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その次の6ヵ月間に何が起こったか?
失業とインフレは現在、1995年当時とは別の場所で起こっている
現在ははるかに大きな利下げが予想されている
今後の展望
注目の日程
この数週間で、米国が景気後退入りを回避し、米連邦準備理事会(FRB)が利下げを開始する可能性が非常に高いことが明らかになりつつあるため、私は1994~1995年の金融引き締めサイクルについて考えることが増えています。当時の引き締めサイクルについては、景気後退をもたらさなかったために、誰もがサクセスストーリーだと認識しているかもしれません。歴史は通常、繰り返しませんが、しばしば韻を踏みます。私は1995年にFRBが利下げに踏み切ったときに市場に何が起こったかを学ぶことで教訓が得られると期待しています。
まず、時間軸を設定することが重要だと考えます1。
では、FRBが7月6日に金融緩和を開始して以降の最初の6ヵ月間に市場で何が起こったのでしょうか。1995年7月6日から1996年1月5日までに以下のことが起こりました。
その次の6ヵ月間(1996年1月5日から1996年7月5日まで)のリターンは総じてさらに低調で、S&P500種指数は上昇しましたが、上昇率は6.6%に低下しました2。小型株の上昇率も低下し、米国以外の株式も同様でした2。さらに債券価格も下落しました。この期間はグロース株がバリュー株をアウトパフォームし、セクター別では(S&P500種のハイテクセクターのリターンが15.10%となったことが示すように)ハイテク株のリターンが最も高くなりました2。私の理解では、当時の0.75%の利下げがもたらしたリスク資産押し上げ効果は限定的です。
1994~1995年の金融引き締めサイクルは 「予防的 」なものであったことには、注意する必要があります。つまり、インフレ率は比較的低かったものの、FRBは労働市場の逼迫によりインフレ率が大幅に上昇することを懸念していたのです。アラン・グリーンスパンFRB議長(当時)が1997年の議会証言で説明したように、「金融政策が経済活動に与える影響の遅れを認識し、インフレ圧力が高まる可能性に対して予防的に対応することが政策の重要な特徴となりました。その結果、このアプローチは予測を政策決定においてさらに重要な位置づけに引き上げたのです」3。
FRBが1994年2月に金融引き締めを開始したときの失業率が6.5%だったのに対し、1995年2月に金融引き締めを終了した時点で失業率は5.4%に低下していました。このことは、金融政策にかなりのタイムラグがあったことを示唆しており、グリーンスパン元FRB議長が指摘したことでもあります4。FRBが金融緩和を開始した1995年7月の失業率は5.7%でしたが3、1996年1月に金融緩和を終了したときの失業率は実際にはやや上昇して5.8%となっており、このこともタイムラグの影響を示しています4。
2022~2023年の金融引き締めサイクルは、予防的とは程遠く、受動的で全く遅過ぎたものだったと言えるでしょう。インフレ率は大幅に上昇していましたが、当初は一時的なものとして無視され、FRBがようやく金融引き締めに着手したのは2022年3月のことでした。しかし、新型コロナ収束後に労働市場が必然的にひっ迫したせいで失業率は大幅に低下したうえ(2022年3月は3.6%)4、新型コロナ対策のおかげで多くの財政刺激策が実施されました。さらに、米国の多くの消費者は、低金利の長期固定住宅ローンを利用して既に融資を受けたまたは借り換えた住宅を保有していたため、積極的な金融引き締めの影響をより受けにくい立場にありました。
私の結論は、1995 年当時の経済状況は現在と異なり、失業率は現在よりも高く、消費者の回復力も低かったというものです。つまりFRB は、米国経済の圧力に耐える能力が高まっているようにみえるため、直近のサイクルではより引き締め的な金融政策をとったのです (1994~1995年における利上げ幅が3%だったのに対し、2022~2023年における利上げ幅は5.25%)。しかも、現在の利下げ予想は大きく異なるものとなっており、2025年の利下げ幅は約 2%と見込まれています5。これは、1995 年 7 月から1996年1月にかけてFRBが実施した0.75%という控えめな利下げと比べ、今後数ヵ月間でリスク資産にはるかに大きな押し上げ効果をもたらすと思われます。こうした目下の環境を踏まえると、市場は2024年後半または2025年初めに経済が再加速するとの予想を織り込む可能性が高く、その結果としてリスク資産が力強いパフォーマンスを示す(具体的には少なくともシクリカル株と小型株がアウトパフォームする)と私は予想しています。また、米ドル安も予想しており、これは米国以外の株式に追い風となる可能性があります。さらに、債券(特にハイイールド債と地方債)、および不動産投資信託(REIT)が上昇すると予想しています。
