性はわずかながらあると考えられます。特に、インフレがノルウェー銀行の予想を上回るペースで低下したことを考えれば、尚更です。もし利下げが行われれば、世界中の多くの中央銀行が緩和開始に着手しつつある流れを強める、象徴的な出来事となるでしょう。

結論

まとめると、FRBが今週利下げを決定するための道筋は整っており、間違いなく世界的な緩和サイクルが新たな局面を迎えることになるでしょう。しかし、そこからリスク資産が順風満帆に推移すると安直に想定するべきではありません。米政府機関閉鎖の可能性、米大統領選挙の行方、中央銀行による緩和の道筋、そしてもちろん、主要国でそれぞれどのような着地が見られるか等、市場のボラティリティを高める不確実性は依然として大きく残っています。そのため、経済の健全性に関して示唆を与えるデータが市場に与える影響は、今後はるかに大きくなり、短期的にはボラティリティを上昇させるだけでなく、投資スタイルや投資対象セクターのローテーションにも影響を与えると考えています。

注目の日程

公表日 指標等 内容
9月16日 ユーロ圏労働コスト指数 労働者の雇用に必要な総コストを
時間単位で追跡
9月16日 ニューヨーク連銀製造業景気
指数
ニューヨーク州の製造事業者についての
月次調査
9月17日 ドイツZEW景況感指数 今後6カ月間のドイツの景況感を測定
9月17日 米国小売売上高 小売セクターの健全性を示す
9月17日 米国鉱工業生産指数 鉱工業セクターの健全性を示す
9月17日 カナダCPI インフレの動向を示す
9月17日 米国住宅建築業者協会(NAHB)
住宅市場指数
住宅市場の健全性を示す
9月17日 ニュージーランドWestpac消費者
信頼感指数
経済活動に対する消費者信頼度の
変化を測定
9月18日 英国CPI インフレの動向を示す
9月18日 ニュージーランド国内総生産 地域の経済活動を測定
9月18日 英国住宅価格指数 住宅市場の健全性を示す
9月18日 ユーロ圏CPI インフレの動向を示す
9月18日 英国PPI(生産者物価指数) 生産者に対して支払われる財・サービスの
価格変化を測定
9月18日 カナダ銀行会合議事要旨 中央銀行の意思決定プロセスについて更なる
洞察を与える
9月18日 FOMC 金融政策決定 金利の道筋に関する最新の決定を発表
9月18日 ブラジル中央銀行金融政策決定 金利の道筋に関する最新の決定を発表
9月19日 イングランド銀行金融政策決定 金利の道筋に関する最新の決定を発表
9月19日 ノルウェー銀行金融政策決定 金利の道筋に関する最新の決定を発表
9月19日 南アフリカ準備銀行金融政策決定 金利の道筋に関する最新の決定を発表
9月19日 米国中古住宅販売件数 住宅市場の健全性を示す
9月19日 英国GFK消費者信頼感指数 英国の消費者の足元と今後12か月間の家計と
経済に関する見方を追跡
9月19日 日本CPI インフレの動向を示す
9月19日 日銀金融政策決定 金利の道筋に関する最新の決定を発表
9月20日 英国小売売上高 小売セクターの健全性を示す
9月20日 ドイツPPI(生産者物価指数) 生産者に対して支払われる財・サービスの
価格変化を測定
9月20日 カナダ小売売上高 小売セクターの健全性を示す
9月20日 カナダ原材料価格指数 カナダで操業する製造事業者が購入し加工する
原材料の価格変化を測定
9月20日 ユーロ圏消費者信頼感指数 消費者の家計と経済に対する見方を追跡
  • 1.出所:ブルームバーグ、2024年9月13日
  • 2.出所:ブルームバーグ、2024年9月13日
  • 3.出所:ミシガン大学消費者調査(速報値)、2024年9月13日
  • 4.出所:ブルームバーグ、2024年9月13日
  • 5.出所:FOMC発表、2024年7月31日
  • 6.出所:FRB経済予測サマリー、2021年12月15日
  • 7.出所:ニューヨーク連銀、2022年12月31日
  • 8.出所:FRB経済予測サマリー、2024年6月12日

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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