とはいえ、それぞれの金融政策や経済環境には違いがあるため、それぞれの市場環境にも違いがあることは認識しなければなりません。今後数週間は、特にFRBの9月の会合と、繰り返しになりますが11月の大統領選挙に向けて、弱い経済データへの反応として市場のボラティリティが大幅に高まったり多少の売り越しが起こったりしても、意外ではありません。景気に関する「悪いニュース」はもはや株価にとっての「良いニュース」とはならず、単なる「悪いニュース」と受け止められているのですから。
今週は、労働市場のひっ迫度を把握するのに役立つ、いくつかの国の購買担当者景気指数(PMI)と米国の求人労働異動調査(JOLTS)が発表されます。私は個人的に地区連銀経済報告(ベージュブック)の大ファンで、貴重な洞察が得られることが多いので必ず読むようにしています。今週開催されるカナダ銀行の会合では再び利下げが決定されると期待しています。そうすれば、FRBはより安心して金融緩和の開始に踏み切ることができるでしょう。
今週発表される経済データの中で最も注目されるのは金曜日(9月6日)の米国雇用統計となる見込みで、市場は既にこのデータに対する緊張感を示しています。雇用統計の中で最も重要な指標は賃金の伸びであり、私はそれが比較的低調なものになると予想しています。ただし、雇用統計がどのような内容であってもFRBが9月の利下げを断念することはないということは、いくら強調してもし過ぎることはありません。FRBによる利下げ幅は0.25%とどまると予想していますが、それは非常に大規模な金融緩和サイクルの始まりに過ぎない可能性が高いとみています。そして、1995~1996年の金融緩和サイクルが参考になるとすれば、リスク資産にとって好ましい環境が今後数ヵ月で整う可能性が高いと考えています。
公表日 | 指標等 | 内容 |
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9月3日 | 米国製造業PMI | 製造業の経済の健全性を示す |
9月3日 | 米国ISM製造業PMI | 製造業の経済の健全性を示す |
9月3日 | カナダ製造業PMI | 製造業の経済の健全性を示す |
9月3日 | 中国製造業PMI | 製造業の経済の健全性を示す |
9月4日 | ユーロ圏製造業PMI | 製造業の経済の健全性を示す |
9月4日 | 英国サービス業PMI | サービス業の経済の健全性を示す |
9月4日 | ユーロ圏生産者物価指数 | 生産者に対して支払われるモノ・サービスの 価格変化を測定 |
9月4日 | ブラジル鉱工業生産 | 鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
9月4日 | カナダ銀行金融政策決定会合 | 金利の軌道に関する直近の決定を発表 |
9月4日 | 米国雇用動態調査(JOLTS) | 求人、雇用、離職に関連するデータを集計 |
9月4日 | 韓国国内総生産 | 地域の経済活動状況を測定 |
9月4日 | 米地区連銀経済報告 | 連邦準備制度理事会の12の地区のそれぞれに おける現在の経済状況に関する事例調査結果 に基づく情報を要約 |
9月5日 | ユーロ圏小売売上高 | 小売セクターの健全性を示す |
9月5日 | 米国サービス業PMI | サービス業の経済の健全性を示す |
9月5日 | 米国ISM非製造業PMI | サービス業の経済の健全性を示す |
9月5日 | 日本の家計調査(家計収支) | 日本の住宅市場の健全性を示す |
9月5日 | 米国雇用統計 | 雇用市場の健全性を示す |
9月5日 | ユーロ圏雇用統計 | 雇用市場の健全性を示す |
9月5日 | ユーロ圏国内総生産 | 地域の経済活動状況を測定 |
9月5日 | カナダ雇用統計 | 雇用市場の健全性を示す |
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2024-111